2007/6/10 | 投稿者: クロちゃん

奥秩父滝川の直蔵淵は、たおやかに深く蒼い水を貯えていた。
直蔵淵は釣り人の間で“死人淵”と呼ばれている。
過去、何度か竿を出しているが、釣れたことのない淵だった。
それは、あまりにも広く深い淵ゆえに、どこをどう探ったらよいのか、皆目見当がつかないというのが、正直なところだ。

俺の渓流釣りは、1場所で粘らない淡白な釣りだ。
大きい淵を目の前にしても、2〜3度流しただけですぐ次のポイントへ移動する。
だが、今回は違った。



出会いの丘駐車場に朝7時到着。陽射しも出て、この時点では、楽しい釣行が約束されたかのように思った。
滝川の下降口に向かう道は、ここ数日の雨の影響でぬかるんでいた。
渓流シューズは、滑ること、滑ること。

更に、下降口からの急下降はズルズルの状態で、気を緩めると、スーッと滑って行く。
同行のキイくんは3回は尻餅ついてたな。
俺は何とか体を反応させて耐えていた。
立ち木に掴まりながら、暑いのと、冷や汗が混ざった異様に噴き出る汗とともに、ようやくの思いで渓に降りたった。安堵の気分。

降りたった途端に雨が降り出す。
「えーっ、おい、話が違うじゃねぇか!」
今日は午後から雨の予定だろ。早すぎる。

このまま来た道を引き返そうとも思ったが、とりあえず竿を出してみた。
執拗に竿を出すが死人淵の下流は反応なし。
何故か今日は死人淵に魚の気配を感じた。

長めの仕掛けに交換して、一番大きいオモリを付けて無造作に投入した。
仕掛けの目印がゆっくり流れる。
目印がスッと沈んだ。
「!!!」反射的に合わせたが、「クグン」と感触があってすっぽ抜けた。
「???」ハリ先を見れば、餌の川虫が食いちぎられていた。

『ふふ、おぬしもなかなかやるな。』
こうなると、釣り人の卑しい根性で竿を振り続ける。
何投目かに、またも仕掛けが沈んだ。
今度はしっかりハリ掛かりしていた。

死人淵の岩魚は滝川のレギュラーサイズのヤツだった。
しかも、滝川らしい混血岩魚だ。
カメラを取り出して遊んだ。遊んでいるうちに、岩魚はナチュラルリリースとなって、さよならしていった。

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ズルズルの急斜面は、登りは大丈夫だろうと思ったのが大間違い。
靴が滑るというより、地面の表面の土が滑り落ちる状態だ。まるで、表層雪崩である。
二足歩行が叶わない。獣のように四つんばいになって這い登った。
追い討ちをかけるように雨が激しくなった。キイくんはたまらず雨具を着込んだが、人一倍暑がりの俺はそのままの格好で進んだ。
全身ずぶぬれになって、「ハアハア、ゼーゼー」しながら這い登る。
杣道が遠く感じられて、激しい雨の中で頭はパニック状態になりそうだった。

ようやくの思いで、杣道に飛び出した時には雨は小雨になっていた。
そうして、出会いの丘に向かう林道は今までの葛藤が嘘のように平穏無事な道だった。
あれは、あの急坂の試練は、死人淵が俺達に与えた何かのメッセージなのだろうか。
出会いの丘駐車場で着替えをしている間、そんなことを考えていた。

今回の釣行は、それだけで終わらなかった。
車の運転をする中で、右手甲を見ると……。
赤い斑点が、テン、テン、テン…。左手も同様にテン、テン、テン…。
羽虫だ。いつのまにか羽虫にやられていた。
これから約1週間、痒い日々の続くことが確実となった。

キンカン買おう。
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