思い出は映画と共に@  映画つれづれ

思い出は映画と共に…落ち込んだ時に元気になれる、あの映画のあの名セリフ1

「男たちの挽歌」
(1986年香港/製作総指揮/ツイ・ハーク、監督/ジョン・ウー、出演/ティ・ロン、チョウ・ユンファ、レスリー・チャン)

「俺は負け犬だけにはなりたくない!お前は運命と戦ったことはないだろう?一度もない!…俺は違う」/マーク(チョウ・ユンファ)が出所したホー(ティ・ロン)に言うセリフ。

「香港ノワール」という言葉を定着させた、ツイ・ハーク製作、ジョン・ウー監督による「男たちの挽歌」。1986年に登場したこの作品は、斬新でいて、どこか懐かしい感じがするアクション映画だ。

 “ノワール”はフランス語で「黒」を指す言葉。フィルム・ノワールと呼ばれるジャンルが映画にはもともとあって、「フィルム・ノワール」=「黒い映画」、すなわち犯罪を描いた映画をこう呼ぶようになった。

ノワール映画には主にハリウッドやフランスの映画が代表的だが、特にあまり女性が出てこない、男同士の友情や裏切りが描かれたフランス映画のノワール物を「フレンチ・ノワール」と呼び、ハリウッド製のギャング映画やアクション映画とはまた趣の違う陰のある作風が人気を呼んだ。

 「男たちの挽歌」が「香港ノワール」と呼ばれた理由は、これらの「フレンチ・ノワール」の作風を受け継いだ点にあると思うが、日本の映画ファンが驚いたのは、そこに明らかにサム・ペキンパー監督の影響と、60年代、70年代に作られた日本のアクション映画の臭いが存在していたからだ。

 「ワイルドバンチ」「戦争のはらわた」「ゲッタウェイ」などで有名なサム・ペキンパー監督は、容赦ない暴力描写に、スローモーションを多用することで知られる。

残酷な暴力描写なのに美しい映像美という、本来は相容れないものを融合させてしまったその手法に、映画ファンは狂喜した。特に「ワイルドバンチ」で、主人公たちがわずか数人で強大な敵組織に殴り込みをかけるシーンは、凄惨なのに何度見ても震えるほど美しい。

 ジョン・ウー監督もまた、スローモーションを効果的に使う名手だが、これは明らかにサム・ペキンパー監督の影響だろう。そして、男同士の裏切りや友情がエモーショナルに展開していく物語や、それぞれの存在感がやたら引き立つキャラクターは、「仁義なき戦い」など70年代の深作欣二監督作品や、小林旭や石原裕次郎など、男臭いキャラで物語をぐいぐい引っ張っていた60年代の日活ニューアクションの臭いがプンプンする。

まず、主人公のホー(ティ・ロン)はどう見ても若いころの石橋正次だし、マーク(チョウ・ユンファ)は往年の小林旭にしか見えない。無鉄砲なホーの弟の刑事、キット(レスリー・チャン)はデビュー当時の石原裕次郎か赤木圭一郎、渡哲也というところか。


 さて、このセリフだが、これはマーク(チョウ・ユンファ)が、出所してきたホー(ティ・ロン)に向けて放つ言葉である。

 ホーとマークはかつて、香港組織の顔役とその弟分だった。ホーには警察学校に通う弟、キットがいて、極道であることを秘密にしている。

 身体が弱い父親から、弟のために足を洗うように説得されたホーは、台湾での麻薬取引を最後に引退することを決意。しかし、取引は何者かの密告で警察に知られてしまう。ホーは部下のシンを逃がし、自分は警察に捕まり刑務所へ。しかし、これでキットは兄が極道であることを知り、父親は陰謀で殺されてしまう。マークは敵のアジトを襲撃し、皆殺しにして復讐するが、足に致命的な重傷を負う。

 それから数年…。ホーは出所し、堅気として生きることを誓うが、世間の風は冷たく、なかなか就職もままならない。マークは組織の中で雑用係にまで落ちぶれ、どん底の生活を送っていた。そして結婚もし、刑事となったキットは、極道だった兄のせいで出世もできないとホーを恨んでいた。

 香港の闇社会は、今やシンがボスとして君臨していた。シンを倒し、巻き返しをしようとマークはホーを説得する。このセリフは、その時のものだ。ホーは拒否するが、やがて、マークは1人行動し、ホーもまた、キットに組織壊滅のヒントを与え、巨大な組織に立ち向かう…。
ああ、こうしてストーリーを書いているだけで胸が熱くなる。

「バイオレンスの詩人」とも評されるジョン・ウー監督だが、本家のサム・ペキンパー監督をも凌駕する、この作品における美しいバイオレンスシーンは、マークが1人で敵組織に乗り込むシーンにあると思う。

 マークはいつくもの拳銃を植木鉢など至る所に隠す。そして、後ろ向きに進みながら、次々と敵を打ち殺し、弾が切れると銃を捨て、隠していた銃を手にしてまた敵を打ち殺していく。無表情ながら銃をぶっ放していくチョウ・ユンファの動きを、ジョン・ウー監督はたっぷりとスローモーションで情感を込めて捉えていく。迫力があって凄惨なのだけれど、チョウ・ユンファの所作はどこか優雅でいて美しさを感じる。

 のちのち、作品中に必ず「ハト」を出すことで知られるジョン・ウー監督だが、御本人は根からの平和主義者であり、暴力否定主義者であるという。暴力描写が美しいからといって、暴力を肯定しているものでは決してない。これは深作欣二監督にも通じる。僕は深作監督からお話を直接伺ったことがあるが、暴力を否定するからこそ、暴力を描いているのだ、と明確に主張されていた。

 さて、このセリフを思うとき、この映画を製作したツイ・ハーク監督とジョン・ウー監督の当時の関係性がダブる。

 ジョン・ウー監督は中国の広州で生まれ、幼い時に香港に移住。アジアのハリウッドとも評され、数々の独創的なクンフー映画や武侠映画を製作したショウ・ブラザーズでキャリアを積み、ゴールデン・ハーベスト社などでコメディ映画や武侠映画を数多く監督し、人気を博した。

80年代に入ってシネマシティ社に移籍するものの、独自の路線で映画製作を続ける姿勢が会社の反感を買ってしまったのか、台湾支社に飛ばされてしまい(いわゆる左遷と思われる)、自由に映画づくりができなくなってしまう。

 この時、失意のジョン・ウー監督を救ったのが、この映画の数年後に「香港のスピルバーグ」と評されるツイ・ハーク監督だ。ツイ・ハーク監督は「男たちの挽歌」が公開されたこの年に傑作「北京オペラブルース」を監督、90年代に入って「ワンス・アポンナ・タイム・インチャイナ」シリーズで、これまでにない娯楽性あふれるアクション映画を繰り出して話題となる。

 「男たちの挽歌」は、このツイ・ハーク監督の製作である。彼が台湾で不遇な時代を過ごしていたジョン・ウー監督に手を差し伸べ、製作したのがまさにこの作品なのだ。劇中でも、ホーが失敗する取引の舞台が台湾であるなど、製作者たちの想いを反映しているシーンが随所に見られる。

 落ちぶれながらも、熱い魂だけは捨てず、心も体も傷ついた男たちが手を携え、巨大な敵に立ち向かう姿は、正に自分たちの姿を投影したものと言えるだろう。

 「お前は運命と戦ったことはないだろう?」とは、観客に対する問いであると同時に、製作者の自分自身への問いでもあったのではないか、と思う。

 僕は20代の終わりごろ、身内の事業の失敗で一文無しとなり、住むところも追われた。給与は裁判所に差し押さえられたため、仕事を辞めるわけにもいかず、会社の倉庫にゴザを敷いて寝泊まりしながら、週に4度、泊まり込みでホテルの皿洗いとフロントのアルバイトをしながら何とか生活をしていた。

 当時、世間はバブルで、友人たちは青春を謳歌していた。そんな中、食う金もなく、みじめな気持ちを抱えながら、ギリギリの中で生活していた。そうした状況の中でも、数少ないバイト代を工面し、食べ物を我慢して映画だけは観ていた。

 ある時、40キロぐらい離れた街に住む友人が、僕が勤務するホテルを訪ねてきた。「たまたま近くに用事があったから寄った」と言い、パンと牛乳を差し入れてくれた。彼にはどうしてこんな生活になったのか、理由は言わなかったし、彼もあえて尋ねようとはしなかった。
たわいのない世間話をしたあと、彼は「負けないでね」とだけ言って立ち去った。

 正直、負けそうになっていた時だったので、この励ましは効いた。骨の髄まで沁みた。彼もお金など持っていない。現金を渡すと、僕のプライドが傷つくと思ったのだろう。レジ袋には、不必要なぐらい、たくさんのパンが入っていた。

 あとで聞いた話だが、彼は「たまたま近くに用事など」なかったらしい。雨の日の深夜、僕のことを人づてに聞いて、いてもたってもいられなくなって駆けつけてくれたのだ。

 友情ほど有難いものはない。

 僕はこのときの励ましのお陰で、腐らず、会社も辞めず、何とかこの危機を乗り越えることができた。1週間で数時間しか寝られない時もあったが、彼のあの時の友情と「こんなの俺の運命なんかじゃない。絶対に這い上がって見せる」という意地が僕をすくったのだとつくづく思う。

「お前は運命と戦ったことはないだろう?」

 マークの熱い問いかけを想うとき、僕はあの時の「負けないでね」という友人の言葉を思い出す…。

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