作:ベルナール・マリ=コルテス 演出:ニコラ・デュリュー 出演:ティエリー・メルシエ、アレクシ・トリプエ フランス語上演/日本語字幕 SPAC「Shizuoka春の芸術祭2007」参加演劇作品
---------------------------------------------
舞台監督:ジャン=フランソワ・パリュスレク 装置(美術):ダニエル・ロパタ 音響:ファブリス・プランケット 制作:アンヌ=ロール・サイヤール 字幕協力:佐伯隆幸 チケット(日時指定・全席自由):4,000円/同伴チケット(2枚):7,000円/学生対象券やセット券などの各種割引有り
---------------------------------------------
2007年6月2日(土)、3日(日)/静岡舞台芸術公園BOXシアター/http://www.spac.or.jp/
SPACで公演するため初来日したフランスのラ・スフルリー劇団は、演出家であるニコラ・デュリューさんが主宰を手がけるカンパニー。今作はベルナール・マリ=コルテスの代表的な二人芝居であり、また、このプロダクションは2006年に行われたアヴィニョン演劇祭で絶賛されたとのことです。

≪作品紹介−WEBypパンフレットより引用しました−≫
廃車のフロントガラスから覗く現代フランス演劇、コルテスの世界 「あなたの欲するものを売りましょう」「私には欲望はない」取り引きされるのは商品か、欲望か、或いは人間の存在そのものか。速射砲のような膨大な言葉をコントロールし、世界をコントロールする二人の男に惹き込まれていく。現代人の孤独、ディスコミの状況と闘う緊密な空間。 夕暮れ時、人気のない路地で二人の男が出会う。そして取引が始まる。だが、この危険な取引においては決して商品を名指すことができない。ディーラーは客は互いに秘められた欲望を探りあい、自らの欲望を満たすために熾烈な駆け引きを繰り広げていく。
ラ・スフルリー劇団は2001年に旗揚げされたカンパニー。独自の身体訓練メソッドに基づきつつ、現存から同時代までの戯曲を取り上げて上演しています。ちなみに「スフルリー」とは送風機のことを指していて、演劇の世界に新鮮な空気を送り込む、という素敵な意味合いが込められているとのこと。そして本作の劇作家ベルナール・マリ=コルテスは、1980年代のフランス演劇を代表する存在。彼の作品は今まで「ロベルト・ズッコ」、「西埠頭」、「森の直前の夜」の3本を拝見して来ました。どの作品も非常に難解で不条理性が高い気がしますし、作り手の解釈や観客の思考に委ねる部分が大いにある戯曲だと思います。それに加えて哲学的で暴力的な心理描写の数々が印象深く、最終的には胸に強く迫ってくるものが確かにあるため、良い意味で蟠りが残る感覚に非常に惹かれていました。そんな彼の代表的な二人芝居である「綿畑の孤独の中で」を、現地フランスの演劇人が制作体現した作品が来日する、ということで強い期待を持って劇場に足を運んだ次第でした。劇場内に入ると舞台は黒幕で閉ざされて見えず、ただただ都会の雑踏音やノイズが重く響く亘っているだけ。既に客席は満員だったので前から2列目の桟敷席へ。着席してまもなく会場は暗転し、いよいよ舞台の開演です。高まる重低音のノイズが若干弱まると、舞台の中央にあるものが浮かび上がりました。それは本物の自動車。客席に向かって前向きに停車してあります。運転席と助手席にそれぞれ男が座っていて、観客はフロントガラスを通して二人の姿を見ることになりました。この作品は男性による二人芝居として書かれていて、1時間20分弱で上演が行われます。この作品では「需要と供給」の構造を用いて、二人の男が人間の「欲望」や「孤独」を応酬します。
台詞自体は一つひとつが驚くべき長さで、良い意味で回りくどい間接的な描き方をしていますし、すべて抽象的な表現で物事が語られるのが特徴的です。劇中の日本語字幕にすべてを表示するのが不可能なため、戯曲が全観客に配布されたのには非常に感動しました。ありがたいです。さてさて話は戻り、きっと様々な解釈がされる作品だと推測しますが、今回の演出は非常に大胆かつ斬新であり、また非常に的を得ていると強く思いました。演出家は「綿畑」というタイトルから想像する壮大なイメージから、一度は素舞台で非常に広々とした空間を使った試みをしたものの、逆に自動車内という狭まれた空間が効果的だと考えたそうです。そこで1時間20分弱に及ぶ対話劇を、すべてが車内だけで進行していく演出にシフトしたとのこと。今回の作品は「男性二人で上演」という規制があることなど、コルテスが同性愛者だったことも作品に影響している、という演出家の指摘も納得のいく戯曲だと思いました。きっと同性同士だから成立する内容だと感じましたし、これが男と女の異性同士だったら意味は全く変わることでしょう。終演後のアフタートークで演出家が『結局のところ人間は「孤独」であるから、自分の孤独を分かち合うことでしか、人は関わり合えないのかも知れない』、というようなことを仰っていたのが非常に印象的でした。さて、役者さんは車内での演技なのでほぼ身動きできないため、例えば言葉や顔の表情など、表現が限られてくると思います。しかし二人とも素晴らしい迫真の演技を展開し、限られた狭いスペースを巧妙かつ逆手にとっていました。終始場面に応じて心理を圧迫するようなノイズは非常に効果的ですし、自動車内が通常の明かりから徐々に真っ青に変わっていくのは物凄いカッコよさです。最後まで目が離せないまま集中つつ終演まで至り、劇場を出る頃には満足感と疲労が体を均衡に覆っていました。
ベルナール=マリ・コルテス著 / 石井 惠訳 / 佐伯 隆幸訳
れんが書房新社 (2001.12)
この本は現在お取り扱いできません。