野宮真貴が「♪しーぬぅ前に、たった一度だけでいい、おもいっきり笑ってみたい!」と歌っていますが、とても好きなフレーズです。最近僕がおもいっきり笑ったのはいったい何時だったのだろうか・・・柳俣谷の飛龍峡あたりでM山君の失敗したジャンプを目撃した時だったか、立山カルデラへの厳しいルンゼ滑降が終わったときだったかしら。極度の緊張から解放されたときに、ゲラゲラ状態になるのは不思議で気持ちよかったのです。ネットの書き込みなんかでよく出てくる(笑)は苦笑しているようでしてみるみたいで嫌いな表記ですが、そんなんではなくて、エヘラオホラでおもいっきり声に出して笑ってみたいものです。
さて、R&Bに入ってから全力で遊んできた10数年間だったのですが、そのうち僕がR&Bで執行部の旗振り役をつとめた期間には,まことにいろんなことがありました。楽しかったり、ドキドキのワクワクだったり、悲しかったり、新しい仲間と出逢ったり、離れていったり・・の繰り返しで、その度に感動したり、ヒヤヒヤしたり、打ちひしがれたり・・などと葛藤の日々だったりしたわけですが、もちろん楽しい思い出が多かったにきまっています。先ほど、会運営を次世代に譲り、今少しの間、ほっとした気持ちで過ごしています。代表者を務めた数年間、会の関係するいくつかの事故や事故未遂の山行がありました。節目として、印象的な何件かの事例を少しまとめてみたいのです。事故があれば必ず関係者の一人や二人は会から去っていきます。悲しいことを繰り返さないためにもね。
一つは、僕が会代表になってまもなくの海谷事故です。発生から救助されるまでの劇的なドキュメントは今でも忘れません。事故当日の海谷は天気が悪くてヘリが飛ばず、しかも岩場だということで防災ヘリ関係者からは救助の拒否をされ続けました。何とか関係者を説得して、悪天の合間に事故者が間一髪でヘリにピックアップされたときは、竹内さんと抱き合って泣きました。結果は会を強くしたかどうかいまだに不明ですが、一人の心折れた会員が山から去っていきました。やるべきこと(顔をつきあわせてのミーティングや装備や計画書の充実、山行チェック体制、遭難対策的にしっかりした会運営)をやっていれば、事故が起こっても怖くないぞ・・・といった結論に至りましたが、現在のR&Bでその教訓がいまだに生きているかは不明かと感じています。ワイルドカード的に使われる言葉に「自己責任でおねがいします。会は責任を負いません。」みたいのがありますが、あれはなんか変です。自己責任で事故を起こしても、運悪く亡くなったとしても、関係者や残された人たちや家族に大きな負担や悲しみが、お土産として残ります。友達も家族もいない寂しい登山者ではなくて、僕たちは仲間なのだからこそ「自己責任」ってのは許されず、悲しみを繰り返さないためにも、適切な指導や山行管理は必要であると思ったりしている次第です。
二つ目は僕たちがよく使っているインターネットの罠です。事務局長時代に、便利なことは利用しましょうとのことで、他会に先駆けてホームページを立ち上げたり、メーリングリストを構築して、会員相互のコミュニケーションの手段として利用するようにしました。ここ数年のR&Bはソーシャル・ネットワーキングサービスのmixiを使って、会の山行管理や会員間の山行募集に活用しています。なかなか便利なものだと思っていましたが、事務所に会員が来なくなるとか、ミーティング省略とか、掲示板の張り紙がすくなくなるなどのスカスカ現象がでているようで少々危惧しています。
そのmixiの某バックカントリースキー系コミュニティの山行で起こったヒヤリハット事例です。ネット上で今週ドコ行く?みたいな感じで連絡を取り、山スキーに行くグループなのですが、そこにウチの会員が一人参加することになり、計画書が提出されました。聞けば、名前も経歴もよくわからない初めて会うメンバー達で、ちょっとおかしいなと思いながらついついスルーさせてしまったのです。なんとなく心配したとおり、道迷い、下山遅れのヒヤリハット事例となりました。その日は大きな寒気団が来ており、重大な事故になっていた可能性もありました。その会員には注意を促しましたが、ヒヤリハットの分析はメンバー間では無かったように思います。その後、このグループは毎週山行を繰り返し、こいつら危ないな・・と思っていたその年の春に、コミュ主催者は雪崩事故で亡くなってしまいました。会員外の死亡事故ですが、会員が少なからず関わっていた事故であり、指導不足、計画書のチェック不足だったと感じる心痛な死亡事故でした。
最後に、星のクライマーの話です。このことはまだ引きずっていますし、この後もずっとそうかもしれません。事故報告書では述べていませんが、Mさんから計画を聞いたときは、ソレ聞かなっかったことにしたい・・と悩みました。無酸素でエヴェレスト挑戦の先例では、高い確率で事故が起きるのは十分解っていましたが、彼の登山歴や大きな目標に対しては拒むことができず、応援するしかありませんでした。計画段階からサポートできることは全てやりました。BCだけでも誰か一緒に行かないかな、とのMさんからのリクエストには、事故が起こった場合に「カトマンズにまた来ること」を想定してカトマンズに同行しました。事故の第一報が入ってからの何週間は、ほんとうに大変でした。会の皆さんにはずいぶん助けてもらいました。計画を止めてくれと言えたのは僕だけだったな・・・と思うばかりです。ご家族の方々には、本当に申し訳なく思っています。
彼は亡くなる前にたった一人のテントの中、はたして大声で笑ったのかなと思うことがあります。緊張から一瞬解き放たれて、こんな楽しいことやっている自分に、ニヤッとぐらい笑ったかもしれません。
最後になりましたが、山岳会ロック&ブッシュ創立30周年、ほんとうにおめでとうございます。ぼくはその半分しか知りませんが、R&B諸先輩方のおかげで楽しい30周年を迎えられているのだと思います。山岳会はお互いに助け合う会の代表格です。大事なのは楽しみや知識を享受するばかりではなく、それで得られた経験や技術、楽しいことを新しいメンバー達に(リーダーとして、会の役員として)与えていくことだと思います。
僕たちR&Bにとって、日の当たる大通りは何処にあるのでしょうか。「安全に、楽しく登山する」ことが大正解なことは解っていますが、会の運営の本質は未だによく解らないままでいます。
今後のR&Bの活動が、安全でより楽しいものになることを願ってやみません。
(2010/7/nabebuta-X wrote)