2004/10/18
妻と相談して
家にエレベーターを取りつけることにした
けれど、取りつけた後で
この家には二階も地下室も無いことに気が付いた
ボタンを押すと
チーン
と音がして扉が開く
上にまいりません
下にもまいりません
エレベーター・ガールの妻が案内する
いいんだ、どこにも行かなくて
そう、だからあの日
二人はどこにも行かないことに決めた
今、僕らはエレベーターの中で
非常階段の設計図を書いている
大切なことは
まだまだたくさんある

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2004/10/8
いつもは昆虫ばかり描く少年が
今日は汽車を描いた
それでも何か足りない気がして
余白に
一匹のノコギリクワガタを付け加える
満ち足りたように少年が眠った後も
汽車は画用紙の中で
どこにも行かない

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2004/10/8
リュックサックに
色とりどりの
靴下や、申請書の類や、遺骨など
ありったけのものを詰め込み
それでもまだ何か忘れている気がして
何度も流しの下を覗いてみたり
縦笛を吹いてみたりもするが
明日もきっと
無いものの方が多いのだろう
今日は朝から曇っていて
曇った空しか見ることができない

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2004/9/26
ゴンザレス、生まれてこの方メキシコ人
今朝も早くからメキシコ風のシチューを
食べる
ゴンザレスを見守るゴンザレスの兄
生まれてこの方メキシコ人の兄
港の町では遠い海で漁をする季節
漁師ではないからゴンザレスもゴンザレスの兄も
船に乗らない
そんなメキシコ人の兄弟から恐ろしく遠いところで
僕とまだ幼い娘はボルシチを食べる
それもまたいつかの遠い話
そして食後
娘と昼寝をした
受付番号113番の僕はまだ呼ばれない
114番の娘は届かぬ足をブラブラさせている
待合室はひんやりとありふれていて
どこにも発車しない
採血室の前で人々が一斉に脱脂綿で左腕を押さえている
娘が描いたその絵をどのように褒めるべきか考えていたが
娘はまだ脱脂綿という言葉を知らない
話さなければいけないことは沢山ある
そのいくつかを話し
やがて待合室を後にすると
娘と昼寝をした
悲しいことがあると裏の森で鉄砲を撃つ女の話
小さい頃は列車の運転手になるのが夢だった
ふとある日、列車の運転者になることはできないと知り
すべての弾を撃ち尽くしてしまった
それでも悲しいことがあると鉄砲を撃ちに裏の森に行く
鉄砲の音は?
バン!バン!
三回聞かせたその話のいつも同じところで娘は笑う
女は一度も笑ったことはないというのに
僕も娘といっしょに笑う
四回目の話を終え
娘と昼寝をした
どちらが先に寝付いたか
僕は知らない
娘も知らない
誰も知らない
誰も知らなくていい話

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2004/9/22
どううぶつえんの檻の前で親友は盤を取り出し
飛車角落ちで良い、と言う
親友の温かい手から飛車と角を受け取り
どううぶつの檻に投げる
どううぶつは隅でうずくまったまま見向きもしない
飛車も角も生肉ではなかった
並べる前にどううぶつの檻の前で記念写真をとることになり
近くにいた飼育係にシャッターを押してもらう
はいチーズ、と飼育係は決して言わなかったが
自分の父親と母親の名前を教えてくれた
良い名前ですね、と褒めると
優しい両親でした
そう笑って、どううぶつの飼育に戻っていった
並べているとどううぶつの欠点ばかりが目に付いて
なるべく汚い悪口を言いたい衝動にかられる
親友はそんな僕に、銀もいらないから、と
またその温かい手で握らせる
いったいいくつ並べたのか、もはや数え切れない
このまま並べ続けられればいい
そのように思ったのは僕だけではないはずだ
けれど終わって欲しくないことにはやがて終わりがくるものだし
飼育係の両親の良い名前ももう思い出せない
ポケットの中で親友の銀が音をたてた
いつも何かが多いくせに
足りない気持ちでいっぱいになる

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