「NODA・MAP番外公演『THE BEE−ロンドンバージョン−』」
出演:Kathryn Hunter、Tony Bell、Glyn Pritchard、野田秀樹

原作:筒井康隆「毟りあい」(新潮社刊) 脚本:野田秀樹&Colin Teevan 演出:野田秀樹 美術・衣装:Miriam Buether 照明:Rick Fisher 音響:Paul Arditti 制作協力:SOHO THEATRE プロデューサー:北村明子 提携:世田谷パブリックシアター 企画・製作:NODA・MAP

07年7月12日(木)〜29日(日)/シアタートラム/http://www.nodamap.com/
筒井康隆さんが70年代に発表された短編小説「毟りあい」を原作に、野田秀樹さんが始めて英語で書き下ろされた『THE BEE』は、ロンドンで2006年夏に初演されて好評を博したとのこと。
今回は新たに創作された日本バージョンと共に、オリジナルのロンドンバージョンも連続上演するという企画。先日の日本バージョンに引き続きまして、ロンドンバージョンを拝見して来ました。

つい先日足を運んだ日本バージョンとは、全く異なる空間に劇場が変貌を遂げていました。狭い長方形の赤くツルツルとした質感の床、その背後には合わせ鏡にもなるマジックミラーの壁。日本バージョンの「紙」を使った美術とは対照的な仕上がりです(日本バージョン:堀尾幸男、ロンドンバージョン:Miriam Buether)。
壁のマジックミラーには書き割りのようにテレビや窓が設えてあり、日本バージョンで印象的だった映像効果はありませんでした。はて、あの床の素材は何なのだろう。畳の上に日用品のようなものが点在していて、その上から赤いアクリル板を被せているのかな。非常に洗練された良い意味で刺々しい空間でした。
1970年代の東京。平凡なサラリーマン・イドは、息子の誕生プレゼントを手に家路を急いでいた。自宅に近づくと、警官たちが非常線を張り、マスコミのリポーターたちが押し寄せている。聞けば、脱獄犯・オゴロが民家に押し入り、女と子供を人質にして立てこもっているらしい。「どこの家だ?」と思った途端、リポーターたちがマイク片手にイドを取り囲んだ。リポーター「イドさんですか?イドさんですか?今のお気持ちは?!」マスコミからは苦悩する犠牲者の姿を演じることを求められ、頼るべき警察は高圧的で無能な連中・・・。ある瞬間から、被害者であるイドは、残虐な加害者へと姿を変え、常軌を逸した行動へとひた走る。そして、報復の連鎖の行き着く果てにあるものは・・・・・?−−−−−WEB「NODA・MAP」より
日本バージョンより更に隙も逃げ場も無い仕上がりでした。緊張して、衝撃的で、怖くて、涙が出て、恐ろしくて、そして素晴らしい作品だと思いました。1時間10分弱の刺激的な悪夢でした。
イドを女優であるキャサリン・ハンターさんが、オゴロの妻を男優である野田秀樹さんが演じられるという出色のキャスティング。ここが日本バージョンとの大きな相違でしょうか。
日本バージョンとロンドンバージョンという異なる2つのバージョンを、シアタートラムと言う濃密な小空間で観れたことが非常に嬉しかったです。今でも舞台の残像が残るように舞台風景が目に浮かびますし、劇中で使用された個性的な楽曲の一節が頭のなかを廻ります。
役者さんが長いゴム状の紐を持って縦横無尽に狭い舞台を走り回る、イドとマスコミとの掛け合いは強い疾走感を感じました。紐がマイクにもカメラにも群集にもなり、まさに自由自在でした。
合わせ鏡になっているマジックミラーの演出効果は、恐ろしくて堪らなくて思わず身震いしました。作品の核となる暴力の連鎖が、具体的に舞台上で表現されていたと思います。
抽象的な空間で過激な物語が進行していきますが、4人の役者さんが非常に生々しく舞台に存在していた気がします。「THE BEE」という作られた物語の中でリアリティがあり、核心的な説得力が生まれていました。だからこそ客席に居る観客にさえ、迫るものがあるのだと思います。
筒井 康隆著
新潮社 (2002.11)
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