2008/4/19
兄貴 平成20年04月19日
茂代が帰ってきたのは朝の三時過ぎだった。飯田周三はうつらうつらしていて妹の佐野茂代が大きな音を立てて帰ってきたのを聞きつけたのだ。二十三にもなる若い女がこんな時間まで飲んだくれて、やはり気を揉んでいたのだが、とりあえず帰ってきたのでほっとした。あまりがみがみ言ってもしょうがないとは思う。二十三と言えばもう昔の泣き虫で、何かと言えば自分の背中にしがみついていた子供ではない。自分で自分の始末を付けなければならない大人なのだし、とにかく今の時間になっても帰ってくるのだから、感心と言えば感心だろう。
もう一度寝ようと、寝返りを打って目を閉じた所へ、いきなりドアを開けて茂代が入ってきた。
「こら、お前の部屋は隣だ。入るな」
「お、兄貴、起きてたの。そっか、部屋間違えたか。布団敷くの面倒くさいよ。一緒に寝ようよ」
「馬鹿、来るな、酔っぱらいめ。くっさいなぁ、お前、明日も会社だろう」
「もう、今日だよー。うん、会社。だから、早く寝なくちゃ」
本当に布団に手をかけた茂代を押しのけ、周三は布団から出た。
「本当にこいつ。あ、もうパジャマには着替えてるのか。じゃあ、お前ここに寝ろ。俺はお前の部屋に行って寝る」
「そ、悪いわね。おやすみ・・」
本当に布団に入り込んだ茂代を後に、周三は隣の茂代の部屋に行って布団を敷き、横になった。すっかり目が覚めたが、妹の匂いのする布団に寝るなど何年ぶりかとおもったりしたが、昔は一緒に寝ていたのだ。あるいは、最近までと言っても良い時までだ。
寝そびれて周三はいつの間にか昔のことを思い出した。両親が離婚してまず父親が出て行き、すぐ母親が幼い周三と茂代を残して家出をしていって、それから二人が施設に入れられたのは、周三が十才、茂代が七才の時だった。茂代は当時から周三に頼りっきりで、施設で虐められたり先生に叱られたりするとすぐに周三の所に来て、背中にしがみつきしゃくり上げるのが常だった。そんな茂代を周三は抱きしめてやり、慰めた。
施設で兄妹だと言っても、夜は別々だ。最初の頃は茂代が心細がり、周三自身も精神的に不安だったので特別一緒の部屋を与えられ、夜は抱き合って眠っていたが、それも精々一年で、後は別々の部屋で、男の子同士、女の子同士で寝るようになった。その状態になれるのは茂代にはなかなか難しくなったようで、朝になると一番に周三の側に飛んできて、学校へ行くまで離れなかった。
周三が中学校へ行くようになり少しずつ茂代は周三と離れていても我慢が出来るようになっていたが、周三が中学を出て暫くして住み込みで働くようになると、一人施設に残された茂代はほとんど毎日周三の所に来るようになった。毎日一,二時間ずつ、雑用をしている周三が見えるところにいてから、施設に帰るようになった。
三年ほどして、周三が部屋を借りて一人暮らしをするようになってから茂代が施設を出て一緒に住むようになった。こちらは通いの仕事を始めるようになったのだ。部屋が一つしかなかったから嫌でも一緒の部屋に寝たし、最初は布団が一組しかなかったので一緒に寝た。布団を買って並べて敷けばそれだけで一杯になる部屋で寝ていたのではあまり変わったとも思わなかったが、そんな状態が五,六年続き、少し大きな今のアパートを借りるまでそんな状態が続いた。二部屋有ったので、別々に寝るようになったが、それでも良く話をしながら同じ部屋に寝たりはしていた。もう周三が二十三、茂代が二十になっていたから、まずいのではないかと二人とも、少なくとも周三は思っていたが、別々に生活をするだけの収入にはならなかったし、幼い頃から二人きりで生きてきた意識が強く、他のうちのように親が意識するような事はなかったようだ。
当然だが、中学生くらいの頃、寒い夜など茂代と抱き合って寝ると、茂代の体が柔らかくしなやかなことなどが気になったが、後ろめたいとも思わなかった。一緒の部屋に住み始めた頃はむろん別々に銭湯に行っていたが、それでも茂代が周三の目の前で平気で着替えたりするのを見ると、どうも正面からみるのは恥ずかしかった。茂代はまるで平気だった。夏は冷房のない部屋で、二人ともパンツ一枚で過ごしていたが、親がいればむろんこんな事をさせるわけがないだろう。しかし、二人はそれが当たり前だったので、人がどう見ているかなどは気がつかなかった。
二部屋有るアパートに移り、二人とも遅く帰ってくる日が多かったので、風呂に入る時間を節約するため、仕方がないので一緒に入ったりした。茂代はどうしても長風呂なので、それを待っていると周三が風呂に入れないことがあったからだ。
どうもこれはまずい、とは周三は思っていた。茂代がどう思っていたのか、むしろどうも思わない振りをしているに違いないと周三は思っていた。子供の頃と違い、今では茂代も一人でいろいろなことを外でやっているし、何かあっても周三にしがみつくようなことはないが、それでも仲の良い姉弟だった。仲の良い姉弟だったから、たまに一緒に風呂に入ってもまあ、良いかと思っていたのはそうだと思う。茂代は、周三から見てもきれいになった。それなのに、茂代は彼氏が居ないと笑う。どんな男でも、兄ちゃんと比べちゃうんだ、と笑うのを聞いて、周三もそれはまずいと考えないでもなかったのだが、周三自身が気になる女が居てもそれ以上の気持ちを持てないのには気がつかなかった。
そんなことを考えているうちに、周三はいつの間にか寝ていた。そして、ふと気がつくと、茂代が自分にしがみついて寝息を立てているのに気がついて目を覚ました。しょうがないか、と周三は苦笑いをし、そっと茂代の体を抱きしめたが、同時にこんな事をいつまでも続けているわけには行かないのだと考えた。だが、いつ自分たちはこんな事をしなくても済むようになるのか、それは分からなかった。

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投稿者: takaojisan
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