アイリッシュのメーリング・リストメルマガに載せたイアン・サウスワースさんの英国カントリー・サイドの実情に関する原稿を中山義雄さんが訳して送ってくれました。イアンさんの2004-Top10にも挙がっている”ショウ・オブ・ハンズ”というモダンフォーク・デュオの曲詞に絡めています。こちらは中山さんもお勧めのアルバムとのこと。2つに分けてUPしました。
それではじっくりと堪能してください。
(なおアーカイヴとしてこちら
http://blog3.fc2.com/lazy/index.phpのブログにも。イアンさんの英国からの肉声をまとめています。より深く英国大衆音楽に触れたい方はぜひこちらもね!)
Here's Small Piece of England
Show Of Hands / Country Life
Ian Southworth(訳・構成 中山義雄)
ショウ・オブ・ハンズの基本フォーマットは、スティーヴ・ナイトリーとフィル・ビアのデュオなのだけれど、レコーディングには友人も参加しているし、ライヴに友人達が招かれることも珍しくない。スティーヴとフィルは、美しい田園風景が広大に広がるイングランド南西部のデヴォンの出身で、二人は14/15歳の頃から音楽を演奏してきた。ハイ・スクール卒業後もフィルは音楽を続け、70〜80年代、アルビオン・バンド、ローリング・ストーンズ(!)等、無数のセッションに参加してきた。またフィルはレコードの宣伝マン、プロモーターとしての顔も持っている。一方のスティーヴも音楽活動は続けていたが、実態はアマチュアだった。大学で、教員の資格を取り、ずっと本職はそちらだった。
スティーヴがロンドンから帰郷し、ふたりの友情の新たな章が始まることになる。ショウ・オブ・ハンズは、15年前に結成されると、すぐにフォーク・コミュティーでの評価は固まった。スティーヴのソングライティングの手腕もあり、彼等はトラディショナル、コンテンポラリー・ミュージック、双方のファンが安心して聴くことが出来る希有なデュオに成長する。アルバムを重ねるごとに評価は上がり、いまでは『Q』や『Mojo』あたりも彼等を高く評価している(【註】コンビニで買える雑誌という意味)。
バンドのオフィシャル・サイト
http://www.showofhands.co.uk/
個人的には、ショウ・オブ・ハンズはいまのイングランドのフォーク・デュオの最高峰だと思っている。スティーヴは豊かな声に恵まれた素晴らしい歌手で、ソングライティングは聡明。またギターの腕も立つ。マルチ・プレイヤーのフィルは、ロック、フォーク、カントリー、ブルースなんでもお手のものだ。とりわけフィドルは傑出している。
さて、そんな二人の作った「Country Life」という曲には、2005年のイングランドの人間模様が切り取られているのだが、
曲に触れる前に知っておくべきバック・グラウンドが幾つかある。先ずはイングリッシュ.カントリー・ライフの現実を説明させて戴きたい。
ブリティッシュ・カントリー・ライフは、その人の立場によってまったく違う人生経験なのである。
まあ単純にカントリー・ライフとは、大都会での暮らしからの逃避を意味する。マディ・プライヤーやリック・ケンプ夫妻のように、羊となだらかに続く丘しかない場所を見つける人もいるだろうし、トールキンの学び舎のあるハースト・グリーンやウォーターソンズの暮らすロビン・フッド・ベイのような小さなヴィレッジを目指す人もいる。
田舎に引っ越すのは、多くのイングランド人の夢なのだ。カントリー・ライフは、長閑で、シンプルというのが一般的な見方だし、田舎の人達はフレンドリーで、犯罪や社会問題も少ないという考えは、もはや信条の域に達している。
ここ20〜30年の傾向として、都会で仕事を持ちつつも、カントリー・サイドに居を構えるような人種は増加の一途を辿っている。
で、これが大きな問題を引き起こしているのだ。
1:大都市から車で行けるような距離のカントリー・サイドの不動産の値段は信じられないほど高騰した。大都会の連中が大金を稼ぐのは、別にとやかく言うことではない。ところが、その一方で、カントリーサイドの地元住民はおしなべて低収入だ。ゆえに、代々暮らしてきた土地では、とてもじゃないが生きていけないのだ。彼等は代々馴れ親しんだ土地を離れざるを得ない。
このパラドックスがカントリー・ライフを満喫しにきた新参者と地元の人達の間に軋轢を生んでいる。
2:湖水地帯のような景勝地は、別荘を持ちたがっている輩には垂涎の的だ。ところが、お金持ちの都会人は手にいれても年に数回訪れるだけだ。
かつて景勝地のヴィレッジには、パブ、ショップ、郵便局などがあったものだが、現在、ヴィレッジの家は一年中、もぬけの殻なので、ヴィレッジのコミュティーには収入源がなく、パブもショップも店をたたむしかない。そうなるとヴィレッジで代々暮らしてきた人達の暮らしはますます厳しくなる。
3:カントリー・ライフの新参者は、田舎のやり方を受け入れない。都会人は釣りや狩りはお好みではなく、田舎の伝統と彼等のライフ・スタイルは対立する。新鮮な食材も都会人の舌には合わないようで、スーパーマーケットに車を飛ばし、プラスティックで包装されたジャンク・フードを胃に流し込む。この都市/郊外流の当世風の食生活が地場産業、とりわけ土地の畜産業者に打撃を与え、代々続いた地元の牛乳、チーズ、バターのデリバリーを滅ぼしてゆく。要するに、都会の連中は絵葉書の風景を自分のモノにしたいだけで、田舎の流儀を受け入れる気はサラサラないのだ。
4:カントリー・サイドの若者は就職難だ。職につけても、家を買うなど高嶺の花もいいところで、収入に見合った借家暮らしをせざる得ないわけだが、カントリー・サイドの家賃はとてもじゃないが払えないので、仕事を求めて都会暮らしを始めるのが普通だ。
40年前なら、カントリー・サイドには、子供からお年寄りまで、さまざまな世代が暮らしていたものだが、現在は60歳以上の老人しかいない。田舎での借家暮らしも都会のお金持ちでなければ手が出せないほど家賃は高いのだ。
5:都会人はせっかちで、カントリー・サイドに引っ越しても、ペースを落とす気はまったくない。御自慢の四駆で毎週、お気に入りのスーパーマーケットに物資を調達に繰り出す。地元のショップは店を畳み、バスの路線も廃止になり、車の免許を取得しない限り、土地の人達は孤立する。
ローカル・バス路線がなければ、老人達は近所の小さなヴィレッジに暮らす友人を訪ねることもままならない。
6:都会人の流入は犯罪を田舎に運んでくる。40年前、カントリー・サイドの犯罪は少なかったが、お金持ちが暮らしているのなら盗人が見逃すわけがない。しかも、田舎にはオマワリも少ないわけだし。
7:数百年続いた伝統が消え始めた。フォーク・ソングに描かれたような生き方が絶滅するのは時間の問題だろう。
ぼくが子供の頃を思い出してみると、春の訪れをいろいろと祝ったものだった。パン屋さんは、特別なパンを焼き、ビールの蔵元もいろんな春味のビールを作った。地元の農夫は動物に面白い飾りをつけて、品評会でそれを競ったものだし、教会も古井戸に飾りをつけた。春の祝い方はよりどりみどりだったのだが、それらが老人の記憶のなかだけのものになるのは時間の問題だろう。しかも、田舎暮らしの新参者は昔ながらの流儀には関心ゼロなので、伝統的な風習に何も感じない。これにはぼくも怒りを覚えるし、また悲しくなる。
以上、7つを踏まえて、「Country Life」の歌詞を見てゆこう。
WORKING IN THE RAIN, CUTTING UP WOOD
DIDNT DO MY LITTLE BROTHER MUCH GOOD
LOST TWO FINGERS IN A CHAINSAW BITE
ALL HE DOES NOW IS DRINK AND FIGHT
SELLS A BIT OF GRASS, HOTS UP CARS
TALKS OF TRAVEL, NEVER GETS FAR
LOVES HIS KIDS, LEFT HIS WIFE
AN EVERYDAY STORY OF COUNTRY LIFE
AND THE RED BRICK COTTAGE WHERE I WAS BORN
IS THE EMPTY SHELL OF A HOLIDAY HOME
MOST OF THE YEAR THERE'S NO ONE THERE
THE VILLAGE IS DEAD AND THEY DONT CARE
NOW WE LIVE ON THE EDGE OF TOWN
HAVENT BEEN BACK SINCE THE PUB CLOSED DOWN
ONE MANS FAMILY PAYS THE PRICE
FOR ANOTHER MANS VISION OF COUNTRY LIFE
MY OLD MAN IS EIGHTY FOUR
HIS GENERATION WON THE WAR
HE LEFT THE FARM FOREVER WHEN
THEY ONLY KEPT ON ONE IN TEN
LANDED GENTRY COUNTRY SNOBS
WHERE WERE YOU WHEN THEY LOST THEIR JOBS
NO ONE MARCHED OR SUBSIDISED
TO SAVE A COUNTRY WAY OF LIFE
IF YOU WANT CHEAP FOOD, WELL HERES THE DEAL
FAMILY FARMS ARE BROUGHT TO HEEL
HAMMER BLOWS OF SIZE AND SCALE
FOOT AND MOUTH THE FINAL NAIL
THE COFFIN OF OUR ENGLISH DREAM
LIES OUT ON THE VILLAGE GREEN
WHILE AGRI-BARONS, CAP IN HAND
STRIP THIS GREEN AND PLEASANT LAND
OF MEADOW, WOODLAND, HEDGEROW, POND
WHAT REMAINS GETS BUILT UPON