● THE FALL/50,000 FALL FANS CAN’T BE WRONG
ポスト・パンクUKの最も奇妙で、最も独創的なバンド、ザ・フォールのシングル盤を中心にした廉価なダブルCDベスト盤です。記事のタイトルは、CDアルバムのサブタイトル。1978年から2003年という非常に長いレンジの楽曲を2枚のCDに収録するというかなりの荒業でありつつ、それを見事達成していると思います。おかげで2枚のCDともに収録時間が78分前後と長尺ですが、内容は大変充実しています。一言で言えば、ここにはポップなザ・フォールの姿があります。
ザ・フォールはマンチェスターでボーカルのマーク・E・スミスを中心に結成されました。オリジナル・パンクの熱気の後にパンクの音楽的インディペンデントの側面を最も重視し、そして今でもそれを持続させているという点において、音楽的な完成度とはまた別個に、多くの独創的音楽を目指す後進の若者たちに勇気を与え、レスペクトされ続けてきました。
しかし、そのような存在でありながらも、バンドの中心でありイコール、フォールそのものであるマーク・E・スミスは英国音楽業界でも最も辛らつな人物と知られ、後発のバンドに対しても皮肉な物言い数知れずといった、少々嫌味な人でもあるようです。あるいはかなり?(笑)
そして、その音楽もこの手のサウンドに馴染みが薄い人にはストレンジで、寒々しい印象を最初は与えるかもしれません。しかしボーカルの独特ぶりを含めて、シングルの面白い部分から入っていけば、あら不思議。駄菓子屋の怪しいお菓子のように病み付きになる可能性もあるかと思います。現に多くの曲を知っているCD1枚目の曲群で、改めて彼らの独自性と独創性にハマッている自分を発見しました。
人力トランスミュージックとでもいうべき70年代・80年代のフォールサウンドですが、繰り返しのフレーズと、強調されまくったリズム、一つのサウンド・パンチと化しているボーカルも含め、むしろ僕にはトランス効果よりも覚醒効果が増大する感じがするのです。例えばフォールのボーカルやサウンドの影響を受けていると思われるHappy Mondaysは明らかにサウンドに対して快楽を追求する方向がありますが、元祖Fallも踊れるけれども、むしろリスナーと1対1で対峙する傾向が強く感じます。
それにしてもやはり独創的な音楽です。リーダー、マーク・E・スミスが認めるように、キャプテン・ビーフハートの影響はきっとあるに違いないと感じます。あるいは彼自身大好きだというロカビリーの感触。出てくるそれは奇妙にひしゃげたロカビリーですが。(当時のポスト・パンク勢でロカビリーに興味を持つバンド自体少なかったのではないでしょうか?)。あるいはCanなどカルトなジャーマン・ロック。あるいはマーク・Eの好みを並べると70年代のレゲエ、あるいはジョニー・キャッシュ・・・。それらの記号を並べてもなお、この曲想はどこに?と思うルーツの分からないようなサウンドが満載です。時にはユーモラス、時にはヒプノテック、時にはハイ・テンション。時にはノイジー。(幸いのことに、シングル盤中心のこのベストはノイジーな面が少ないです)。あるいはもしかしたら、多くのサウンドを吸収した果てに出てきているサウンドなのかもしれません。音楽的素養が欠落しているように一聴すると思いながら、何回か耳を傾けると「これは独創的なんじゃ?」と思うところもキャプテン・ビーフハート的かも(と知ったかぶりしてみました)。
あくまでも、というか今では明らかにマーク・E・スミスバンドと化していると思われるザ・フォールも、時期ごとにバンドの音に画期があったように思われます。それは頻繁に入れ替わるメンバーと関係がない様でありそうです。つまり、メンバーの中でもキー・パーソンがいたと思われ、それに合わせて音に微妙な変化があると思われます。
1つはレコード・デビューの78年からラフ・トレードから出したアルバム「グロテスク」の80年まで。これが初期ザ・フォールサウンドの時期といえるでしょう。極めてプリミティヴな演奏があの時代においても画期的でした。
次が10インチという変則で出した「Slates」というEPからカメラ・レコーズというインディから出た「HEX Enducution Hour」というアルバムあたりまで。この時期にいわゆるフォールサウンドが最初に確立したと言えるでしょう。「HEX〜」収録の「The Classical」は本CDにも収録されていますが、僕も大好きで思わず高揚する名曲(?)です。同アルバムからの「Hip Priest」も確立した個性を発揮するサイケな曲。
その後、オリジナルメンバーでギターのMarc Rileyが抜け、その後最も長くFallに留まったひとり、Craig Scanlorn(クレイグ・スキャンラン)がリズムギターの中心に。そして、米国ツアーで知り合ったアメリカ女性Brix Smith(ブリクス・スミス)がギターで加入し、マーク・Eと結婚へ。そして彼らとしては珍しく、メジャーとマイナーの中間に位置する(?)レーベル、ベガーズ・バンケットと長期の契約を結び、6枚のアルバムと、スマッシュヒットを含む多数のシングルを出します。それが83年から90年に入る手前まで。この時期が個人的にザ・フォールの「バンド」として最も充実した、そして作品も代表的なものが出揃った時期に当たると思います。彼らの音楽的黄金期というところでしょうか。特にマークの元妻(離婚しました)、ブリックスが持ち込んだポップセンスが生き、フォールをただのカルトサウンドのバンドではない、ポップな要素もアレンジもあるバンドへと幅を広げた功績があったのだろうと思います。また、80年代に編成したツイン・ドラムの方法はフォールの音に強力でパーカッシヴな要素を搭載しました。
もう一つの転機は90年代。彼らはメジャー・レーベルに移籍し、当時のレイヴの影響も受け、サウンドにテクノの要素を入れ始めました。このCDに収録された「Telephone Thing」「High Tension Line」の時期からです。日本の地を一度踏んだのもこの時期。他にもこのアルバムに未収録ですが、実際リミキサーに任せた「Mixer」などという面白い曲もありますが、同時にこの時期にマークは離婚。メロウな「Rose」という曲で珍しくセンチメンタルな心情を吐露していたりして。。。
この後は日本でも情報が少なくなりました。そして、マーク・Eいわく「イタリアン・テクノが好きだ」と言う言葉通り、90年代前期以後は、このCDを聴く限り人力トランスよりも、マシーン・トランス色が強くなっており、曲調が似てきました。その意味で「ザ・フォールらしさ」も薄くなっている気がします。気炎を上げまくっていたマーク・Eのボーカルも加齢の影響か、よりポエトリー・リーディング色が強くなっている印象を受けます。アジテーション的なボーカルは少々薄れました。そして、決定的なのは80年代からずっと(多くのメンバーがチェンジする中で)動かなかった人材、ギターのクレイグ・スキャンランと、ベースのSteve Henly(スティーヴ・ヘンリー)が99年のクレジットの段階でとうとう脱退。特に96年に抜けたと思われるギターのクレイグと、99年、とうとうのスティーヴの脱退は大きかったのではないでしょうか。過去のビデオ・パフォーマンスで見たスティーヴの執拗に同じベース・リフを繰り返す姿を見たとき、その献身的に見える姿が焼きついている自分にはそう思われてなりません。
長い歩みの彼らをデータ的に挙げただけで馬鹿みたいに長くなりました。
(サマリーが長すぎて、続きを読む機能も使えません(苦笑))。
もちろんザ・フォールはカルトなバンドに違いありません。その個性はマーク・E・スミスというゆるぎない唯我独尊性に支えられているのは間違いないでしょう。それでも英国と日本での彼我の認識差は信じられないほど開きがあり、ギャップの大きなバンドという点ではおそらくNO.1でしょう。やたら編集物も多い大変なアルバムリリース数と、どうあがいても無個性になれないところ等はレゲエの偉大なプロデューサー&シンガーのLeePerryをどこか連想させます。(マーク・Eの方は極めて醒めたタイプではないかと思いますが)。
自伝も著しているらしいマーク・E・スミス。誰か勇気のある日本人がこの奇矯で魅惑的なバンドの日本語版完全バイオグラフィを作ってもらえないものでしょうか(笑)。て、いい年して書いちゃったよ、こんなに。困ったなー。実際、若い人が聞いて欲しいよね。こんなのもアリなんだよということで。でもハマリ過ぎるのも危険かも、と一応付け足して置いた方がいいですね(笑)。まぁ、でも正直言って滅多にいないよな。。。
Amazonで視聴してみてください。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00024729G/503-6028058-4263112?v=glance&n=561956
※活力旺盛な時期のマーク・Eのボーカルが聞けるTHE FALLのステージ。バレエダンサーの踊りつき。
http://www.youtube.com/watch?v=PK_1rhg_iXg&mode=related&search=the%20fall