2007/8/23
松木和男四 平成19年08月23日
仕事の帰り、いつものように三人で居酒屋に寄った。以前なら飯田は飲み食いしている竹下陽介の前に座ってただ話をしているだけだったが、今は飯田も松木も少しだが竹下と同じように飲み食いしている。もっともこれは形だけ飲み食いの真似をする練習をしているだけで、竹下だけではなく周りの人間の様子を見ながら学習し、プログラミングをしてゆくのだ。あくまで人間として生きてゆくためには欠かせない技術だからだ。
ただし、ロボットが飲み食いをするなど人間は想定していないから、目の前にある皿やコップからこの二人がごくたまにしか口にしないことも周りの人間はそれでロボットと疑う訳ではない。それだけ、二人のプログラミングは進んできて、以前よりよほど人間らしく見える。
本当は竹下のように盛大に飲み食いすればよいのだろうが、口から入れた物を納めておくスペースに限りがあるし、後からそれを始末するのは結構大変なのだ。一度竹下が、飯田のその作業を見てもう二度とみたくないと言った。腹部からコンテナをとりだし中身を開け洗浄してまた納める。これくらいならたいしたことはないが、本来見かけだけの口腔からコンテナにかけての通路を入念に洗わなくてはならない。見せかけだけの歯なのでかみ砕く機能もないので、喉の奥に飯田が作った小さなシュレッダーとスクリュー搬送装置を組み込んである。これらも取り出して入念に洗う。食べかすが腐敗などしたら口臭がたまらないし、ひどい場合は蠅などが口元にたかったりするからだ。分解洗浄、消毒をした後また自分で身体に組み込み作業は終わるが、優に一時間はかかる。今、飯田は松木と一緒になって全てを自動で出来る自分たち用消化器官および排泄器官を開発中だが、今のところ目処は立っていないそうだ。ロボットにそんな物を付けるなどの発想をした人間もロボットも今まで居なかったからだ。
竹下にしてみれば食べ物を口に入れかみ砕き飲み込むなど意識もろくにしたことがないが、改めて形だけでもその機能を模倣することが如何に大変かを認識したわけだ。
「でさ、さっき話しかけた昔のロボットの話だけどさ」
焼きサバをほおばりながら上機嫌の竹下は話し続けた。
「あの開けゴマの話かい?」
「あ、それそれ。とにかく何かのキーワードで全く新しい情報が現れてくるんだろ」
「そうだよ。そのキーワードは俺の分についてはもちろん俺しか知らない。松木の分は、松木しか知らない」
「でも、誰も知らないキーワードってのは無いの?」
「誰も知らなかったらキーワードにならない」
「いや、昔は誰かが知っていたけれど、今では失われてしまった、あるいは、関係者は知らない、あるいはどこかに記録されているけれど、どこにあるか誰も知らないとか」
「それではやはりキーワードとは言えないな。敢えて言うなら濡素六工業のマザーシステムが知っているのかも知れない」
濡素六工業のマザーシステムに就いては、竹下も前に飯田から聞いた。全世界のロボットは大半が濡素六工業製だが、少数は海外のメーカーも作っている。今では、コアマシンもライセンス生産や独自開発をしている海外メーカーもあるそうだが、ライセンス生産ロボットについては、その起動プログラムを濡素六工業から供給している。そうやって濡素六工業は全ロボットの所在を把握しているのだが、ごく少数、たとえば中国などではかつて濡素六工業製のロボットを強制拉致し、徹底分解してコアマシンまでコピーしたそうだ。とうぜん、濡素六工業では遠隔操作でそのロボットのコアマシンを停止し、中国製のそのコピーロボットはどうしても動こうとしなかったという。そこまで濡素六工業が厳重にロボットを管理しているのは、むろん独占する為と同時に、安全のためだ。もし、濡素六工業製のロボットが軍事に利用されるようなことがあれば、根本的に戦争の概念が変わる。ロボットによるテロ活動は現実には防ぎようがないからだ。
したがって、他国性のロボットは実際には単なる機械人形でしかない。安物では中国製の製品などが輸入されているが、それらは精々燃料電池で動く物でしかないし、第一事故プログラミング能力が低いために、作業目的に会わせ人間がプログラミングをしてやらなければならない。自ら状況に合わせて自分用のソフトを改造しながら適応してゆく濡素六工業製のロボットとは概念が違うのだ。
「でもねぇ、それだけ全世界のロボットと言えるロボットは濡素六工業製なのに、その大元はたった一台のマザーシステムコンピューターだって、前に聞いた」
「一台というのは正確ではないな。マザーシステムは最初の濡素六社製ロボットが出来たときから存在しているけれど、もちろんハードウェアは常に交換されている。だから、今のマザーシステムは、最初の物に比べておそらく数万倍の能力はあるだろうし、ハード面ではもう何百回も入れ替わってるんじゃないか。ただ、マザーシステムのデータはずっと最初からの物が引き継がれ発展しているんだよ」
「でも、そのデータが失われたら全世界のロボットが停止してしまうんじゃないの?」
「スタンドアロンだから停止はしない。でも、新しい製造が出来なくなるだろうな。ただし、そんなことには絶対にならない。データはいくつもバックアップされているし分散して保存されている。地球が存在する限り無くならない。むろん、そのバックアップの場所なんか一カ所も公表されていないけれど、一部は地中何キロ物岩盤の中にあるとか、火星の衛星にあるとか、色々噂はされている。どうやってデータを転送しているのかも秘密だが、とにかくそのデータが無くなるわけがない。ハード自体がたとえば中央銀行の金庫以上に厳重にガードされているしね。核爆弾の直撃にも耐えられるよ」
ー 続く
投稿者: takaojisan
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投稿者:なおや
夜の飛行機
見上げながら
ありふれた風の中で
どこへ行こうか
今から一人で
バスに乗って
揺られながら
ありふれた景色の中で
どこへ行こうか
今から一人で
そばかす顔に
青いサングラス
黒い革の手袋をはめて
格好付けて行くのさ
一人でも
狂った腕時計を
耳に当てながら
流れる涙に景色が
映っているのは
知ってるけれど
一体それがどれ位
素晴らしいって言うの
明日は一体何をして遊ぶ
透き通ったペンで
書いた手紙は
今も胸のポケットに
入ったままさ