「木山事務所/別役実祭り『不条理ドタバタ喜劇≪やってきたゴドー≫』」
出演:山崎清介、内田 稔、楠 侑子、三谷昇、林 次樹、 内田龍磨、橋本千佳子、木村万里、千葉綾乃、女部田裕子 一般:5,000円 学生:3,500円 (全席指定・日時指定・税込)
---------------------------------------------
作:別役実(新作書下ろし) 演出:末木利文 美術:石井みつる 照明:森脇清治 音響:小山田昭 衣裳:樋口 藍 舞台監督:小笠原響 制作担当:松井伸子 制作:木山潔 主催:木山事務所
---------------------------------------------
2007年3月24日(土)〜31日(土)/俳優座劇場/http://www1.odn.ne.jp/kiyama-co/
「日本の不条理劇」と聞いて、まっさきに思い浮かぶ別役実さん。130作にも及ぶ作品を創作されていて、70歳になられた今年、新旧3作を俳優座劇場で上演する「別役実祭り」の開催が決定。今作は別役さんによる新作書き下ろしで、なおかつこのお祭りの記念すべき第一弾にあたります。

『ゴドーを待ちながら』とは1940年代の終わりにかけて、劇作家サミュエル・ベケットによって書かれた不条理劇です。副題は「二幕からなる喜悲劇」。ほとんど人通りのない寂しい田舎道で、来る日も来る日も「ゴドー」という男を待ち続ける男2人。その男の名は、ウラディミールとエストラゴン。しかし2人がいくら待とうとも、結局ゴドーはやってこない。それでも2人はその田舎道に留まり続けるのだった・・・。さまざまな劇作家に影響と与えたといわれていて、「不条理劇」といえば「ベケット」、「ベケット」といえば「ゴドーを待ちながら」といった感じですよね。さて、今回の脚本を手がけられた別役さんも、ベケットの影響を受けた1人だとか。そんな別役さんの新作は、その名も「やってきたゴドー」。そうなんです、ついにゴドーがついにやってくる!という超話題作です。しかも「不条理ドタバタ喜劇」という副題つきなので、これは行かなければ・・・と意気込んで劇場へと向かいました。上演時間は1時間45分弱ノンストップ、という比較的丁度良い時間。
戯曲がとにかく面白かったです。ベケットの原作をしっかりと根底に置きつつ展開しますが、別役的な新しいゴドーの世界が劇場に誕生していました。もう一般的な脈略とか理屈とかがまったく通じない、ユーモアたっぷりの笑える「不条理劇」に仕上がっているんです。そもそも別役さんの「不条理劇」は堅苦しい想像をしがちでしたが、すごくユーモアに溢れていて、なおかつ笑いのある作品が多いんですよね。僕はKERAさん演出による『病気』の模様を映像で拝見して、「別役さんの作品ってこんなに笑えるんだっ!」と軽く衝撃を受けたことを思い出しました。でも笑いだけが強調されているのではありません。不条理かつ不可思議な物語の展開から、人間の普遍的な可笑しさや恐怖が伝わってきました。もちろん全部を理解出来ているわけではないのですが、自分の心にじんわりと、でも力強く響くものがあったのは確かです。たとえ理屈や意図や意味が分からなかったとしても、作品自体を「面白い!」と感じることができれば、僕はそれで良いと思うし満足に感じます。
ただ末木利文さんの演出については、まだ可能性が広がる気がしました。魅せられる場面も確かに存在しているものの、全体的に平坦な感覚が拭えないまま終演してしまって・・・。平坦な演出を否定するのではないのです。もう少し何かしら突出した個性みたいなものがあっても、良いんじゃないかな?と心の隅で思ったりしました。でも奇抜さを狙わずに、言葉は少し悪いかもしれませんが、いわゆる無難に仕上げているのは、戯曲の面白さを生かす上でも良かったのかも知れないですね。でも今作はもっと笑えると思いましたし、怖さや深さも更に増すことが出来る気がしました。不条理劇は演じる側も難しい気がしますが、役者さんは観客の期待に応えていたと思います。不条理な世界を誇張に表現するのではなくて、あくまでも日常的に淡々と演じているので、それが逆にこの不可解な世界を効果的に演出しています。僕は特にラッキー役・三谷昇さんに釘付けでした。
★下記のレポートには、ネタばれが含まれております。どうぞご注意ください。
俳優座劇場の舞台が若干ですが張り出してあり、良い意味で殺風景な風景が広がっていました。さて、簡易かつシンプルな印象を持つ舞台美術(石井みつる)に仕上がっています。右手にはバス停の標識とベンチが置いてあって、左手には木の懐かしい電信柱が立っているだけでした。奥は大きなホリゾント幕になっていて、開演前は灰色と薄緑色が混じった照明が照らしています。電柱やベンチにも真四角の白い照明があたっていて、シンプルだけど渋い空間にすっかり魅せられていました。僕は「これなら本番も期待できる!」と内心思っていたものの、そんな期待は開演して脆くも崩れ去ってしまう結果に・・・。個人的に渋いと思って惹きこまれていたホリゾント幕ですが、本番ではカラフルな色使いの安っぽい照明に切り替わってしまいました。転換の場面は落ち着いた良い雰囲気の照明に切り替わり、夜の場面では大きな丸い月が登場していたのが印象的でしたね。
まず、ゴドー(山崎清介)の飄々とした登場場面で爆笑でした。「あの、ゴドーですけど」と普通に登場してくるんです。しかしウラディミール(内田龍磨)とエストラゴン(林次樹)は、待ち侘びた彼の登場に全くといって良いほど関心を示しません。原作では2人のもとにゴドーが登場すれば、彼らは救われるはずだったのに・・・。2人とも既にそんなことは忘れているのに待ち続け、ゴドーも人を救う力もないのにやって来たのです。そして首に縄を付けたラッキー(三谷昇)と、主人のポゾー(内田稔)が原作同様に登場しました。更にエストラゴンの母らしき人物(楠侑子)を始め、ウラディミールの子息らしき少年(女部田裕子)や近親者(木村万里)、「受付」をする2人の女性(橋本千佳子、千葉綾乃)が新たに登場。いろいろと小さな事件が勃発したり、徐々に不条理な人間関係が築かれました。そして最後にはウラディミールとエストラゴン、そしてゴドーさえも待ち合わせ場所を去る・・・という結末です。不可思議な余韻が心に残る、さまざまな解釈ができそうな作品でした。
★上記のレポートには、ネタばれが含まれております。どうぞご注意ください。