「パリのマレー地区文化会館で
開催されたある展覧会に出品された、
ドイツ・ルネサンスの画家
アルブレヒト・デューラーの銅版画
『メランコリア T』(二五×一八センチ)、
この小さな空間に、
わたしは
これまでの絵画という概念を
根底から揺さぶられた。
絵ならざる絵
を視たのである。
画面の中心に、
頬杖をついて考えこむ
翼をもった女性メランコリアを
取り囲むように、
さまざまな物体が点在している。
砂時計、天秤、梯子、彗星、虹、蝙蝠、童子、石臼、葉冠、コンパス、鍵束、財布、定規、鉋、鋸、やっとこ、球体、インキ壺、犬、金槌、海や岬……。
とりわけ、
メランコリアの前後を挟む、
左側の多面体と
右上の魔方陣に
どんな秘密が隠されているのか。
この八面体の奇妙な
幾何学的フォルムは、
なぜか、
デューラーの墓碑のように見える。
魔方陣は、
数字を入れ替えて
制作年代「一五一四」(年)を
暗示しているだけの存在だろうか!」
オクヤナオミ
『余白は芸術に関係がない──が、ひとつのフォルムである』水声社 2008 p.22