出演:大竹しのぶ、松たか子、段田安則、生瀬勝久、井上芳雄、木場勝己 演奏:後藤浩明

作:井上ひさし(「すばる」(集英社)07年9月号掲載予定) 演出:栗山民也 音楽:宇野誠一郎 美術:石井強司 照明:服部基 音響:秦大介 衣裳:前田文子 振付:井手茂太 歌唱指導:伊藤和美 演出助手:豊田めぐみ 舞台監督:三上司 プロデューサー:北村明子(シス・カンパニー)、井上都(こまつ座) 制作:高林真一・谷口泰寛(こまつ座)、荻原朱貴子・李銀京(シス・カンパニー) 提携:世田谷パブリックシアター 企画・製作:こまつ座&シス・カンパニー

07年8月3日(金)〜9月30日(日)/世田谷パブリックシアター/WEB「こまつ座」:http://www.komatsuza.co.jp//WEB「シスカンパニー」:http://www.siscompany.com/
井上ひさしさんの新作を栗山民也さんが演出する超豪華な6人芝居を、シス・カンパニーとこまつ座が共同制作するという今夏注目のプロダクション。世田谷パブリックシアターで2ヶ月間に及ぶロングラン公演を決行中で、公演は同会場で9月の30日(日)まで続いています。
※平日の夜の回を拝見すべく、先日当日券で足を運びました。受付開始の45分前に劇場へ到着すると、前から自分は5番目でした。受付開始直前にはそれなりに列は伸びていましたが、思ったよりは楽に椅子席のチケットをゲットすることが出来ました。⇒
当日券詳細

ロシアを代表する劇作家であり短編小説家であった、アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフの半生を描いた作品でした。井上芳雄さんが少年、生瀬勝久さんが青年、段田安則さんが壮年、木場勝己さんが晩年、というふうに4人の男優さんが時系列順にチェーホフを演じていきます。そしてチェーホフの妻であり女優のオリガ・クニッペルを大竹しのぶさん、チェーホフの妹マリヤ・チェーホフを松たか子さんが演じられるキャスティング。このほかにも6人の役者さんが何役も掛け持ちします。
ピアノの生演奏によって何曲もの歌を挿入し、抽象舞台で次々と場面転換を行い、親しみやすいエンターテイメントに仕上られています。チェーホフの人生や彼の作品の解釈を分かりやすく、でも深く掘り下げていき、普遍的で現代にも直結する問題として表現されていました。
優しさと鋭さが同居する眼差しを通しながら、また井上作品で日本語、そして言葉というものの面白さを知りました。普段の日常生活では言葉というものに助けられたり、逆に苦しめられたりしますが、こんなにも奥深く可能性が広がるものなのか、と客席で感動を覚えました。
2部構成で15分間の休憩を含める、3時間弱の上演時間です。パンフレットは1,000円だったと思うのですが、プロフィールや稽古場風景のほか、チェーホフ関する資料が興味深いです。
チェーホフの舞台上演や戯曲をはじめ、小説にも何度か触れた非常に好きな作家です。確かに彼の作品の登場人物は暗い過去を背負い込んでいたり、物悲しく切ない思いに満ちているように思います。しかし客観的に洞察するとその姿は非常に滑稽でもあるし、それぞれ登場人物が限りなく愛おしくも可笑しくも思えてきました。今回の作品でも「ボードビル」という言葉がキーポイントになりますが、彼の作品に「悲喜劇」というサブタイトルが付いているのにも納得です。ひとつの場面を観て泣いている人も笑っている人も居る、まさにこれこそが人生なのではないか、と思いました。そして今作では作家であるチェーホフに着眼し、また新たな人生の形が生まれていた気がします。
6人の役者さんが凛とした佇まいで舞台に存在し、協調性の強いアンサンブルに心揺さぶられました。本作品での役者さんに触れて一番感動したことは、嘘の中にある本当を見せてくれたことじゃないのかな、と思います。物語や演技というのものは人間の作り出す嘘だと思うのですが、その嘘のなかで生き生きと存在して呼吸をすることで、その世界に説得力が生まれていました。
僕はもうあのオープニングでノックアウトです。優しいピアノの音と歌声が劇場中に響き、朗らかに観客へと心を開いたように、「ロマンス」という作品のなかへ役者さんが誘ってくれました。