2008/6/23
酒に酔い潰れたのを確認したところで、オリヴィエがふうっと大きく息を吐いた。
「客人をお部屋までお連れしましょう。」
「うむ。」
オリヴィエが頷くと同時に、体力自慢のブリッグズ兵がすっ飛んできて、ピロシキ将軍を苦役の荷物のように担いでいく。
私は、オリヴィエの部屋まで送り届けることにしたが、前を歩くオリヴィエの姿に挑発されっぱなしだった。何しろ、赤くひらひらしたチャイナと、黒いランジェリー、そして形のよい脚が目の前で、私を誘うように揺れているのだ。おまけに、締まった足首に紅いハイヒールがよく似合っている。媚薬が効いてきたのだろう、空き部屋に連れ込んで、オリヴィエを押し倒したくなる気持ちを必死でこらえた。
ピロシキ将軍を担いでいった兵士らは、何を思ったか、用済みの衝立を、オリヴィエの部屋に持ち込んだ。
「ご苦労だったな、マイルズ。しかし、情けないことだ。あの程度の酒で、あっさり酔いつぶれるとは。」
「閣下がお強過ぎるのです。結局、最初のシャンパンに、紅白ワイン、デザートワインにポート酒に至るまで、何度もお替りしていたのだから、普通の男だったら、間違いなくつぶれます。」
つぶすべくして酔いつぶしたということは、すっとぼけた。だが、オリヴィエは、私がドラクマ国将軍のセクハラから自分を守ってくれたことにすぐ気付いたようだ。
「酔いつぶれて、か――貴様もそうか、マイルズ?」
「ええ、たぶん。あのペースで酒を口にすれば、たいていの者は正体なく寝こけてしまうでしょう。」
疲れた、と首を回しながら、オリヴィエが髪をほどくのが見える。私は、後手で、オリヴィエの部屋のドアを閉め、鍵を内側からしっかりかけた。
「だが、あのまま放っておいても大丈夫か?」
「恐らくは。閣下も飲まれて気付かれたと思いますが、あれは薬用酒です。多少の幻覚作用がありますが、楽しい夢を見ることが出来る筈です。」
そうか、オリヴィエは少し安心した表情になると、私に対し、ご苦労だったな、と告げた。
「ではまた、明日。そうだ、貴様、『おやすみなさい』を言うとき位は、サングラスを外さないのか?」
手がすっと伸び、私のサングラスを外す。オリヴィエは、おやすみなさいのキスぐらいしてやろうか?と悪戯な目で囁いてきた。媚薬の効果絶大だ。オリヴィエの方から、私を求め、軽く唇を合わせてきた。近づいたはずみで、オリヴィエの胸が私に少しふれる。甘い匂いがした。
だが私もあの酒を飲んでいるのだ。もう限界だった。
「オリヴィエ、どうしてこんなに魅惑的な瞳で、男を誘惑するのですか?このような、真紅のチャイナなど、どれだけ男の心を揺さぶるか、貴女はご存じないのですか、オリヴィエ?」
「知るか。さっさと帰れ。明日も早い。」
ぷいと横を向いたオリヴィエだが、私から身体を離そうとしなかった。やがて、必死で――媚薬の働きに抗うかのように、逃げようとする。
私はオリヴィエを逃がすつもりはなかった。背中から抱きしめる。自分でも、息が荒くなっていることが分かっていたが、止められなかった。そのまま、後ろからベッドに押し倒すと、オリヴィエはじたばたもがいた。
「やめろ、マイルズ。明日も仕事だろう。それに、貴様、体重をかけてくるな。重たい。――貴様、闘牛場のウシか?」
その通りだと思う。私は、今、闘牛場のウシのように貴女に対し、身体も心も高ぶっている。貴女のその真紅のチャイナを引き裂くようにはがし、貴女を襲い喰らいつき、そして、貴女が私の愛の前に全面降伏するまでだれよりも深く、熱く突き刺したい――。
そのまま、チャイナの深いスリットの脇から、手を差し込み、軽くオリヴィエの内腿の辺りを撫でると、ぴくりと身体が震えるのが分かる。
「黒いレースだなんて、いけない人だ、オリヴィエ。貴女の白い肌と、黒のレースがどれだけ男の劣情を煽るか、気づいていますか?」
私は、媚薬で半分高ぶった身体をオリヴィエに押しつけながら、チャイナ服をゆるやかに脱がしていく。思ったよりも抵抗がなかったのに喜びを隠せず、何度も背中に口づけ、強く吸う。
「やめろ、マイルズ。身体が動かない――。」
そう、あのポート酒は、そのような働きがあるのです。私は、先にオリヴィエたちが飲んでいたデザート酒の中に仕込まれていたハーブの秘密をばらした。耳許で、甘く囁きながら。
「私も1杯飲みましたから、同じように効いています。今は貴女が誰より欲しい。」
子どものころに飲んだ、薬用酒、それが媚薬となることを知った大人になってから、いつか、このハーブの効能の真贋を、確かめてみたい気持ちがどこかにあった。今、それが叶おうとしているのが、楽しく嬉しい。そして、その相手が、愛おしくてたまらないオリヴィエである、ということが、何より喜ばしい。
媚薬は、ダウン系の働きがあるもののようだった。いわゆる、アッパー系で反動が強いものではなく、長い時間かけて、ずっと心地よい状態が続くもののようだ。
オリヴィエが黒レースのランジェリーだけになったのを確認し、私は先に自分の服を脱ぐことにした。媚薬が効いているだろうから、おそらく逃げることはないだろうが、逃がさないよう、時折、口づけたり、愛撫を身体に加えながら、オリヴィエのパンティの紐をすっと解くと、下のそれから先に外すことにした。一瞬、口でくわえて外そうかと思ったが、オリヴィエがやめろ、と抵抗したので、それだけはやめることにした。
最後に残していたキャミソールは、オリヴィエが自分から脱がせてくれと、私に命じた。早く・・・と。私の愛撫に身体を震わせ、甘やかな吐息の中、脚を絡めてしがみつき、珍しいぐらい積極的に私を求めてきたのだ。
緩やかでもどかしげな愛撫は、オリヴィエが拒んだ。普段なら、痛がるほどの荒々しい愛撫をオリヴィエは好んだため、私たちはすぐに一つになった。数分も持たずに互いに達した後は、オリヴィエが命ずるまま、私は彼女の身体のいたるところに、唇を寄せ、強く吸った。不思議なこと――いや、媚薬の効果絶大というべきだろう――、キスマークを1つ残すたびに、オリヴィエは甘やかな嬌声を上げ、愛している、という囁きとともに、私の名を何度も呼んだ。何度も口づけを交わし、何度も愛を交わした。わずか数時間で、ここ数年分も愛し合ったと思えるほど、濃密な一夜だった。
翌朝は、私が先に目覚めた。
オリヴィエはまだ眠っていたが、今日もまた、仕事だ。少し、昨日は頑張りすぎたため、腰のあたりがだるい気がするが、とても心が満たされてすがすがしい朝だ。
私は、オリヴィエに肌布団をかけ直してやると、先にシャワーを浴びることにした。じき、彼女も目覚めることだろう。そうすれば、一緒にシャワーを浴びればいい――。
途中、オリヴィエが起きたような気配がしたが、シャワー室には結局来なかった。また眠ってしまったのかもしれない。私はオリヴィエに『朝だよ』と、起こしにいった。そして――。
その日の午後、ドラクマ国との文書締結は、予定通り、無事済んだらしい。
だが、私は、オリヴィエに命じられたまま、あの後すぐ地下牢に入り、オリヴィエ宛の反省文を100回書くよう命じられた。
殴られた両の頬がじんじん痛む。ひどいことを、と抗議したら、私は全身に悪い虫が吸った痕を残されたのだから、イーヴンだ、と返された。
実際のところ、昨夜の疲れが出ているので、この蟄居は有難いものだった。おまけに、私が投獄?されたのに遠慮したのか、食事時以外は人が近寄らないため、心ゆくまで昼寝を楽しむことも出来たのだ。
夕方になったところで、急いで、反省文を50枚か60枚ほど追加で書いた。今夜一晩は、ここで少しサボタージュしようかと思っている。どうせ、今上に上がったとしても、ピロシキ将軍を接待した後片付け要員に使われるだけだからだ。
オリヴィエは、『貴様はブリッグズ一の悪い虫だ。この赤い虫さされの跡が消えるまで、貴様は牢に居ろ!』と怒っていたが、おそらく、明日にでも解放されるだろう。夜はともかく、昼は仕事が山積みになっているのだ。1週間も10日も、補佐官なしで仕事が回るほど、オリヴィエは閑職にいる訳ではない。
そうだ、そういえば、あの媚薬酒は、まだグラスに1,2杯分と、そして――もし何かの間違いがなければ、あと2本、同じものが未開封で残っている筈だ。あれは、いい飲み物だ。
機会を見て、またあれをオリヴィエに飲ませよう。きっとまた、夢のような一夜が過ごせるにちがいない――。 (FIN)
投稿者: miyanomiki
トラックバック(0)
コメントは新しいものから表示されます。
コメント本文中とURL欄にURLを記入すると、自動的にリンクされます。