2007/11/25
種の起源三十七 平成19年11月25日
そして詳しい説明を聞き、技術的な内容はともかく、わたしも納得した。なるほど、これなら確実にうまく行く。二人の専門家がそう言うのだ。が、その件は周三さんにはプログラミングが済むまでは言わないことにした。朝霞の本体を破壊する方法はヨスケイと松田さんに任せてある。今は少しでもよけいな事で周三さんの邪魔をするべきではない。
その夜おそらく真夜中の二時頃、ベッドでまどろんでいたわたしの耳に周三さんの喚声が聞こえた。マシンの前で周三さんが小躍りをしそうな興奮の仕方だ。
「どうしたの?」
「出来たよ。完成だ。これをネットに流し込めばタックは絶対に破壊される。自信がある」
その顔を見て、わたしも確信した。必ずうまく行くだろう。
「うれしい。じゃあ、ヨスケイ達もうまく行くって言ってる。ハードの本体を瞬間的に壊す方法が見つかったのよ。明日にでも実行できるって」
周三さんは、満面に笑みを浮かべわたしを抱きしめた。隣の部屋では二人がつかの間の間交代で寝ているはずだ。大きな音は立てられない。
朝の通勤時間になってたくさんの人たちが動き出してから、わたしたちは車で東京へ向かった。当然、みんな飯田ですっかり垢を落とし、すっきりと着替えている。それぞれが憔悴しきってげっそりと痩せていたが、目だけは輝いていた。
作戦自体は松田さんに言わせればあっけないほど簡単なのだ。周三さん達は大きな箱形の貨物車を盗んできた。もちろん車を盗むのが犯罪だとの意識など、誰にも無かった。用意していた偽のナンバープレートを取り付け、それから秋葉原や方々の電気材料店、日曜大工の店などで,わたしには何に使うのか分からない大きな電機部品を大量に買って来た。わたしもメモを片手に、工具や電線、ボルトなどを買って回る。要所要所では、駅やデパートのような大勢の人間が集まる場所で短時間だけ顔を会わせたが、それ以外はそれまでのようにバラバラに動く。今更ながら警察に追われながら一人で動き回るのは、本当に不安だった。でも、わたしが仮に捕まっても、ほかの人たちがいれば計画は遂行できる。二人が逃げ延びれば計画が遂行できるように決めていたのだ。
そして、わたしたちは誰一人捕まることなく、再び廃工場に集まることが出来た。これから、タックのハードの本体を壊す機械を作るのだ。
主に松田さんがフリーハンドで色々な図面をざっと描き後の二人に説明している。なんでも、大半が大きなキャパシターからなる機械で、あとは整流器だとか発振器,パワーモスエフイーティーなどなどからなっている機械だという。どういう風に働くのかはわたしには全く理解できないが、周三さんもヨスケイも異存がない様なのでわたし自身は別に分からなくてもいいのだけれど、やはり少し悔しい。もちろん、わたしも手伝った。部品を箱から出して並べたり、電線を切って皮をむいたりねじを締めたり。はっきり言えば、周三さんもわたしと同じ様な手伝いかただ。このような機械になると、働きは分かるけれど仕組みは周三さんにもさっぱり分からないのだという。
松田さんやヨスケイは何の迷いもないような様子で組み立てて行く。時々手振りを交え、メモを確かめながら、話し合ったりしているが、二人にはどんな機械が出来るのか、当たり前のことだが見えているのだ。細かい部品を基盤の上に組み立てながら、松田さんがわたしに説明してくれた。
「これは発振器でして、四十キロヘルツという周波数を作ります。別に二千ボルト,これは二百ボルトの動力線からとってトランスで電圧を上げてから整流器で直流にしたものですが,それをこの発振器からの四十キロヘルツでパワーモスエフイーティーを介して断続するんです。で、タイミングを合わせてキャパシタを直列にしたり並列にしたりすると、直流の二千ボルトが二万ボルトになってキャパシタにたまるんですよ」
悪いけれど、やはり全く理解できない。だけど、とにかくタックのハードの本体を焼き尽くすほどの電気を作って貯めることが出来るとは理解できた。
それにしても、半日かけてできあがった機械は、組み立て用スチール棚に組み込まれた形のいかにも急場こしらえの機械のようだ。そのまま隙間もないほど盗んできた車の貨物室に詰め込まれている。形を表現するのは難しいけれど、松田さんがキャパシターだという四角い箱が幾つも納められ、別の鉄の箱が取り付けられて、互いに太い電線で繋がれている。別に、貨物室の後ろ半分に大きくて厚いアルミニュームの放熱器が冷却ファンと一緒に組み立てられ、それに整流器やエフイーティーだと松田さんが言う部品がたくさん取り付けられている。使うときは、後ろのドアと窓を開け放しにするのだとか。
できあがった機械を、本当はテストすべきだと最初周三さんが主張したが、松田さんはその必要は無いと言い張った。発振器や整流器装置などはおのおのテストしたし、全体のテストのための電力はない。またテストをすると壊れるかも知れない。なにしろ、一回使うだけの機械だから、使ったと同時に壊れる公算が高いというのだ。ヨスケイも、松田さんの意見に賛成だといい、結局周三さんはそれに同意した。
周三さんはプログラマーだし、あとの二人は、ハードウェアの専門家だ。周三さんが最後まで自分の意見を通すことは出来ない。
結局機械を詰め込んだ車と、わたしの愛車に分譲して、朝霞に向かった。
テクノロジー・アソシエーテド・コンサルタント社の社屋の後ろ側はすぐ裏の山の斜面に埋め込まれているような形になっている。ハードの本体に供給される電力線は山の地中深く埋められているが、むろんその場所は松田さんがよく知っている。松田さんは、以前何日もかけてそのあたりを歩き回り、どこから動力線が地中に引き込まれているかを確認しておいたのだ。何カ所もそんな引き込みがあり発見できていない分の事を考えても全ての動力線を一度に切断することはできないと言う結論が出ていた。仮に出来ても、バックアップ電源があるから、無駄なのだ。
わたしたちはそんな引き込み口の一つにやってきた。そこは林の中で周りからは全く見えない。
先に着いていた二人が、茂みの中に隠された車から太い電線が引き出し、大きなボルトでタックに供給されている動力線に繋ごうとしていたところだった。松田さんが機械の最後の点検をする。
点検が終わると、松田さんはわたしたちの顔を見渡し、それからスィッチを入れた。どうやらタイマーになっている。
「大体十二時間でこの中に二万ボルトの必要なだけの電気がたまるはずだ。それから一気に一キロアンペア二万ボルトの電流がタックに注ぎ込まれる。計算ではそれで十分にタックの本体は破壊できるよ。松田さんの話だと、その衝撃でこの機械も壊れるし、それどころか爆発もしかねないそうだから、その時は離れていなくちゃ。でも今はまだここに居よう」
十二時間だと言っていたが、なんと長い十二時間だろう。結局わたしたちはまんじりともしないでその機械のそばに付いていた。機械自体はほとんど音がしない。耳をすませると、かすかにブーンとうなるような音と小さな冷却ファンの回転音が聞こえる。松田さんは頻繁に機械をのぞき込み、時間がたつごとに一つづつ点る小さなランプを確認し、機械のあちらこちらに手をふれてはうなずいている。わたしもさわってみたが、部分的にはほとんど火傷をしそうなほど熱くなっている。それでも松田さんは差し支えないと言う。
投稿者: takaojisan
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