イヅナが去ったことを感じながら、ミズクは今度はもう一丁の拳銃を取り上げた。
こちらのほうはもうすでに手入れは済んでいたが、再度念のためスライドを引き、動作を見た。
米軍正式にもなっているベレッタM-92Fはしっくり手にも馴染んだ。
2丁とも格納場所に放り込むと、今度は木刀や竹刀などを持ち運ぶのに使うキャリングバックを持ち出す。
開けて出てきたのは、黒い金属とウォルナットのくすんだ色のストックで出来ているライフルだった。
海外ではアリサカと称される、38式。彼女の手にあるのは、長さ1mに押さえられた騎兵銃である。
戦後、戦利品として持ち帰られた小銃のかなりの部分が北米市場に出回り、好評を博した。6.5mmJAPと彼らが称した弾薬は、低伸性、小反動、そして小ぶりゆえの搬送性のよさで、中西部ではこの銃限定の射撃大会も開かれるに至った。
だが、戦時日本の加工水準の低下により、かなりの銃が使い込むうちに各パーツの磨耗が思いもよらず早く、代替部品に置き換えを余儀なくされるに至った。
実はミズクが手にする38騎銃もそんな一丁である。シア、トリガー、ボルト部分などが戦後ガンスミスによって新造されたものに入れ替えてある。
だが、よせあつめを苦労して合体させるとき、銃身だけはほぼ無傷のものを入手できたのはラッキーといえたが。
分解作業を始めながら、彼女はふとテーブルの上のスタンドに張ってる写真を見た。
そろそろ中年にさしかかろうかと言う笑顔の夫婦。その間で8歳くらいの女の子がやはり衒いも無く笑っている。場所はどこかの海岸らしい。
しかし、彼女の目は暗くなった。あの子は確かに私。2人はお父さんとお母さん。しかし、彼女にはそのときの思い出は一つも脳裏にないのだ。
あの日のはじまり、朝、優しい母に起こされ、明るいが少しせっかちな父にせかされながら朝ごはんを終え、自家用車に乗り込む、そこで記憶は途絶えてしまう。
小さい頃の楽しい思い出、それほどでもないこと、しかし、遠い別の場所に言った記憶は普通はどんな子もあるものだが、ミズクには、この日このときを境に、その後数日間の記憶が、ない。
思い出そうとした。しかし、思い起こそうとするたび、何かがさえぎる、いや、自分がその領域に入るのを竦ませる。
夢?たしかにとんでもなく恐ろしい夢を見たことがある。それが断片的にしか具体的に描写できないでいる。
日は翳りだした広い場所、肌を刺すような強い風の中、一人夏服でいる。今にも心を押しつぶしそうな潮騒。そして…あれは?あの子は?
自分と同じ年恰好のしかし、とても恐ろしそうな女の子の薄ボンヤリした記憶。
もう、やめよう。
ミズクは振り払うように、勢い良く工具箱を床に置き、レンチを何本か見繕った。
すべて終わり、床をもう一度キレイにしたのはその半時間後のことだ。
提供(C)まっぴらさん(無断転載禁止)