「小寺醤油店」の先に「子宝湯」が移築されている。昭和4年(1929)足立区千住元町に建てられ、昭和63年(1988)まで営業が続けられた銭湯である。私も子どもの頃や学生時代は、銭湯通いをしたので懐かしくその頃を思い出した。
この「子宝湯」は、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」の映画モデルとなった建物としても有名である。狐格子の妻飾りを持つ入母屋破風には、蕪懸魚鰭付(かぶらけぎょひれつき)が取り付く。その下に張り出した玄関の唐破風(からはふ)は堂々としている。唐破風には、「松・鷹・雀」の兎毛通し(うのけどおし)で飾られ、虹梁(こうりょう)の上には「波・七福神・雲」の彫刻が施される。このような賑やかな装飾と寺社建築を思わせる外観は、震災後に建てられた東京の銭湯建築の特質をよく表しているという。
正面のタイル画が飾られた玄関から、左右上部のガラス欄間に示された「男湯」、「女湯」のガラス戸を開き、脱衣場に入る。脱衣場は高い天井が印象的な空間で、天井は折上げ格天井(ごうてんじょう)である。番台の肘掛けにまで彫刻が施されている。脱衣場の外側には、ガラス戸を介して濡れ縁を廻し、その端に外便所を置いている。
日本の伝統建築の空間を思わせる脱衣場に対し、浴室は洋風の雰囲気が強い。浴槽・床はタイル張りで、壁面は竪板張りおよびタイル張りとしている。天井の中央部は大きく持ち上げられ、高窓を設けることにより自然採光や換気が考慮されている。男・女湯の境が壁と当たる位置には、西洋の古典建築を思わせる柱頭を持った柱が立つ。こういった浴室の空間構成もまたいわゆる「東京型銭湯」の特徴であるという。

「千と千尋の神隠し」の映画モデルとなった「子宝湯」。

格天井。

富士山のペンキ絵。洗い場の衝立部分にもタイル画。

採光と換気に考慮した高窓。