岩登りトレーニング仲間のY女史との話の中で、今元気なうちに北鎌尾根をやらないといくらトレーニングを頑張ったとしても年とともにだんだん難しくなってくるのでは?と言う話で、今年実行しようということになった。
ベテランでアンナプルナをはじめ海外登山の経験豊富な会長S氏に声を掛け、同行してもらうことになった。
北鎌尾根と言えば、若かりし頃読んだ「風雪のビバーク」で知られる松濤 明や「単独行」の加藤文太郎で知られる日本でも代表的なバリエーションルートである。
一日12時間以上の行動、個人の装備のほかにテントや燃料、食料、ロープ等の共同装備を分担して担ぎ足場の悪いルートを歩く為、体力や、岩場の経験、登攀技術やルートを探しながら歩くルートファインディング等が要求される。
同じ岩稜縦走でも登山道のある槍〜穂高の縦走や奥穂〜西穂縦走とは違ったレベルの縦走と言ってもいいかも知れない。
また、登りはじめたら何があっても登るしかないという、エスケープルートがないのでも知られる。
私にとって、一度は行ってみたいコースだったので今回は念願かなった記念すべき山行となった。
9月中旬
参加人員3名(S氏、Y女史、私)
長崎を17時に出発、男2人で深夜交代で運転しながら高速道をひた走り、明け方飛騨清見ICから中部縦貫自動車道を経て高山ICで高速道を下り、高山市街を抜けて国道158号線を走り、約45分で平湯温泉である。
あかんだな駐車場(約800台の駐車スペース)に車を置き、そこから”平湯バスターミナル”へ無料のシャトルバスが出ており”バスターミナル”から約25分で”上高地”着である。
私は2年ぶりの上高地であるが、休日明けにも拘わらず相変わらず人出は多い。
登山者以外に上高地散策や観光だけのツアー客等バスターミナルは勿論、道路も土産売り場も人人人である。
ここで備え付けの箱に”登山届”を提出。
上高地から望む岳沢と穂高連峰
上高地から明神岳(2,931m)
前穂岳(3,090.2m
1泊目=横尾
予定ではババ平まで行くことになっていたが、時間切れで横尾のキャンプサイトで幕営することになった。
横尾から見る前穂岳
前穂岳のモルゲンロート↓
梓川上流、槍沢の流れに沿って登る
ババ平テント場
大曲より槍沢上部の紅葉
真っ直ぐ行くと槍ヶ岳、ここを右に急登すると水俣乗越である。
槍沢上部の紅葉
中岳、南岳方向 中央凹所が天狗原になる
大曲から水俣乗越まで、急登である。いよいよ今回の北鎌尾根攻略のスタートである。
荷を少しでも軽くする為にこれから先不要と思われるもの、フリース、軽アイゼンといった衣類、装備、食べないと思われる食料等をザックから出して雨対策のため大きなビニール袋などに入れてひと目につきにくいところにデポする。
水俣乗越から下りて来る登山者と出会い、今朝北鎌尾根で滑落事故がありヘリが飛んでる話を聞き、乗越に出ると新しい道標の埋設作業をしている係りの人がいたので確認する。 千丈沢側らしく時折ヘリの音が聞こえてきていた。
水俣乗越は槍ヶ岳から伸びる東鎌尾根の途中にあり、水俣乗越から大曲に下りるルートは表銀座のいわばエスケープルートにもなっている。
地図右下、大曲から急登して登りきると水俣乗越に出る
この地図は水俣乗越からスタートです。
クリックして大きくしてご覧下さい。
約1時間半の急登の後は水俣乗越を頂点に今度は天井沢に向かって急なガレ場を下りることになる。 ガラガラ崩れるガレ場を慎重に下る。
正面の尾根は北鎌尾根の下部になる。右下は天井沢
槍ヶ岳に続く北鎌尾根上部
明日はこの尾根のほぼ稜線を歩くことになる。
水俣乗越を下りきると更に長い天井沢の下りになる。
天井沢を下り北鎌沢右俣の出合い(13時15分)で軽い昼食。またここから北鎌沢右俣を登ることになる。いよいよ北鎌に取り付くことになるのだが、ここからまた道なき大きな石のガレ場を急登することになる。
北鎌沢上部から登ってきた沢を振り返る。
ここで水を各自ペットボトルに2Lとテルモスに給水する。
これから先は水がないのだ。
北鎌沢上部より大天井岳(左)、稜線は喜作新道
北鎌のコル着(17時15分)
この急登はかなりきつく、標高差は640mあり体力勝負のところである。 私はかなりペースダウン、二人の足を引っ張る形になり、コル着が大きくずれてしまった。
コルはダケカンバの樹林帯で、テントが2張り出来る位のスペースがあり、ここで幕営する。
2泊目=北鎌のコル
テントを張ったすぐ傍に「かえらざる碑」が岩に埋め込まれていた。昭和31年4月に遭難、まだ21歳の若さであった。
今朝出発してきた北鎌のコルを振り返る
北鎌尾根から北西方向を望む。
手前の尾根は硫黄尾根、後方の尾根は槍ヶ岳西鎌尾根から伸びる裏銀座尾根
正面は”天狗の腰掛”(=P9)(2,749m)
この辺りはまだ紅葉が見られルートもハッキリしている。
天狗の腰掛の紅葉↓
アッと言う間にガスに消えた天狗の腰掛
雷鳥がお出迎え
よく見ると冬に備えてか白い毛が混じってきている。
独標(=P10)(2,899m)
千丈沢側にハッキリしたトラバースルートがある。
独標を通過するには直登するルートと千丈沢の方にトラバースするルートがあるが、直登は主に雪崩の危険を避けるため冬の積雪期に使われるそうで、今回はトラバースルートをとった。
不安定なザレ場を気を付けながら行くと、道を遮るように庇状の岩が飛び出しているところに出る。 2,3歩なのだが切れ落ちた千丈沢側に体が飛び出して不安定になるのだ。 ここがトラバースルートの核心とも言える箇所である。
1段下にしっかりした足場があるのだが、ザックが岩に当たりバランスを崩したりする危険がある。滑落すると確実に千丈沢まで一直線である。安全のためロープで確保して通過した。
ここからしばらくバンドをトラバースして稜線を目指して岩場を登る。
P11からP15まで小さな痩せた岩稜が続く。いづれも岩が脆く、細心の注意が必要だ。
東鎌尾根 昨日越えてきた水俣乗越も見える。
後ろは常念岳(2,857m)
北鎌尾根から望む槍ヶ岳
槍ヶ岳を目の前にルートが分らず、時間切れとなりテントが張れる場所まで少し戻る。
ビバーク地点より槍ヶ岳 右端に槍の穂先が見える
右端から小槍、孫槍、曾孫槍、本峰です。
3泊目=北鎌平近く
山の怪談?
食事を済ませ寝袋に潜り込んだが、疲れているはずなのになかなか寝付けない。
どれくらい時間が過ぎただろうか。 突然テントの外で「アラ〜ァ」と女性の声。こんなところにテントが・・・と言わんばかりの驚いたような声が・・・。続いて「フフフ・・・」と男の笑うような声。
テントをもう一張り張れるように我々のテントを動かさないといけないのかな〜。それにしても何で真っ暗な今頃? しかもどんなベテランでも暗い北鎌尾根の岩場を歩けるはずがない。 テントのすぐ外だから足音がするはずなのに全く静かなのだ。 エッこれって他人から聞いたことがある”山の怪談?” ジッと息を殺して耳を澄ます。
他の2人もまだ眠ってなく同じ様に聞いていたようだ。
何分経ったろうか、遠くで大勢の男女の合唱が聞こえてきた。
三俣蓮華の山荘の音かそれとも槍ヶ岳山荘の音か分らないが、夜の冷えた空気による音の伝播の仕業か。 それにしても三俣山荘は灯が正面に見えていたが直線でも6,7Kmはある。槍ヶ岳山荘が最も近いが山を越えて来たか?
深夜、雨と風が激しくテントを叩きつける音で目を覚ます。
明日行動できるか心配だ、このまま停滞か? ここで雷が鳴ったら最悪だな〜等と考えていたら寝つきが悪かったせいか、昨日の疲れのせいかいつの間にか眠ってしまっていた。
5時起床、昨夜降った雨がウソのように岩稜は乾いていたが、風は強く冷たい。
お蔭でテントもフライも完全に乾いていて撤収がしやすかった
。
簡単な朝食を済ませ、6時20分出発。
先頭を行くS会長が熊の足跡を発見。
先日乗鞍で熊出没で被害があったばかりだけど、ここでも登山者が残していく食料が目当てなのか? それにしてもこの岩ばかりの山によく来たもんだ。
下から見上げた槍ヶ岳
槍ヶ岳途中から千丈沢
雲湧く東鎌尾根
槍途中から北側を望む
裏銀座の山々、中央奥は立山,剣、黒部方面 手前は硫黄岳
今まで登ってきた北鎌尾根を振り返る
左下に独標が小さくなった。右は大天井岳(2,921.9m),左奥に燕岳から表銀座の山々
槍ヶ岳から伸びる東鎌尾根,その向こうに常念岳(2,857m)が高く見える。
槍ヶ岳上部を行く
トップS会長がセカンドY女史をビレー
ここを抜けると山頂だ

ヤッター! 北鎌尾根! ついに槍ヶ岳山頂にでた。(11:05)
狭い山頂は一般登山道からの登山者で溢れていた。
あいにくガスがかかり眺望は無しでした。
山頂から槍ヶ岳山荘
槍沢のカール 赤い屋根は殺生ヒュッテ
槍ヶ岳山荘から
槍ヶ岳山荘着(11:25) 缶ビールで「乾杯!」
思い出多き北鎌尾根、槍ヶ岳を振り返りつゝ後にする
カールの紅葉
槍ヶ岳山荘(12:15)→(15:30)ババ平→(17:00)横尾(17:10)→(19:30)徳沢
横尾まで急いだが上高地からの最終バスには間に合わないことが分る。
ひとまず徳沢まで行く事になり暗くなりかけた道を急ぐ。
徳沢に着いた頃はもう既に暗闇の中、キャンプサイトで最後の幕営。
4泊目=徳沢園
徳沢園
建物が周りの風景に溶け込み絵になる風景だ
明神橋
上高地の秋は今から
岳沢 奥穂から西穂への稜線
先日ジャンダルム付近でヘリの事故が発生した
(稜線の左端に小さくポツンと飛び出しているのがジャンダルム)

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右から前穂、奥穂、西穂へ続く岩の稜線
河童橋に近づくと人が多くなり、山の基地から観光地へ様変わりである。
平湯で温泉に浸かり、5日間の汗と疲れをとり、時間があったので高山観光をして、長崎への帰路につく。
費用は一人当たり1.8万円とかなり格安で出来た。
今回の北鎌縦走は同行の2人に大変お世話になったし、またお蔭で念願の北鎌縦走が完遂できた。生涯での貴重な山行経験となった。
お二人に感謝の意を表したいと思います。