●CLEAR CUT (RTL-5)
・SIDE-A
1.JOSEF.K / Kind Of Funny
2.THE FALL / City Hobgoblins
3.ORANGE JUICE / Simply Thrilled Honey
4.THE GIST / This Is Love
5.GIRLS AT OUR BEST / Politics
6.RED CRAYOLA / Born in Flames
7.THE RAINCOATS / In Love
・SIDE-B
1.DELTA 5 / You
2.THIS HEAT / Health and Efficiency
3.ESSENTIAL LOGIC / Music Is Better Noise
4.SCRITTI POLITTI / Skank Bologna
5.ROBERT WYATT / At LAST I Am Free
こちらが1981年に発売されたラフトレード・ジャパンによるラフトレードのアーティストたちを紹介するオムニバスアルバム。おそらく完全廃盤になっていると思われるので、デジカメ写真で失礼します。今となってはレアな音源も多い、UKインディ黎明期の音に興味のある人には結構貴重なショウ・ケースアルバムかもしれません。ぼくがこのアルバムを知ったのはラフトレード・ジャパンを日本に紹介した芹沢のえさんという人がFMラジオの洋楽番組に出演して、このアルバムを紹介したところから。ネオアコ系バンドとして名高い(?)A面1曲目のJosef.KがOAされたものを聴いた時はかなりショックを受けました。
ポップなギターサウンドですが、妙に気の入らない「1,2,3,4」のカウントからドラムスのやる気なさげなイントロ、そして奇妙に熱が退いたボーカル。以外に端正なメロディ構造。一緒に歌いたくなるような。ぼくは当時初めて、この人(ポール・ヘイグ)のボーカルの中から、今いうところの「Cool」というものを感じたのだと思います。
そしてこれも番組でかかった、Girls At Our Best。女性ボーカルがこれも当時聴いたことがない種類の、ちょっとヨーロッパトラデッショナル風な歌唱であり、けっこうショックを受けました。曲もどこかで聴いたような人懐かしげな民謡をポップロックに仕上げたようでもあり。しかし、どこかロック的な毒も感じられ、不思議な魅力に飲まれました。「Politics」という曲名がこれまた曲調と似合わぬアンバランスさがあって。
喧騒の後の静けさに思い至るような強烈に静謐な音楽を作り上げたヤング・マーブル・ジャイアンツの男性陣によるユニット、Gistの簡素なポップ。そして「アアア、オオオ」というボーカルとも、吐息ともつかぬ発声を聴かせるRaincoatsは不思議なセクシーさと吸引力を持ちます。
A面は特に後にアズテック・カメラが登場する前哨的な実験を感じるグループたちの初期シングルが中心的に収録され、現在のサウンドに耳慣れた人にもチープさを感じるでしょうが、聴きやすいに違いありません。(各種のオムニバスに収録され、どこにあっても「わが道を行くのみ」のThe FALLは除くw)。
B面はギャング・オブ・フォーの明らかな影響下にあるDelta 5の元気なファンキー・ギターサウンドと愛嬌のある「You!」というシャウトで始まります。こちらはシリアスなGANG〜に対して、彼らのサウンドをポップな方向に解釈しています。B面はどちらかといえば、当時のインディ系の音を忠実に反映したもの。もっといえば「ラフ・トレード“らしさ”」が展開してるといえるでしょう。特に着目していいと思うのは後に「キューピット&サイケ」でお洒落なブルーアイド・ソウルを展開して、一躍脚光を浴びた、Scritti Polittiのラフ・トレードにおけるファースト・シングル。彼らがやけにストレンジな音をチープに奏でていたことに驚くでしょう。この後、ジョン・ピールのセッションを纏めたシングル。そして4曲入りの12インチシングルを出した後、ラフトレードにおいて、おそらく新人として一番最初にもっとも知的で端正なアルバムを発表した彼ら。その発展にも驚きましたが、デビュー当時の音はぼくも奇妙な音楽だなぁと思いながら“グリーン”のボーカルを含めて耳を奪われていました。最近、キャプテン・ビーフハートの「トラウト・マスク・レプリカ」を聴いて初めて、初期のSCRITTIが影響を受けた音の出自のひとつが理解できた次第です。
さて、アズテック・カメラのデビューアルバムの頃の話から大分方向がずれたみたいですが、かように当時の英国インディシーンは多様で、それが幅の広い中でひとつのショウケースとしてこのアルバムに収録されているバンド群があったといえるでしょう。初期のラフトレードのバンドたちのアイデンティティの強さ、多様性と、意外なまでのポップ性がこのアルバムから今でも汲み取れます。
硬くて激しく、非妥協的でときに一般性を無視したような非メロディアスな方向に行きつつもあった英国インディ・シーンの音に底付き感が見え始めた頃、アズテック・カメラの涼風のようなキラキラしたアコーステックギターサウンドとくるくる転調するポップなメロディが現れた、その過程の前哨としてこのアルバムを挙げてみました。これにチェリー・レッドレーベルのオムニバス、「Pillows&Players」、ファクトリー・レーベルと親近性があったベルギーのクレプスキュールレーベルのオムニバス、「From Brussel With Love(ブリュッセルより愛を込めて)」を加えると、その奥行きがヨリ分かるでしょう。

とりあえずここまでに致します。さて、アズテック・カメラのファーストアルバムの紹介に行くことは果たして出来ることでしょうか(苦笑)。
PS.今回紹介のアルバムの音源をCD-Rにしてくれたネットで知り合った友人に感謝!いま、自分はアナログ聴ける態勢にないので。。。