http://www.sogensha.co.jp/mybooks/ISBN4-422-11166-3.htm
5. 河合隼雄 『カウンセリングを考える(上・下)』 (創元社)
この本は基本的にカウンセラーというプロフェッションのための技術書である。だが、講演録という性格上、その語り口の平易さから一般人が読む人文書としても十分通用すると思う。今まで4冊の本を紹介してきたけれど、この本にも今まで紹介してきたものと同じ通低音が流れていることに気づかされる。結局、自分自身同じ興味を廻りまわっている、あるいは興味に対する確認作業をしているのかもしれない。今回自分で大事に思う10冊をリストアップした段階ですでに似た傾向があるだろうな、とは思ったが10冊を積み上げて拾い読みをしていくだけで結構ひとつながりの傾向が、それもかなり著しく似た傾向があるのに気がついて、少々自分の人格にウンザリさせられた(苦笑)。ウットウシサというか。
ただ、この本における内容は蹴りたい背中ならぬ「見えない背中」を教えてくれる、これまた人文系親切本だ。この本も内容から多くを紹介したいところだけど。
例えば、「登校拒否」という現象が起きたとする。当然家族に動揺が広がる。だからこそ、カウンセラーのところに相談に来るのだが。そのとき、カウンセラーはどう見るべきか。その子どもが学校に行かなくなった理由は何か。原因を探るだけではなく、
“これから未来に向かってこの家はどう進もうとしているのか。その「未来に向かって進むため」に、この子は学校へ行かなくなったという考えもあります。カウンセラーはこの両面を見なければなりません。両方は関連しているのです”(本文より)
とくにカウンセラーは「この先、この家族はどこへ進むのか」という“未来”を見据えたほうがいい、と。なぜなら、原因探しは犯人探しになる可能性があるから。犯人探しは誰でもが犯人になりうる。詮無い事であり、それよりも。
“子どもは大変なことまでして「全体のありかた」を変える何かキッカケを作ろうとしているのではないか”。(本文)
この本も今まで紹介させてもらった本でも書かれていたように、権威の問題や宗教、日本人の集団的なメンタリティについて多く割かれていて、カウンセリング実践の本というよりもむしろ「文化論」の趣きがある。それは心の問題がその“社会”の心の問題と切っても切り離せないという臨床的事実があるからなのだろう。
なだいなだ氏も河合隼雄氏も深層心理学の出身で、なだ氏がフロイトの影響下、河合氏がユング派、という点で結論が同じでも着眼するところが微妙に違うところも面白い。
文字通り分かりやすい記述のなだ氏は「分ける」のが上手、対して全体性や集合的無意識というユング的志向をもつ河合氏は「わかりにくい=分けにくい」ことに興味が強いようだ。その分、「待ちの姿勢」に徹するいさぎよさがあって感心する。もちろんそれは微妙な違いでしかないけど。
いずれにせよカウンセラーという仕事は光に対する影、光彩の背後は必ず闇があるように、そこをフォローする大事な仕事なのだとつくづく思う。祭りの後は誰かが、残されたモノをかたづけている。また、祭りに乗れない人だっている。そういう人を誰がフォローするのか。つまり、どんな場所でも気づかれない仕事をしている人たちがいる。「見えない背中」に一瞬、思い至る本でもあります。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4091927297/qid=1098687148/sr=1-3/ref=sr_1_10_3/250-4003154-9749026
5. 『家栽の人』毛利甚八原作 魚戸おさむ原画 (小学館文庫・全10巻)
今回マンガは2冊リストアップ、最後に紹介する予定でしたが上記の河合隼雄の本の考え方に近しいノリのマンガなので先に紹介します。裁判官とカウンセラー、繋がらない2者の人たちのようですが、このマンガの裁判官は法務実務家にして心理学者みたいな人。(あくまでマンガなんで)。
この裁判官、「見えない背中」が見える人のようで、その話の展開はアッと驚くこと多々。最近またスペシャルの形でドラマ化されたようですが、そちらはどうか?家裁で扱う問題である少年非行や離婚調停を通して、家族の問題を植物や木を比喩として大変巧みな大岡裁き。いや、そういうのとは少し違うな。木々や植物が育つように、家族が育つことを考えている裁判官。コミックス版では全15巻、よくぞここまで説得力のある作品を続けてきたものと驚嘆するし、読者としては教えられたり、心の洗濯をしてくれたり。本当にあらゆる面で感謝、感謝。(何せ根が単純なくせにひねくれたがる性格なもんで、ホント)。
いくつか「神話的」とさえいえる作品もアリ。特に現在の文庫版でいえば、9巻10巻の続き物ストーリーは現在でも通用するテーマをとても広く深い視野で扱っていて、いつだってじっくり読み返したいと思ってしまいます。
一編モノでは文庫版では何巻に入っているかわかりませんが、コミックスでは6巻のCASE:7「モミジ」という作品を何故か今は最初に思い出します。これを読むと、子どももホント、けなげにいろんなことを考えているんだよなぁとホロリとさせられるんだよね。
よければこちらも。本作原作者、毛利甚八さんのHP。(更新止まってますがw日記は読み応えアリ)
http://www.ne.jp/asahi/utagame/love/