たかおじさん
小さな不幸の物語
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私のブログによくおいで下さいました。小説をメインとして毎日2000〜4000文字程度のショートショートを一編ずつ(の予定)でUPして行きたいと思います。ご感想などをコメントとして付けて下されば幸いです。
なお、相互リンクして下さる方はトップ記事のコメントで連絡いただければと存じます。
小さな不幸とか、蜜の味などと書いてますが、実際にあり得ない話ばかりで御気分を害する事はないかと存じます。安心してお読み下さい
ここの作品を別のサイトにまとめ始めました。検索しやすく読みやすいと思いますので、覗いてみてください。
たかおじさんのサイト
http://takaojisan.web.fc2.com/index.html
です。
本ブログ内の記事の無断転載、引用は硬くお断りいたします。
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2008/09/26 900作目の小説をUP。
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もし時間があったら他のもお読み下さい。また将来数は増えてゆきますので、自薦作品は入れ替わるかと思います。
目次や自薦作品は上記
「たかおじさんのサイト」
をご覧下さい。作品数が増えてきて、検索も不便になりましたので、たかおじさんのサイトをメインとします。目次や一覧が容易になりました。イラストも所々に入れました。なお、作品に付けられた日付は、UPした日付とは無関係です。
ところで、下に出ている広告はこのプロバイダが勝手に挿入している物であり、各ページのトップコメントに自動的に入ってきます。しかし、私はこの広告には一切関与せず、いかなる責任も持たないことをご了承ください。
最終更新 平成21年08月08日
現在 996作目
作品の日付は、更新日付とは一致しません
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投稿者: takaojisan
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2008/4/28
「最新版」
小説
最新版 平成20年04月28日
そろそろ目印の鳥居が見えるはずだが、と思いながら飯田周三は慎重に車を走らせていた。幹線道路からこの県道に入ってきてかれこれ二時間ほど走っている。まだ午後三時ちょっと過ぎで日が暮れるまでにはまだ三時間ほど有るはずなのだが、ほとんど車が通らない。日本にもまだまだこんな所があるのかと改めて周三は思ったが、だから道を尋ねるにも人は居ないし、人家もたまに見えても道路から離れた田圃のむこうに見えるくらいだ。
その田圃もなだらかな山のすそ野に張り付いたような形で広がっていて、道路の反対側は広い草原になっている。畑にでもすれば良いのにどうしてこんなに広大な土地が無駄に広がっているのか、周三は不思議だった。
周三の会社が新しく工場を建てる土地を探していて、いくつかの候補地が挙げられたその一つが、これから周三が行こうとしている濡素六郡字斧露戸なのだが、とにかく周三が見てくることになったのだ。地名を聞いても、会社の誰も知らない場所だったし、終戦をする不動産会社もただ名前を知っているだけで、どんな場所か知らないらしかったので、手っ取り早く現地を見てきて、写真でも撮ってくるように言われたのだ。
むろん、事前に地図で調べたのだが非常におおざっぱに山と道路と田圃しか書いていない。どこが目的の場所なのかはっきり分からなかった。こうなればとにかく行ってみるしかないと、昨日会社を車で出てきて、今朝ホテルを出発したのだ。ホテルで聞いてみたが、確か名前は聞いたことがあるがどんな場所か、どこにあるのかホテルの誰も知らなかった。小さいホテルだから、誰も、と言っても従業員は五人くらいしか居ない。
手がかりは、とにかく幹線道路から濡素六郡入り口への道路に入り、そしてまっすぐ道なりに走って、右手の道路沿いに鳥居があるらしいのでそこを曲がれば突き当たり野山の裾一体が、濡素六郡字斧露戸らしいと不動産会社が行っていたのが唯一の手がかりだった。なにしろ、あてにしていたカーナビが幹線道路から入ってきて暫くして全く反応しなくなってしまったのだ。こんな時にカーナビが故障するとは思っても居なかったが、とにかく一本道の鳥居さえ見つければそれで良いのだからと飯田はこの道を来た。
しかし、いくら何でも朝から半日走り続けて目標の鳥居が見つからないのでは、幹線道路から入ってくる道を間違えたとしか考えられない。一度戻った方がよいか、と考えたとき、エンジンがおかしな音を立て始めた。はっとして気がつくと、ガソリンがほとんどなくなっている。考えてみれば昨日会社を出るとき近くのスタンドで満タンにしただけだから、そろそろガス欠になってもおかしくはない。しかし、こんなところでガス欠になったらお手上げだ。我ながらうかつだったと飯田は悔やんだ。なにしろ、幹線道路から入ってきて一軒もガソリンスタンドを見かけなかったのだから、これから引き返しても予備タンクが仮にあっても間に合わない。
周三はあわてて会社に電話をした。指示を仰ぐつもりだったのだが、電話が全くかからない。圏外になっていた。とりあえず車から出て周りを見回したが、もちろん車の一台も人の一人も見えない。ただ、ずうっと遠くの田圃の向こうに家らしいものが見えるだけだ。こうなっては仕方がない。飯田は車を道路脇に寄せ、その家を目指して田圃のあぜ道づたいに歩き始めた。今はとにかく、電話を借りてジャフにガソリンを届けてもらい、同時に会社に報告するしかない。
歩きながら急に感じた空腹とのどの渇きを紛らわせようと、飯田は会社にどう言い訳をしようと考えていた。まさか、日本にこんな場所があるとは想像もしていなかったが、都会育ちの自分が地方の過疎化を認識出来なかったのは仕方がないと言うしかない。それは会社も認めてくれるだろう。携帯電話が圏外になるのはビルや地下ならともかく、地方でそのような場所があることも実際に経験してみなければ実感は出来ない。とにかく、会社でも不動産屋も具体的にどんな場所か知らないのに自分を送り出したのだから、自分一人の不注意ではないはずだ。とにかく、会社の指示を仰ぎ、ジャフの到着を待って、ついでにジャフの係員におにぎりとお茶でも買ってきてもらって、それから一度ホテルに帰り、きちんと場所を調べて出直す、それしかないと飯田は結論した。
気がつくと、歩き始めてから三十分は経つのに、目標の家がほとんど近づいてこない。そんなはずはない。開けた田圃があるだけだから、常にその家の方角に歩いてきたはずだ。確かに曲がりくねったあぜ道づたいだから遠回りになるかも知れないが、三十分も歩いて目に見えている目的地に近づかないなどどう考えてもおかしい。振り返ってみると、置いてきた車もどこにあるのか分からない。車が見えなくなるほど歩いてきたのにどう考えてもおかしい。飯田は途方に暮れて立ち止まった。
「飯田君と連絡が取れなくなって、もう一週間も経つのに、警察はなんともいってこないのかね」
濡素六興産総務部部長松木和男は、課長の竹下陽介に訊いた。携帯に電話をしてみても、電波の届かないところにいるか電源が切れているとのメッセージしかかってこないのだ。
「ええ、さっきも問い合わせましたが見つからないようです。でも、飯田君も地名が間違っていたら気がついて問い合わせてくるだろうと考えていたのがどうも甘かったようです」
「でも飯田君の車には最新版のカーナビが付けてあるんだろう。斧露戸郡という土地が実際には存在しないという間違いが分かっている以上、カーナビを見れば飯田君も気がつくはずだろうがな」
「ええ、でもメーカーに問い合わせたら最新型人工知能付きのカーナビで、目的地に着くまで車を誘導する様に車と連携させる新しい機能が付いているとのことでした」
「そんな便利な機能が付いているカーナビを初めて使わせてやったのに、飯田君、どうしたんだろう」
そのころ、飯田は存在しない空間を当てもなくさまよっていた。
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投稿者: takaojisan
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2008/4/27
「舞姫」
小説
舞姫 平成20年04月27日
佐野茂代の引退興行があると仲間内からメールで知らせが来た。もっとも飯田周三は茂代がデビューした頃からのファンであり、この数年は茂代のホームページも観ているから茂代の引退興行のことは知っていた。一月ほど前、茂代を交えてファン達が飲み会を開いたときも、近いうちに引退するつもりだと、茂代自身が言っていたのだ。
「本当に皆さん、ありがとね。皆さんが応援してくれていたから、気がついたらこんな年になるまで板に乗っていたけれど、でももう何か体が思うように動かないのよ。だから限界だと思ったの」
「ええっ、茂代姐さん辞めちゃうの。まだまだ大丈夫じゃない。俺、姐さんが初めて劇場に出たときからずっと観ているよ。あのときから、姐さん、ちっとも変わってないじゃない」
「いくら何でも、変わってないはずないでしょ。あたし、十六で濡素六劇場に出てから、もう三十年近く経つのよ。今じゃ、出させてくれる劇場なんかないわ」
そんな茂代の言葉を聞いて、みんなうなだれた。集まったファン達は凡そ十人くらい。昔はもっとたくさん居て、茂代の出る劇場をそのまま追いかけて観ているファンも大勢居た。だが、今は劇場自体がほとんどなくなっている。二,三十年前までストリップ小屋は日本中に百や二百は有ったはずだが、今はもう十分の一くらいになってしまった。茂代が初舞台を踏んだ名門、濡素六劇場も去年廃業してしまった。なにしろ、ストリップに客が集まらなくなったのだ。そして自分で言うように、茂代はもう五十近いのだ。
今は想像もつかないが、茂代達の時代、デビューする踊り子の中には中学を出てすぐ舞台に乗る子達がいた。いまでも何人かはまだがんばっているが、踊り子が引退を決心するのは大抵は三十代の終わりくらいだ。もともと、今は早くても二十以上でデビューし、三十代の後半くらいまで踊り続ける踊り子は滅多にいない。大抵は二,三年で辞めてしまう。だから、茂代のように十六で初舞台を踏んで、五十近くまで舞台に出続ける踊り子など、殆ど居ないし、これからは踊り子自体なり手がなくなってきている。無理もない。小屋がなくなり、仕事もなくなってきているのだ。
「残念だなぁ、もう茂代さんの舞台は観られないのかい?姐さんのような色気を出せる踊り子は、若い子には居ないし。惜しいなぁ。後輩に教えるなんかしてるんだろう」
「うん、まあね。でも今の若い子は真剣には覚えない子が多いわね。でも本当に真剣な子は教えなくてもがんばってダンスや日舞の稽古をしているし。日舞の名取の人も居るのよ。私はダンスの方だったから日舞はやらなかったけれど、昔は忙しかったからまともにダンスの稽古も出来なかった」
茂代が言うのも分かる。茂代は売れっ子ダンサーで、十日毎に舞台が変わる日程を全く休み無しに全国を回っていたのだ。確かにその時代は月に百五十万くらいずつ稼いでいたらしいが、移動代、ホテル代、飲食費、特に後輩達や不安達におごる飲食費や衣装代などでかなりの額が消え、結局手元にはあまり残らないのが実情だったようだ。中には金を貯めるのが目的で踊り子になった子もいるが、茂代達のタイプは、稼いだ金は全部使ってしまうような所があり、だからこそ舞台だけに生きていた面があるのだ。
「そうか。茂代姐さんが決心したんなら仕方ないなぁ。これからどうするの。どこかに落ち着いて、何か店でも開くとか・・」
周三が聞くと、茂代は首を振った。
「前はそんなことも考えたんだけどね、はっきり言ってあたし人に愛想の一つも言えない人だし、それに店をもつったってお金がないわ。前はね、ダンスなんか教えてみたいなぁ、って思ったこともあったんだけど。今は、生徒が集まらない。まあ、何か考えるわ」
周三は聞かなければ良かったのかと思った。茂代に金がないのは分かり切ったことだ。大金が稼げたのは昔のことで、今は滅多に舞台に立たず、しかもギャラは大幅にダウンしている。どこの小屋も苦しいのだ。それに今の客はストリップを風俗と思っているから、芸などどうでもよく、単にさわったり覗いたりピンクサービスが有れば良いのだ。それなら、体だけは見栄えの良いコロンビア辺りの女の子で十分だから、割高で風俗サービスをしない茂代達に仕事を回してくれるコース切りは居ない。ちなみにコース切りとは、踊り子のスケジュールを劇場に売り込む手配師だが、茂代は自分で劇場と折衝するようになっていた。コースきりのピンハネが多すぎるのと、茂代の仕事を他の若い踊り子に振り向けていることを知ったからだ。結果は仕事の激減だった。
五十近い茂代は、こうやって一緒に飲みながら間近に見ると確かに昔とは大違いなのだが、普段から体を鍛えダンスで体を動かしそして舞台用の化粧のために、体自体はおそらく三十代のままだと思えた。又はここに集まるファン達の平均年齢六十幾つという事もあるのかも知れない。みんなストリップに入れあげ茂代の後を追いかけていたような連中だから、金を持っているはずがない。だから、茂代に援助をして何とかしたいと思ってもそう出来る人間は居ないのだ。むろん、茂代もそんなつもりはない。実際、その後の生活がどうなるのか、周三には分からなかったし、分かったところでどうにも出来ない。
「ホームページはどうするの。引退したら閉じてしまうのかなぁ」
周三の問いに、茂代は傍らにいた竹下陽介を見た。竹下陽介が茂代のホームページを管理しているのだ。ホームページに寄せられるメールはファックスで茂代に送り、茂代は手書きで返事を書いてファックスで竹下陽介に送る。竹下陽介はそれを茂代の回答としてコメント欄に載せる。ホームページ自体は、やはり六十過ぎの竹下陽介がデザインしているだけに泥臭いが、それを観る周三はとにかくかろうじて観ることが出来るだけの知識しかないから、ホームページを作れる竹下をうらやましく思っている。
「今は考えてないけれど、様子を見て継続するか辞めるか決めよう」
引退興行の知らせが来て、どうにか観に行く予定を作ったときに、竹下から連絡が来た。引退興行は中止だという。なんでも茂代が自宅マンションで死んでいるのが見つかり、警察では肝硬変が悪化した結果の病死だと発表したとのことだ。
茂代のあっけない死に周三は呆然としたが、考えてみれば二十代の頃から茂代を見てきた自分もおそらくこんな風にあっけなく死ぬのだろうと想像した。考えてみたら、茂代の舞台以外まともな思い出もない。知らないうちに、俺も引退を迫られていたのか、と周三は今更ながら一人暮らしの狭いアパートの部屋で思った。
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投稿者: takaojisan
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2008/4/26
「孤立」
小説
孤立 平成20年04月26日
このところ、世界中が移住の話題で持ちきりだ。そもそもこの世界が人類の生存を支えるには限界に近づいていて、新しい惑星に移住しなければならないとはずうっと前々から言われていたのだ。
「茂代、聞いたか?俺たちもしかしたら新しい惑星に移住することになるかも知れないぞ」
仕事から帰ってきた飯田周三は、女房の佐野茂代に行った。茂代は夕食の準備を終えて作った物をテーブルに並べているところだったが、何しろ妊娠五ヶ月目なので動きがのろい。周三はすぐ着替えて、それから茂代を手伝いながら話を続けた。
「全部政府の言うことだから俺たちにはそれがどういう事か完全には分からないけれど、政府の話だととにかく今よりは暮らしが楽になるそうだ」
「暮らしが楽になるなら何でも良いわ。どこにでも行くわよ。でもこの子が私たちより幸せになってくれなきゃ、今まで我慢してきた理由がないもの」
「大丈夫だよ。今まで政府が間違ったことを言ったことはないからな」
「あなたって、単純だからねぇ。でも、だから長生き出来るんだと思うわ。私の父さんだって、母さんだって、三十になる前に死んでしまったけれど、いつも政府の言葉が本当なのか、って言ってたわ。だから早く死んだんだって・・・」
「滅多なこと言うなよ。俺の親父も三十ちょっと過ぎで死んだってお袋が言ってた。俺は親父のことを全然覚えていない。だけど、お袋は死ぬ前に、とにかく政府の発表に疑問を持っちゃいけないって言ってたんだ」
「分かってるわよ。でもこの子が生まれるまでは私が死ぬことはないから、ちょっと言ってみただけ。政府のすることに間違いはないわ。さ、用意が出来たから御飯にしましょ」
食卓には妊娠している茂代のために特別な配給がある。そして、子供が生まれると、授乳期間は母乳の出を良くするための食料が特別配給されるし、離乳期間が過ぎると子供のための離乳食から始まって、子供の成長を正常に促す食料が配給される。そのため、子供が死産するなどあり得ないし、生まれた子供は申し分のない健康状態でそだちそして大人になる。
当然大人になっても人間は全て健康だった。周三達の遠い祖先達が飢えや病気に苦しみ、生まれる前に死ぬ赤ん坊が居たり、生まれてすぐに死んだりしていた時代が有ったことは無論学校では習ったが、周三達が知っている限り病気で死んだ人間が居るとは聞いたことがない。人間の死とは、ある日急に、誰もがまったく予測していないのにその人間が動くのを止め、呼吸も止める状態を言う。そうなって、初めてその人間の寿命が来たのだと周りの人々は知るわけだ。昔のように極端な老衰や病気が全くないのだから、人間にとって死とは突然、しかし前触れ無く確実に訪れるものなので、或意味死に対するおそれはあまり無い。とにかく、死ぬ瞬間まで健康に生きてゆけるのだから。
「へぇ、今日は何かあったのかい。いつもより豪華だな」
「あなた、最近ちょっと力仕事が多いでしょ。疲れが出ているって連絡があったの。だからよ。ビタミン類やタンパク質が一週間くらい余分に与えられるわ。だから、全部食べてよ」
「そうは言っても、急にたくさんは食べられないしな。何回かにわけて食べるよ」
「そうしてね。余ると困るのよ。いちいち返さなければならないし、返すと次にその分余計に来るんだから」
「分かっているよ。それにしても最近なんか味が単調になってきたような気がしないか。君の料理は俺が知るかぎり最高なんだがな」
「料理って言ったって、切ったり炒めたり味付けしたりだし、あまり高温をくわえちゃいけないとか、調理の過程で捨てちゃいけないって言われてるから、しょうがないのよ。近頃同じ材料しか来ないんだもの。料理するったってどうしても同じものが出来ちゃうのよ」
「いや、君に文句を言っているんじゃないんだ」
何かのタンパク質の固まりを刻んで、おそらく植物質の繊維のようなものと一緒に炒め、どろりとした乳白色の液体を絡めた料理が今日の夕食だ。茂代は妊娠後期用の特別職として、赤いゼリー状のものをすくって食べている。周三も前に一口食べたことがあるが、甘ったるくて決してうまい物ではなかった。
「君の予定日は一週間後だったよな。手続きは大丈夫だよな」
「大丈夫よ。五ヶ月と言えば臨月だし、大体は予定通りに生まれるし、政府から何人も来てくれるから心配はないわ。一人目だから育児にも大勢来てくれるし。私の割り当ては三人の出産だから、あと三年くらいかかるわ。二年に一人のペース。体に負担がかからない用にそう決められて居るんですって。三人も生めるのは私とあなたの組み合わせから政府がそう決めたからよ。良かったわ、あなたと一緒になれて」
十六才の時に十七才の周三と出会い、恋愛を経て結婚したのは一昨年。二人の心身共に相性が良いことが確認されて、出産プランが政府から渡され、周三は政府の斡旋で食料プラントで働き始めた。各家庭から回収される排泄物や時折運ばれてくるペットの死体などを再加工して食料にするのだ。また、一日おきくらいに運び込まれてくる材料は、なんでも死んだ人間だとの噂もあるが、どのみち死んだ人間はすぐに政府が回収しどこかに持って行くのだから、その行く先は食料として再利用されるのだとは公然の秘密だった。政府も別に否定はしない。
なにしろ、この移住船、NUSUMUでは、あらゆるものを再利用しなければ一万人もの人間を代々生存させて目的地まで連れて行くことが出来ないのだ。NUSUMUのメインコンピューターは、同時期に生存させられる人間を一万人とし、平均三十才まで生存させその間に速成教育と出産育児をさせ、壊滅した地球から連れだした人間はいま凡そ五十代目にさしかかっている。出発から千五百年で、節約に節約を重ねてきた物資もそこをつき始めている。おそらく目的地サンド星につく頃は、人間の数は千人になるはずだ。それでも、参土星で新しい文明を築くには十分だ。人間の文明は全てNUSUMUのメインコンピューターに記憶され、五十代に渡って生きてきた人間達が厳しいサンド星に合わせて発達させてきた新しい文明もある。そして、新しい文明の力でサンド星の自然をもっと穏やかで豊かに改良出来るだろう。そうすれば、人間の寿命は本来の凡そ百年、体格も今の身長三十センチではなく百八十センチに戻すことが出来るだろう。全て予定通りに運んでいる。
もし、政府、すなわちNUSUMUのメインコンピューターに感情があるなら、深い満足感を感じていたことだろう。
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2008/4/25
「父を訪ねて」
小説
父を訪ねて 平成20年04月25日
「飯田さん、受付にお客様です」
受付から電話をもらい、飯田周三は誰だろうと思った。庶務課で地味に仕事をしている自分に、客などあるとは思えなかった。一人暮らしのマンションに帰っても近所づきあいはほとんどしていないし、友人も殆ど居ないから周三を訪ねてくる者など居ない。たまに、田舎から様子を見に来る両親くらいのものだ。
「どなたですか?」
聞き返した飯田に帰ってきて返事は信じがたいものだった。
「お嬢さんです」
「お、お嬢さん?僕は独身ですよ。子供など居ませんよ」
「とにかく、いらしてください。ご本人は、お父さんに会いに来た、自分は佐野茂代だとおっしゃってます。あとはお二人で解決してください」
「解決って、何を・・いや、今行きます」
庶務課長の松木和男がいつの間にか側に立っていて、周三に言った。
「どうも事情があるようだな。とにかくきちんと責任を取りなさい。俺も相談に乗るよ」
言葉とは裏腹に興味津々の顔をしている。見回すと、いつの間にか課員が周三を見つめている。普段目立たない周三が注目を浴びた滅多にない出来事だった。
とにかくロビーまで駆け下り、周三は受付にダッシュした。
「どこに居るんですか、その客は」
「あ、お嬢さんなら向こうの面談スペースにお通ししておきました」
「だから、娘じゃない。僕には娘は居ないし、第一結婚もしていない」
「でもすごくよく似た、かわいいお嬢さんですよ。本当に逢いたがっているようでした」
よく似た、かわいいと言う部分に妙にアクセントを置いて受付の中根真美は言った。ここで、真美と言い争いをしても仕方がない。
「とにかく逢ってみよう。何を勘違いしてるんだか。どんな子ですか。なにしろ逢ったことがないから誰だその子か分からない」
「お子さんは一人ですからすぐ分かりますよ。それに飯田さんにすごくよく似たかわいい女の子です」
またよく似たかわいい、に力を入れて中根真美は言った。明らかに嫌みだ。生っちろく胴長短足のデブで、みっともない童顔に太い黒ブチのメガネの自分によく似た女の子なら、かわいいというのは間違っている。そんなことをちらりと考え、そんなことはとにかく本人に勘違いを悟らせなければならないと周三は面談スペースに急いだ。
飯田が行ってみると、面談スペースの隅に置いてあるコーヒーの自販機の前のテーブルに一人の十二,三才の女の子が座っていて、缶コーヒーを飲んでいるのが目に入った。たしかに、業者がほとんどのこのスペースには子供は一人だけだからすぐに分かったが、それより中根真美がよく似たかわいい、ことさら行った意味が分かった。かわいいはともかく、生っちろく胴長短足のデブで、みっともない童顔に太い黒ブチのメガネの周三に、その子佐野茂代はよく似ていた。太くはないが黒縁眼鏡までそっくりだ。
「君か、僕を訪ねてきたのは」
「あ、お父さん。こんにちは。茂代です」
「まて、君は何か勘違いをしている。僕は飯田周三だ。君の父親ではない。僕は一度も結婚したことがないし、子供を持ったこともない」
「それはお父さんがそう思っているだけです。子供は結婚しなくても出来ます」
「それはそうだが・・いや、僕にはそんなことをした覚えがない」
「ええ、お父さんが女性に全く縁がない人だとは受付の人に聞きました。彼女居ない歴三十八年だって・・」
「あいつ・・余計なことを。とにかく、それで君も分かったろう、俺は君の父親じゃない」
「お父さん、大学にいたときアルバイトしたでしょう」
「そりゃ、誰でもするよ。それがどうした」
「大学の医学部に精子を売ったことがあるはずです」
「う・・・ある。あのときは金が無くて。でも実際に使ったはずがないんだ。これで人間を受精させる実験はしないからって約束で金をもらった」
「ええ、だから、あの精子は人間以外の動物の卵子を受精させるために使われたんです。私の父、松田朗がそう言ってました。遺伝子を変化させて、異なった種族間の動物でも受精卵を造る実験で、それが成功したんだそうです」
「松田朗?そうだ、俺に精子を提供しろといったのは、医学部研究室の松田朗助手だった」
野心に燃えていた松田朗の事は覚えている。何か新しい研究に使いたいので是非精子を提供してくれと言われたのだ。その時は金がなかったので、細かいことは考えずに精子を提供した。そして忘れていた。
だが、それでも佐野茂代が何を言っているのか周三は理解出来なかった。理解しようと一生懸命考えている周三の前で、茂代は足下に置いてあったキャリーを持ち上げ、テーブルに乗せた。中には大きな猫が入っている。
「さ、陽介、あなたのお父さんよ」
そう言いながら、茂代はキャリーの中から猫を出し、テーブルに載せた。
「ね、よく似てるでしょ。大学から連れてきてうちで飼っている猫の竹下陽介よ。どうしてもお父さんに会わせたかったの」
生っちろく胴長短足のデブで、みっともない童顔に太い黒ブチ模様が目の回りについた猫、竹下陽介が、周三の顔を見上げ、ニャァーと鳴いた。
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