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2009.12.3
・群雲前編最終話をアップ
・拍手返礼に一件お返事を追加しました。
2009.12.1
・群雲前編第四十一話アップ
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2009/12/3
群雲前編42−信長x光秀恋物語− 光秀公記
『群雲前編最終話』
「ええーいどこへ言った、探せ、探し出すのだ!」
一階へ戻ると、湯殿での小細工が露見したのか、先ほどより兵が増えていた。光秀と弥平次は兵達の目に入らぬよう納戸へと一旦身を潜めた。
光秀に騙されたとあって義龍は血眼になって此方の行方を探っていることであろう。まさに敵陣真っ只中、弥平次を牢から助け出したとは言え、この城を抜けるのは容易ではない。
そうだ弥平次だ。殴る蹴るの暴行を受けた彼は、このままでは否が応にも目を引く。なんとか彼を隠さなくては。
光秀は納戸の中を漁り、女物の内掛けを引っ張り出すと弥平次にそれを頭から被らせた。
「弥平次、厩まで少し走ります。ついて来られますか?」
ハァハァと荒い息を繰り返す弥平次を振り返って訊ねた。ままならない身体をどうにか動かし、弥平次がこくんと頷く。しかしその瞳には力がない。
弥平次の額に手を伸ばした光秀は、あっと声を失った。すごい熱だ、このままでは命に関わる。すぐにでも医者に診せる必要がある。
「もう少しの辛抱です、弥平次。私はけして貴方を死なせはしない!」
納戸から飛び出すと、光秀は灯り皿の火を矢に移し、天主の屋根目掛けて一矢二矢と続けざまに放った。見る間に火が天主の柱や屋根を焦がす。
「火事だ、敵襲だ!」
「夜討ちじゃ、急ぎ兵を集結させろ!」
燃え上がった天主の屋根を見上げ、城内は右往左往の大騒ぎ。光秀はその混乱に乗じて天主を抜け出し厩へと走った。厩に繋がれていた愛馬を見つけ出すと、優しく鼻面を撫でてやり、愛馬の背に弥平次を載せる。次いで自分も後ろから弥平次を抱き締める形で馬に跨った。
「頼みますよ、我らの命運は貴方にかかっています」
ブルブルと鼻を鳴らす愛馬にそう言い聞かせ、光秀は勢いよく馬の腹を蹴った。
険しい山道を夜陰に乗じて駆け下りる。逃げ出した光秀を連れ戻せと、無数の篝火が焚かれ、兵達が山狩りをしている。
天主から迫ってくる魔手を振り切ろうと、光秀は馬に鞭くれて疾風のごとき勢いで城門目指し下って行く。
「弥平次、しっかりなさい。死んではなりませんよ!」
腕に抱いた弥平次の身体は燃えるように熱い。すでに意識がないのか、呼びかけにも応じない。
「弥平次……弥平次!」
手綱を取る手に力が入る。幼き日より寄り添って来た弥平次の顔が走馬灯のように浮かぶ。
幼き日、光秀の膝の上で猫の子のように丸まってすやすやと眠っていた弥平次、小姓になり懸命に仕事をこなそうと奮闘していた弥平次、光秀に好きだと告げた男の顔をした弥平次、どの弥平次も愛しくて失いたくない!
熱病のような恋とは少し違う。大切な家族を想うような温かく優しい気持ち。
弥平次を死なせたくない一心で、闇夜の中を光秀は必死に馬で駆けた。
「待て、貴様何者だ!」
「馬止めい! ええい、馬を下りぬか!」
疾風怒濤の勢いで天主から一気に山を下った光秀の前に稲葉山城の城門が見えて来た。天主より連絡を受けているのか兵達が束になって光秀を止めようとする。兵達が一斉に矢を番えるが、光秀は反対に素早く矢を射かけ、兵達の間を突破して行く。
「いかん、急ぎ門を閉めよ! 城の外へ出してはならぬ!」
怒号飛び交う中、屈強な男達が重い稲葉山城の門を押す。じょじょに閉じられていく門をキッと見据え、光秀は馬を急き立てた。
(どうか、間に合ってくれ――!)
「!」
神への祈りが通じたのか、ほんのわずかな隙間を馬は見事な跳躍で駆け抜けて行った。一瞬置いて、門が閉まりきる音が聞える。
助かったのだ! 稲葉山を抜ける、皆の待つ明智の城へ!
「待てぇー、行かせてなるものか!」
安心したのも束の間、ヒュっと無数の矢が風を斬る音が耳に響いた。あっと思った時には遅かった。放たれた矢のうちの幾本かが、光秀の背に無情にも突き刺さった。
「クゥっ」
鮮烈な傷みに意識を失いそうになる。夜風に血の匂いが広がる。死の恐怖が光秀を襲う。
(こんなところで、死んでなるものですか!)
まだ朽ち果てるわけにはいかない。自分は弥平次を無事に明智の城まで送り届けねばならない。それに、まだ――
(信長様!)
この地で死ぬかもしれないと思った刹那、信長の笑顔が光秀の胸を独占した。自分が死んだらあの人も少しは悲しいと思ってくれるだろうか? 自分のために泣いてくれるだろうか? それとも顔も見たくないほど憎い光秀が死んで清々するのだろうか?
嫌だ、このまま終われない、死にたくないと、光秀は強く思った。
光秀にはこの世に未練が多すぎる。一目でいいから信長に会いたい。せめて、信長に最後の口づけを!
光秀は手綱を己が手にグルグルと巻きつけた。なんとしても生きて明智の城に帰り着いてみせる。
朦朧とする意識の中で光秀は信長を想っていた。
群雲前編了 後編へつづく
応援よろしくです♪↓↓

群雲前編が終了しましたぁ。どこで区切るか悩んだのですが、疲れてしまったので、とりあえず前半戦はここまでということで。前編にお付き合い下さり、ありがとうございましたぁ。なにかと忙しかったりするので、しばらくはお休みすると思います。又後編再開しましたら、遊びにいらして下さい。
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「ええーいどこへ言った、探せ、探し出すのだ!」
一階へ戻ると、湯殿での小細工が露見したのか、先ほどより兵が増えていた。光秀と弥平次は兵達の目に入らぬよう納戸へと一旦身を潜めた。
光秀に騙されたとあって義龍は血眼になって此方の行方を探っていることであろう。まさに敵陣真っ只中、弥平次を牢から助け出したとは言え、この城を抜けるのは容易ではない。
そうだ弥平次だ。殴る蹴るの暴行を受けた彼は、このままでは否が応にも目を引く。なんとか彼を隠さなくては。
光秀は納戸の中を漁り、女物の内掛けを引っ張り出すと弥平次にそれを頭から被らせた。
「弥平次、厩まで少し走ります。ついて来られますか?」
ハァハァと荒い息を繰り返す弥平次を振り返って訊ねた。ままならない身体をどうにか動かし、弥平次がこくんと頷く。しかしその瞳には力がない。
弥平次の額に手を伸ばした光秀は、あっと声を失った。すごい熱だ、このままでは命に関わる。すぐにでも医者に診せる必要がある。
「もう少しの辛抱です、弥平次。私はけして貴方を死なせはしない!」
納戸から飛び出すと、光秀は灯り皿の火を矢に移し、天主の屋根目掛けて一矢二矢と続けざまに放った。見る間に火が天主の柱や屋根を焦がす。
「火事だ、敵襲だ!」
「夜討ちじゃ、急ぎ兵を集結させろ!」
燃え上がった天主の屋根を見上げ、城内は右往左往の大騒ぎ。光秀はその混乱に乗じて天主を抜け出し厩へと走った。厩に繋がれていた愛馬を見つけ出すと、優しく鼻面を撫でてやり、愛馬の背に弥平次を載せる。次いで自分も後ろから弥平次を抱き締める形で馬に跨った。
「頼みますよ、我らの命運は貴方にかかっています」
ブルブルと鼻を鳴らす愛馬にそう言い聞かせ、光秀は勢いよく馬の腹を蹴った。
険しい山道を夜陰に乗じて駆け下りる。逃げ出した光秀を連れ戻せと、無数の篝火が焚かれ、兵達が山狩りをしている。
天主から迫ってくる魔手を振り切ろうと、光秀は馬に鞭くれて疾風のごとき勢いで城門目指し下って行く。
「弥平次、しっかりなさい。死んではなりませんよ!」
腕に抱いた弥平次の身体は燃えるように熱い。すでに意識がないのか、呼びかけにも応じない。
「弥平次……弥平次!」
手綱を取る手に力が入る。幼き日より寄り添って来た弥平次の顔が走馬灯のように浮かぶ。
幼き日、光秀の膝の上で猫の子のように丸まってすやすやと眠っていた弥平次、小姓になり懸命に仕事をこなそうと奮闘していた弥平次、光秀に好きだと告げた男の顔をした弥平次、どの弥平次も愛しくて失いたくない!
熱病のような恋とは少し違う。大切な家族を想うような温かく優しい気持ち。
弥平次を死なせたくない一心で、闇夜の中を光秀は必死に馬で駆けた。
「待て、貴様何者だ!」
「馬止めい! ええい、馬を下りぬか!」
疾風怒濤の勢いで天主から一気に山を下った光秀の前に稲葉山城の城門が見えて来た。天主より連絡を受けているのか兵達が束になって光秀を止めようとする。兵達が一斉に矢を番えるが、光秀は反対に素早く矢を射かけ、兵達の間を突破して行く。
「いかん、急ぎ門を閉めよ! 城の外へ出してはならぬ!」
怒号飛び交う中、屈強な男達が重い稲葉山城の門を押す。じょじょに閉じられていく門をキッと見据え、光秀は馬を急き立てた。
(どうか、間に合ってくれ――!)
「!」
神への祈りが通じたのか、ほんのわずかな隙間を馬は見事な跳躍で駆け抜けて行った。一瞬置いて、門が閉まりきる音が聞える。
助かったのだ! 稲葉山を抜ける、皆の待つ明智の城へ!
「待てぇー、行かせてなるものか!」
安心したのも束の間、ヒュっと無数の矢が風を斬る音が耳に響いた。あっと思った時には遅かった。放たれた矢のうちの幾本かが、光秀の背に無情にも突き刺さった。
「クゥっ」
鮮烈な傷みに意識を失いそうになる。夜風に血の匂いが広がる。死の恐怖が光秀を襲う。
(こんなところで、死んでなるものですか!)
まだ朽ち果てるわけにはいかない。自分は弥平次を無事に明智の城まで送り届けねばならない。それに、まだ――
(信長様!)
この地で死ぬかもしれないと思った刹那、信長の笑顔が光秀の胸を独占した。自分が死んだらあの人も少しは悲しいと思ってくれるだろうか? 自分のために泣いてくれるだろうか? それとも顔も見たくないほど憎い光秀が死んで清々するのだろうか?
嫌だ、このまま終われない、死にたくないと、光秀は強く思った。
光秀にはこの世に未練が多すぎる。一目でいいから信長に会いたい。せめて、信長に最後の口づけを!
光秀は手綱を己が手にグルグルと巻きつけた。なんとしても生きて明智の城に帰り着いてみせる。
朦朧とする意識の中で光秀は信長を想っていた。
群雲前編了 後編へつづく
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