大山の頂上はかなりのぬかるみだった。
登山靴にまとわり付く泥の塊がなかなか取れなくてうっとうしく感じるほどだった。
頂上にある阿夫利神社奥宮の回りは広場になっていたが乾いている場所はほんのわずかなスペースしかなかった。
乾いたスペースや奥宮の屋根の下はすでに登山者が陣取って昼食の準備をしていた。
見渡すとテーブルとベンチがいくつかあったが・・・どのテーブルもグループによって占領されていた。
オイラとクロちゃんはしばらく辺りを眺めた。
すると奥の院の横に壊れかけたテーブルとベンチが空いているのを発見。
日陰のその場所の足元はぬかるんでいて・・・おまけにベンチは傾いていた。
お世辞にもいい場所ではかった。
けれどどう見てもそこしか空いていない。
ここで食事にしよう・・・といいながらオイラと師匠はザックからガスボンベや焼き網を取り出して昼食の準備を始めた。
すると・・・大柄のおじさんが「ここいいですか」といいながらオイラが座ろうとしていたベンチにやってきた。
「あ!!そこはもう一人座るんですが・・・」と師匠。
「あ!!どうぞこちらに・・・」とオイラは反対側の場所を勧めた。
ベンチの反対側には椅子が無く・・・奥の宮の石垣がベンチ代わりになっていた。
石垣の周辺は乾いているのでオイラは問題ないと思って勧めたのだ。
何を思ったのか・・・大柄のおじさんはテーブルにどっかと腰をおろした。
オイラたちに背中と尻を向けて・・・
そして・・・自分のザックからにおにぎりとパンを取り出すと無言で食べ始めた。
食べ終わるまでの間・・・一度も振り返ることはなかった。
オイラと師匠の目の前にはおじさんのお尻が・・・
いやな感じだ。
焼き鳥が焼けた。
「どうぞ・・・」と言いかけたがやめた。
食事が終わるとくだんのおじさんはさっさとザックを片付けて無言で立ち去った。
おじさんが立ち去ると・・・オイラの心にさぁ〜っと冷たい風が吹きぬけた。
「失礼な人だな・・・」とオイラ。
「ここは都会から近い山だからね〜・・・」と師匠。
オイラはいままで山に登ってこんな無礼な人にあったことがない。
いままで晴れていた空がにわかに暗くなり始めていた。
「山は楽しくなければ山じゃない」と誰かがいった言葉・・・その通りだと思った。
大山の山頂での出来事・・・下山するオイラの暗い気持ちを切り替えるのにしばらく時間が必要だった。

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