やがて、ターンは
「そろそろ帰るよ。・・・君達と友達になれてとてもうれしい。お互い、希望を持って行こう。」
と、腰を上げた。
ハップは、ターンをバイクで家まで送っていくことになり、千夏は一人でカフェに残り、座っていた。
すると、近くの土産屋で働く女性が千夏を見つけ、
「あら、あんた。またここに来てたの?」
と、話しかけてきた。
「ええ。第二の故郷ですから。」
と、千夏が笑うと
「あのさ、ナルンのこと、聞いた?」
「はい。詳しくは聞いてないですけど、誰かに殺されたって・・・。」
「それそれ。背中に大きな切り傷があったらしいね。」
「えっ、そうなんですか?ポールからは顔に切り傷があったと聞いてますけど。」
「そうなの?まぁじゃぁ、どっちにもあったのかしら?・・・あ、私はそろそろ店に戻んなきゃいけない。じゃね、うちの店にも今度寄ってね。」
女性は、いそいそと戻っていった。
カフェはまた千夏一人になったが、すぐに今度は、ハップの姉レイが掃除しに来た。
「千夏、楽しんでる?」
「うん。ハップもターンもこの家族のみなさんも、とってもいい人たちで、大好き。ここは本当に居心地いいわ。」
「そう。良かった。・・・前はよく、カフェの隅っこにナルンが座っていたものだったわね。ハップが出かける準備とかであなたを待たせていると、あなたはよくハップと遊んでくれたわ。」
「ナルンは内気で、あまりなついてはくれなかったけどね。でも、そこの隅っこにちょこんと座っている様子がとてもかわいかった。・・・かわいそうだったわね。」
「ええ。・・・背中に打撲の跡があったの。川に殴り落とされたのね、きっと。」
レイの目が少しうるんだ。
千夏は、首をかしげた。
「外傷は打撲だけ?」
「そうよ。」
「そうなの・・・。」
ポールが言ってた顔のキズとか、土産屋の店員が言ってた背中のキズは、噂についた尾ひれか・・・。千夏はあらためてカンボジア人の噂のいい加減さを感じた。
カンボジア人は人の話を大げさにするし、少しのネタからとんでもない話に発展させてしまう。それでもこの国の人々には邪気が無く、むしろ人が人を好きだから噂が飛び交うのだと、千夏は感じている。この度のナルンのキズに関するデマは、人の不幸をどこかで喜んで誇張されたのかもしれないので、良いことではないのだが、それも人間らしい半面の人間くささ。千夏はそんなカンボジアが嫌いになれなかった。

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