2012/1/22 23:53
寒がりな君 いちうりSS
冬の日のお話。ふたりがこんな時間を過ごすのは、日曜の午後とかかなって思います。
「寒ぃ」
黒崎が言った。
「そう?」
別に寒くないので曖昧に答えると、明らかに不満そうな声で黒崎は続けた。
「お前、寒くねぇの?」
「別に」
「んな格好してんのに?」
不思議そうな声。
そんな格好って、この格好が、そんなに寒そうに見えるのか?
アンダーウェアがわりのカットソー、綿地のシャツ、厚めのフリースの上着。
確かに僕の部屋には暖房は入っていないけれど、そのぶん、ちゃんと厚着をしてる。今日だって、三枚も着てる。
下半身も、毛布を掛けているから、まったく寒くない。
それに、上に着てるフリースは、そうだ、黒崎、君がクリスマスに押しつけてきたんじゃないか。
静電気が生じるから好きじゃないと言ったのに、フリースはあったかいんだぜって言って。
パーカーと言ったか、僕はこんなの着ないのに、お前に似合いそうだったからって言って。
もらったものを着ないのも勿体ないし、オフホワイトの色合いも、前にチャックが着いているデザインも、まぁ、悪くないし、着てみたら、実際、あたたかかったし。
黒崎とお揃いっぽいことと、それを着ているときの妙に嬉しそうな黒崎の顔を気にしなければ、部屋の中ならこれ一枚で過ごせるくらい、十分、あたたかい。
だいたい、格好と言うなら、僕よりも黒崎、君のほうが薄着だと思うぞ。
寒いって言うなら、もう一枚、上着を着ればいいだろう。
そう思ったが、答えるのも面倒だったので、
「別に」
もう一度同じことを言うと、黒崎が、明らかにむっとしたようだった。
「ほんとに? ほんとに寒くねぇわけ?」
「寒くないってば。ちょっと黙っててくれないかな、間違えるから」
ぴしりと言うと、さすがに黒崎も押し黙ったが……。
「あ」
「なに、なんだよ」
「うるさい」
ああ、もう。
君が話し掛けるから、間違えたじゃないか。
僕は、一度編んだ部分に手をかけた。
「折角編んだのに、ほどいちまうの?」
「だから、君はもう黙れ」
いち、に……
……三段か。
折角編んだけど、しようがないな。
「あーあ、勿体ねぇ」
ぴ、と毛糸を引いた横で声がする。
誰のせいだと思ってるんだ。
「黒崎」
「悪ぃ」
牽制すると、黒崎は、さすがにしゅんとなったようだった。
結構面倒くさいんだよ、ここの編み方。
模様が複雑で、数えてないと間違える。
というか、実際、間違えた。
黒崎に話しかけられた程度で間違えるだなんて、気に入らないが、それくらいは面倒臭い。
いち、に、さん、と数えながら、もう一度編み直していく。
よかった、元に戻った。
少しほっとしながら、僕は続きを編み始めた。
編み物は裁縫ほど得意ではない。だが、黒崎に話しかけられたりしなければ、間違えたりなんかしないんだ。
ほら、見ろ。
君が話しかけたりしなければ、すぐに終わるんだから。
少し集中したら、編み目模様の複雑な部分もすぐ終わった。
よし。ちょっと休憩しよう。
「ん……」
編み掛けのセーターを置いて、軽くストレッチングをしていると、黒崎がのそりと近付いてきた。
「……黒崎?」
恐る恐る、と言った感じで僕が掛けている毛布に脚を突っ込んでくる。
「何してるんだ?」
「お前、寒くねぇの?」
「さっきも言ったよ、別に寒くない」
「結構冷え込んでると思うんだけど」
「雪の予報が出てるくらいだからね」
「だからさ、寒ぃだろ?」
「寒くないって言ってるじゃないか」
「違ぇよ」
黒崎は、実に不満そうな顔をしてみせた。
「俺が寒いって言ってんの」
「え」
「だから、お前が寒くなくても、俺が寒ぃの」
言うと、黒崎は、ぴたりと体を寄せてきた。
膝の上に置いたセーターに気を遣いながら、僕の体に腕を回してくる。
あ。
そう。
なんだ、そういうことか。
「なんだよ」
「別に。君って、結構寒がりなんだなと思って」
笑いながら言うと、黒崎はふいと顔を横にそむけた。
「この部屋の中だけだよ、寒ぃの」
「だったら来なければいいのに」
「分かってんのに、そんなこと言うな」
僕の体にぎゅっと抱きつきながら、黒崎は言った。
薄手のTシャツは一応長そでだけれど、僕のよりはるかに薄いフリースの上着。
その上にマフラーを巻いただけで、平気で外を歩いたりするくせに。
僕のほうがはるかに体温も低いっていうのに、寒いって言いながら、僕の毛布に脚を突っ込んで、僕の体を抱き寄せて。
「しようがないな」
僕は、編みかけのセーターと毛糸を横に置くと、黒崎の背中に腕を回した。
「石田?」
「君が風邪を引いたら困るからね」
小さく言うと、黒崎は嬉しそうな顔をした。
「おう。だから、あっためてくれよな、石田」
「まぁ、なんとかは風邪を引かないって言うけど」
「うっせ。お前、ちょっと黙っとけ」
塞がれた唇も、ほら、君のほうがずっとあたたかい。
触れる指なんか、あたたかいどころか、熱いくらいじゃないか。
これで寒いだなんて、信じられない。
僕の部屋限定で、寒がりな黒崎。
僕は、のしかかってきた黒崎の体重を受け止めた。
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「寒ぃ」
黒崎が言った。
「そう?」
別に寒くないので曖昧に答えると、明らかに不満そうな声で黒崎は続けた。
「お前、寒くねぇの?」
「別に」
「んな格好してんのに?」
不思議そうな声。
そんな格好って、この格好が、そんなに寒そうに見えるのか?
アンダーウェアがわりのカットソー、綿地のシャツ、厚めのフリースの上着。
確かに僕の部屋には暖房は入っていないけれど、そのぶん、ちゃんと厚着をしてる。今日だって、三枚も着てる。
下半身も、毛布を掛けているから、まったく寒くない。
それに、上に着てるフリースは、そうだ、黒崎、君がクリスマスに押しつけてきたんじゃないか。
静電気が生じるから好きじゃないと言ったのに、フリースはあったかいんだぜって言って。
パーカーと言ったか、僕はこんなの着ないのに、お前に似合いそうだったからって言って。
もらったものを着ないのも勿体ないし、オフホワイトの色合いも、前にチャックが着いているデザインも、まぁ、悪くないし、着てみたら、実際、あたたかかったし。
黒崎とお揃いっぽいことと、それを着ているときの妙に嬉しそうな黒崎の顔を気にしなければ、部屋の中ならこれ一枚で過ごせるくらい、十分、あたたかい。
だいたい、格好と言うなら、僕よりも黒崎、君のほうが薄着だと思うぞ。
寒いって言うなら、もう一枚、上着を着ればいいだろう。
そう思ったが、答えるのも面倒だったので、
「別に」
もう一度同じことを言うと、黒崎が、明らかにむっとしたようだった。
「ほんとに? ほんとに寒くねぇわけ?」
「寒くないってば。ちょっと黙っててくれないかな、間違えるから」
ぴしりと言うと、さすがに黒崎も押し黙ったが……。
「あ」
「なに、なんだよ」
「うるさい」
ああ、もう。
君が話し掛けるから、間違えたじゃないか。
僕は、一度編んだ部分に手をかけた。
「折角編んだのに、ほどいちまうの?」
「だから、君はもう黙れ」
いち、に……
……三段か。
折角編んだけど、しようがないな。
「あーあ、勿体ねぇ」
ぴ、と毛糸を引いた横で声がする。
誰のせいだと思ってるんだ。
「黒崎」
「悪ぃ」
牽制すると、黒崎は、さすがにしゅんとなったようだった。
結構面倒くさいんだよ、ここの編み方。
模様が複雑で、数えてないと間違える。
というか、実際、間違えた。
黒崎に話しかけられた程度で間違えるだなんて、気に入らないが、それくらいは面倒臭い。
いち、に、さん、と数えながら、もう一度編み直していく。
よかった、元に戻った。
少しほっとしながら、僕は続きを編み始めた。
編み物は裁縫ほど得意ではない。だが、黒崎に話しかけられたりしなければ、間違えたりなんかしないんだ。
ほら、見ろ。
君が話しかけたりしなければ、すぐに終わるんだから。
少し集中したら、編み目模様の複雑な部分もすぐ終わった。
よし。ちょっと休憩しよう。
「ん……」
編み掛けのセーターを置いて、軽くストレッチングをしていると、黒崎がのそりと近付いてきた。
「……黒崎?」
恐る恐る、と言った感じで僕が掛けている毛布に脚を突っ込んでくる。
「何してるんだ?」
「お前、寒くねぇの?」
「さっきも言ったよ、別に寒くない」
「結構冷え込んでると思うんだけど」
「雪の予報が出てるくらいだからね」
「だからさ、寒ぃだろ?」
「寒くないって言ってるじゃないか」
「違ぇよ」
黒崎は、実に不満そうな顔をしてみせた。
「俺が寒いって言ってんの」
「え」
「だから、お前が寒くなくても、俺が寒ぃの」
言うと、黒崎は、ぴたりと体を寄せてきた。
膝の上に置いたセーターに気を遣いながら、僕の体に腕を回してくる。
あ。
そう。
なんだ、そういうことか。
「なんだよ」
「別に。君って、結構寒がりなんだなと思って」
笑いながら言うと、黒崎はふいと顔を横にそむけた。
「この部屋の中だけだよ、寒ぃの」
「だったら来なければいいのに」
「分かってんのに、そんなこと言うな」
僕の体にぎゅっと抱きつきながら、黒崎は言った。
薄手のTシャツは一応長そでだけれど、僕のよりはるかに薄いフリースの上着。
その上にマフラーを巻いただけで、平気で外を歩いたりするくせに。
僕のほうがはるかに体温も低いっていうのに、寒いって言いながら、僕の毛布に脚を突っ込んで、僕の体を抱き寄せて。
「しようがないな」
僕は、編みかけのセーターと毛糸を横に置くと、黒崎の背中に腕を回した。
「石田?」
「君が風邪を引いたら困るからね」
小さく言うと、黒崎は嬉しそうな顔をした。
「おう。だから、あっためてくれよな、石田」
「まぁ、なんとかは風邪を引かないって言うけど」
「うっせ。お前、ちょっと黙っとけ」
塞がれた唇も、ほら、君のほうがずっとあたたかい。
触れる指なんか、あたたかいどころか、熱いくらいじゃないか。
これで寒いだなんて、信じられない。
僕の部屋限定で、寒がりな黒崎。
僕は、のしかかってきた黒崎の体重を受け止めた。
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