ビューテフルサウスのライヴDVDの日本盤が出たのは素直に喜びたい。ラストアルバムの日本盤以来何枚かのアルバムが日本盤化されていなかったことを考えると解散ということを踏まえても、初期をのぞくとどう考えても日本で一貫とした人気のあったバンドとはいえないのでありがたい。このライブは05年の野外ライブを収録したもの。ボーナスとしてリハーサル・ソング1曲。こちらも出来はよい。それからリーダー格のシンガー・ソングライター、ポール・ヒートンのインタビュー。
内容は完全に彼らのベストヒット集といってよいだろう。僕もリハ曲をのぞいてライブ15曲中、聴いたことがない曲は1曲しかなかった。もちろん、そのうちには日本盤でおそらく出ていない曲をYOUTUBEのプロモで聴いたり、マイスペで聴いた曲も含まれている。「ロッテルダム」とか、「ドント・マリー・ハー」とか。(すみません、本来は横文字にすべき。半角に変えたりスペルミスの修正が面倒(苦笑))。だから日本盤でも出ている初期から中期までのベスト盤と中期から後期にかけてのベスト盤楽曲をライブで聴ける、残念ながらも解散後にふさわしいライブになっている。
どの曲もほとんど原曲に忠実に演奏されている。後半にむかって何曲かリズムの部分を強調する場面があるのみ。ロックファンであろう若い層から明らかに高齢者と思われる女性、そして肩車される子ども。ポップなこのバンドの音にふさわしい客層といえる観客の雰囲気です。とにかく客層の幅は広そう。とはいえ、やはり全体的に中年よりだけれども。
特に初期の曲を中心に大きな合唱が起きるなど、英国国民バンドのイメージはその通りだと思うし、曲の出来はやはりロックというよりもポップスというべきかもしれない。だけど、彼らの場合曲のセンス、(ソウルからフォーク、オーセンテックなポップス味まで)アレンジのセンスが何と言うかクールと言うか。実に洒落ているのだ。そして清楚でもあり、瑞々しくもある。そこがとても気持ちいいし、ライブで聴くとなお増してその良さが実感できる。逆に言うと、スリルは少ないと言えるかもしれない。それゆえにライブの特に頭のほうはステージが淡々と進行しているようにみえる。客は熱いけど。
まぁ、率直に言えば、若い人が自分の必要として好んで見るタイプとはちょっと違うかもしれない。。。
とはいえ、今日見返してみるとまた新たに感動が深まった。丁度楽曲の中盤、ひねりの多い彼らにしては割とストレートな「Hold On To What」辺りからポール・ヒートンの内に秘められた熱が表に表れてくる。「しっかり、一生懸命にやってきてこのありさま。これ以上、何をしっかりやれというのか?」といった意味のメッセージを届ける。
この曲辺りからラストまで、女性ボーカルを含む3人のボーカリストとバンドメンバーたちは徐々にアップ。ポール・ヒートンの愛嬌と切ないユーモア。アンコールでの煩悩に支配されてるけど何とか気にせずやってくよ、と歌う「グッド・アズ・ゴールド」の観客との大合唱は彼らと観客の歌詞での一致と言うか共感が炸裂する瞬間と言う感じ。ファンなら判るところだろうし、この曲で大合唱が起こるあたりにビューティフル・サウスの真骨頂というか、サウンドとことばの積み重ねに対するファンの理解があるんだろうな、と思う日本のファンも多いのではないかな。
とにかくファンのグループに対する自然な愛情と言うか、暖かな空気が何ともたまらない。不覚にもグッと来てしまった。2回のアンコールのポールのナレーションなどは解散をどこかで意識しているように聞こえる。僕は何となく2年前のこの時点ですでに心のどこかでポール・ヒートンは解散を意識していたのではないかという気がする。その意味でもこのライブDVDはタイムリー。
彼らの場合、ファッションも観客席から現れたのかと思うくらい普通だが、その振る舞いの全てが「普通」にみえる。普通より、ちょっと視点が鋭く、普通よりちょっと深く考えているメンバーたちの集まり。そんなあなたたちの唄う事が判るよ、というおそらくそんな似たような気持ちを持ったオーディエンスに支えられていた彼ら。そんな共感に支えられているバンドだったのだな、と考えるとそれを失う寂しさに、また解散の残念さをしみじみ感じてしまった。まぁ、詞は基本的には毒味もたっぷりだけど、最近はそこに人情味も多く加わっていたからね。
二人のヒーロー、ポール・ウェラーは真っ直ぐな常識人で、理想主義的な額面どおりにカッコイイヒーロー。それに対して少しハスに構えてユーモアと俯瞰の視点でカッコよさも悪さもまとめて無防備にさらす普通人ぽい、ポール・ヒートン。これが僕の今のところの二人のヒーローです。ポール・ヒートンはこのままでは終わらない人だと思う。この人も内面に相当強いものがあると思うんです。
グラストンベリー・フェスのライブより。この頃のポール・ヒートンの体重はMAX状態。このDVDではだいぶ絞れています。音もDVDの10分の1かな。まぁ、コンサートを全体で見てその良さを感じるバンドなんだろうしね。