見た日/9月某日 ★★★

この映画、公開2日間で75万人を動員し、興行収入10億円を突破したのだという。勢いからすれば日本映画の実写映画で興収記録を持つ「踊る大捜査線2」を抜く情勢間違いなし、らしい。注目したいのは、2日間で動員した観客の満足度で、98・9%という高い数字が出たそうだ。

メディアミックスの成果もあってか、日本映画の観客動員が上がって、年間に1、2本はこういう映画が登場するようになってきた。日本人が1年に観る映画の本数は1〜2本というから、間違いなくこの映画はその「1本」に当たるわけだ。年間観る「1本」が日本映画、というのは洋画一辺倒だった数年前に比べればいい傾向と言える。

面白いのは、映画館にシニア世代もかなり戻ってきて、そういう誰もが観る映画が二極化してきたこと。昨年なら若者層は「日本沈没」、熟年層は「武士の一分」などのように。でも、もっと興味深いのはその境界線も曖昧化していることだ。熟年層も昔の作品を知っていて「日本沈没」を観るし、他の山田洋次時代劇は観てなくても、若いキムタクファンは「武士の一分」を観る。その相乗効果がはっきり出るから、ものすごい数字が出る。

今年は恐らくフジテレビ「HERO」と11月公開の日テレ系ノスタルジー超大作に特化していくのだろうが、どっちにしてもキムタク当たり役のこの作品で、東宝は勝負に出ている。何しろ470スクリーンである。これでヒットしなかったら、東宝の重役の1人や2人は吹っ飛ぶかもしれない。フジテレビの責任問題にもなりかねないだろう。「西遊記」の不振はともかくとして・・・。

こういう一般の方が年間に観る「1本」の映画が持つ責任は重大、と思う。何せ、いつもはテレビでしか「ドラマ」を観てない人が、スクリーンで観る「物語」なのだ。いくらテレビドラマの映画化だとしても、それなりにスケール感があって、大画面ならではの迫力があって、テレビとは違う魅力がないと困る。観客はお金を払って観ているのだ。その「1本」がきっかけになって、映画の面白さを再発見し、他の映画を観てくれるようになってくれれば、日本映画がさらに元気になるきっかけなになるからだ。

さて、この作品だが、内容的には満足度の高い数字が出ているように、正直、面白かったと思うし、これほどの観客が観る作品としては十分合格点が付けられる内容に仕上がっている。

もちろん、突っ込み所はいっぱいある。そもそもジーンズをはいた検事、という設定自体荒唐無稽だが、他の検事たちの捜査や後半の法廷シーンなど、リアルさを追求すれば思わず大笑いするような無理な点は多々ある。

が、一般の方がテレビドラマを観る感覚で観れば、フィクションの世界として十分楽しめる範疇で、その辺は作り手も百も承知だろう。そんなゴタクを並べても、スクリーンいっぱいに広がるキムタクのどアップは、オーラがキラキラで、男の僕が見てもホレボレする。今の時代のスターが、今の時代のスクリーンに輝いている、と素直に認めざるを得ない。

この作品が楽しめる作品になったのは、ひとえに脚本の力だと思う。「海猿」などで群像劇の上手さを発揮してきた福田靖さんの手腕が、この映画でも十二分に発揮されている。そもそも元になったテレビシリーズは、第1話でメインライターが諸事情で降板してしまい、急遽、福田さんが第2話以降を担当し、主人公たちの骨格を作り上げて行ったのだという。

ぶっきらぼうだがストレートな正義感を持つ主人公、その主人公を疎ましく思いながらも、共感する同僚検事たち。テレビシリーズで築き上げてきた福田さんの世界が、この映画でも堪能できる。小さな障害致死事件が、大物代議士の贈収賄事件と巧みに絡み、クライマックスに向けて法廷が二転三転する展開は鮮やか。

映画雑誌で福田さんは「見事なハリウッド映画のような脚本を書きたい」と発言されていたのを読んだが、その領域に近づいていると思う。次回作は佐々部監督作で助監督を務め「樹の海」でデビューした瀧本監督の「犯人に告ぐ」というから、またまた楽しみだ。

福田さんは山口県周南市の出身だ。周南市は徳山市と新南陽市、熊毛町が合併してできた市で、福田さんは旧徳山市で生まれ育った。僕が住んでいるのは周南市の中に囲まれた形で存在している下松市(くだまつし)で、東隣りには下松市と周南市東部に挟まれた形で光市がある。この辺り一帯を「周南地区」と呼んでいる。この周南地区の東端の光市から西端の新南陽地区まで、車でも30分ていどで行ける狭さだ。

何でこんなことを書いているかと言うと、この「HERO」は、周南地区在住の人が観るとニヤリとする部分がある。主人公が以前に赴任していた場所は何と山口県で、山口という言葉が何度も劇中に出てくるし、物語に重要な役割を果たす大物政治家も、山口県選出の代議士、という設定なのだ。ちなみにこの映画の前編の物語になったテレビドラマのスペシャル版はきちんと山口が舞台になっていて、下関市角島(佐々部監督魅惑の傑作「四日間の奇蹟」の舞台!)でロケもしている。

で、キムタク扮する主人公の前任地は「山口地裁虹ケ浦支部」だ。虹ケ浦という地名は実在しないが、福田さんの故郷、周南地区にある光市には「虹ケ浜」「虹ケ丘」という土地があり、海もある。そんでもって映画に登場する政治家の名前は「花岡」で、この名前も僕が住む下松市に「花岡」という歴史のある土地が実在する。

これは推測だが、恐らく福田さんの意識の中には故郷のことが頭にあったのだと思う。2日間で70万人以上の人が観る映画で、こんなお遊びがあるのも、周南地区在住人としてはとってもうれしい。
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