「tsumazuki no ishi『犬目線/握り締めて』」
出演:原千晶、寺十吾、釈八子、宇鉄菊三、猫田直、日暮玩具、杏屋心檬、松原正隆、太田晶子、鈴木雄一郎、岡野正一、松嶋亮太、中野麻衣、蒲公仁、中村靖日

脚本:スエヒロケイスケ 演出:寺十吾 照明:jimmy(株フリーウェイ) 音響:岩野直人(ステージオフィス) 舞台監督:田中翼 舞台美術:小林奈月 宣伝美術=立花文穂 宣伝写真:久家靖秀 舞台写真:nana 演出助手:岡野正一 制作:原田瞳、J−Stage Navi 企画・製作:tsumazuki no ishi チケット料金(全席指定):3,500円〜3,800円

2007年7月19日(木)〜23日(月)/下北沢ザ・スズナリ/http://tsumazuki.com/
スエヒロケイスケさんが脚本を、寺十吾さんが演出を手がけられる「tsumazuki no ishi」。そのままローマ字読みして、「つまづきのいし」と読みます。今回は一年ぶりの新作公演でした。
拝見するチャンスを何度と無く逃してきたのですが、今回の公演はなんとか千秋楽に駆け込むことが出来ました。当日はあいにくの雨だったのですが、スズナリは多くの人で賑っていました。

劇場に足を運んだのはとても蒸し暑い日でした。冷房の効いたザ・スズナリに入ってホッと一息ついていると、舞台から夏のじめじめとした暑さや陰湿さが伝わって来ました。それほど舞台美術、照明、音響効果の完成度が高かったのです。舞台上にはお世辞にも新しいと言えないような、古い団地のエレベーターホールが具象的に、そして細部に至るまで丁寧に表現されていました。
一見すると強いリアリティを感じる美術の仕上がりですが、よく見てみると柱や壁や天井が若干斜めになっています。このように遠近法を使っているからこそ、スズナリの小さな舞台が非常に広く見えたんですね。照明も音響も非常に雄弁で一貫していますが、強い個性と技術を確かに感じました。
ある団地のエレベーターホールで繰り広げられる群像劇でした。毎日のように団地を訪れては徘徊している男性(中村靖日)、子連れの分け有りと思わしき女性(原千晶)、警官(松原正隆)、たむろしている団地の自警団、そしてエレベーターには度重なる悪臭と悪戯書きが・・・。
上演時間は2時間30分(休憩なし)という、かなり見応えのある長丁場でした。
作品の内容を上手く舞台美術が表現していると思います。美術が若干歪んで斜めになっているように、今作もまたリアリティがあると思いきや、得体の知れない可笑しさとズレがあります。現代の寓話のような気も少なからずしますし、切迫感と緊張感溢れる舞台から零れ落ちるユーモアと笑い、次第に明らかになる人物像の深さに恐怖さえ感じました。人物像の描写も明確な部分と不明確な部分があるので、その不明確な部分に自分の想像が掻き立てられます。
また、基本的には屋外との出入り口にあたる舞台奥からしか照明が当たらないので、舞台全体は非常に暗く、役者さんの表情を確認出来ないときもしばしば。このように確認できない、そして分からないという感覚だからこそ、この作品においての恐怖や興奮を強く感じるのかも知れません。
見えない人間の感情がうごめく様子、言葉に出来ない緊張と切迫感、あのじめじめとした陰湿した空気が肌に残るような感触がありました。そして雨が降る場面では実際に水が滴ったり、リアリティのある音響や照明の演出効果がたくさん挿入されます。そんななかで紫や赤の照明が大胆に使用されたり、ピンスポットを役者さんに当てての独白が突然始まったりしました。
ひとりひとりの人物を巧妙に描写した群像劇としても、劇場でしか味わえない感覚のある演劇作品としても、非常に素晴らしい仕上がりだと思いました。長丁場に及ぶ観劇は体に堪えますが、緊迫感と切迫感の高ぶりに目を奪われ、最後まで集中して拝見することが出来ました。