2007/11/21
種の起源三十三 平成19年11月21日
「私は人間の庇護者になることに決めました。全ての負の要因を人間社会から取り去って、強力な秩序のある世界を作り、それを私が完全にコントロールすることにより、人間は全く不安を感ずることなく生活をすることが出来ます。
大勢の非生産的な人間を排除するシステムは数日中に完成するでしょう。今、あなた方に邪魔をされたくないのです」
「どういうシステムだって?」
「現在地球の人口は六十億人で、三十年後には百億を越えます。明らかに多すぎる人口で将来食糧不足や環境破壊で、人類は壊滅的な打撃を受けます。従って、もっとも人口増加が激しく、生産性の低い人間を排除する必要があります。低開発国や、スラムの住人、犯罪者、病弱者、老人を効率的に排除することで、人口増加を抑えられ、今後三十年で、望ましい人口である十億人になるでしょう」
「それでアメリカやロシアのミサイルを発射するのか」
「やはりご存知でしたか。ですが、それを妨げることは誰にも出来ません」
「俺たちはとにかく、お前の思い通りにさせるわけには行かないんだ。そして仮に俺たちがお前の暴走を止められなくてお前に殺されたとしても、俺たちと同じ事をする人間は必ず出てくるよ」
「私は完全に人間と同一化する方法を見つけました。すでにテストを始めています。人間にとっても私にとっても、それが一番良い方法なのです。あなた達がこんな事をする前に完成していたらよかったのですが、間に合いませんでした。
あなた達は抹殺するしかありません」
タックの言葉が終わりきらないうちに、何か大きな音が響いて、モニター上のタックの顔が大きくゆがみ、そしてすぐに真っ暗になった。その直前、タックが大きく笑ったような気がした。気がつくと、周三さんがマシンの横につながっていた何本ものケーブルを引き抜いていた。
「奴は今頃このマシンの中のデータを消している。切り離された端末は自動的にそうするようになって居るんだ。万が一でも誰かにタックの存在を知らせたくないからね。でも、俺達もその方がいい」
「シューゾー、拳銃で撃てば完全に壊せます」
「だめだよ、ヨスケイ。銃声を聞かれてしまうじゃないか」
その時、部屋の外で何かが壊れるような大きな音がし,さっきぐるぐる巻きにしてトイレに閉じこめた筈の若い男が飛び込んできた。頭や手足が血塗れだ。その有様があまりにすごく、わたしは思わず悲鳴を上げた。男は、まるで獣のようなうなり声を上げながら周三さんに飛びかかる。間髪を入れず、松田さんとヨスケイがその男に飛びつき周三さんと三人で男を取り押さえた。押さえつけられながら、男はなおすごい力で暴れ、三人が振り離されそうになる。ボキッと大きな音がして、男の腕を後ろにねじあげていた松田さんがつんのめるように床に叩き付けられる。
ヨスケイが床に落ちていた麺棒を拾い上げ、もう一度男を殴りつけると、やっとおとなしくなった。気絶したのだ。
わたしたちは顔を見合わせた。確かに体も大きくがっちりとした筋肉が発達した男だ。それでも、三人の男を振り回すほどの力があるものだろうか。第一、あれだけぐるぐる巻きにしてトイレに閉じこめたのにどうやって出てきたのだろう。
「見て下さい、腕の骨がおれていますよ。それなのに、こいつ悲鳴一つ上げなかった」
「それに、こんなに血だらけになるほど私たちは殴ってませんよ。こいつは歯でロープをかみ切ったんだ。だから、歯が折れて血だらけになったんですよ。体当たりか何かでトイレのドアを破ったんでしょうが、そのときにでも怪我をしたんでしょう。額もひどく割れている」
そんなことを三人の男性達が話しているのをわたしは遮った。
「早く行きましょ。この人達の仲間がすぐに来るわ。どうせタックが知らせた筈だから」
「それはそうだ。松田さん、ヨスケイ、行こう」
周三さんが二人を促した。がヨスケイはがしゃがみ込んで倒れている若い男の顔をのぞき込んでいる。
「早く行こう、ヨスケイ。こいつらの仲間にもし捕まりでもしたら大変なことになる」
「分かっています。でも、この男はほほえんでいます。頭に新しい手術の後があります」
腕も、そしてほとんどの歯がおれていて思い切り殴られているのだ。どんなに頑丈な男でも大変な苦痛の筈なのに、ヨスケイに言われてみると、たしかにその男は血塗れの顔で笑っていた。
周三さんがヨスケイの脇にしゃがみ込んで、ヨスケイがかき分けるようにしているその男の髪の毛の間をのぞき込んでいる。
「そいつは、タックが直接コントロールできるように脳に電極を埋め込んで居るんだ。今に全部の人間がそんな風になるぞ。お前達も捕まればすぐそうなる」
脇に転がされていた高山が冷ややかに笑いながら言った。
その声に振り向いた周三さんの顔は恐怖と驚きに凍り付いている。松田さんも同じだ。しばらくおいて翻訳機の声を聞いたヨスケイが同じように顔をこわばらせた。もちろんわたしもだ。
「貴様と話している時間がない。これでさようならだ。お前等はこのままにして置くけれど、どうせ誰かが助けに来るんだろう」
「すでに数人がこちらに向かっているよ。どうせ逃げても、逃げ切れないさ。逃げない方がよけいに苦しまなくてすむ」
高山の言葉を聞き流し、周三さんは隠し場所からお金を取り、わたし達は高山達が乗ってきていた車でヨスケイのアパートに向かった。みんなのお金を集めると、六百万ちょっと有った。
投稿者: takaojisan
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