嫌われ松子の一生  新作レビュー

見た日/5月某日 ★★★★

 こういう作品に出会うと、映画を見続けてきてよかったと思う。

 昭和から平成にかけて、今の日本の風俗や世相を描写しながら、教師からソープ嬢、殺人犯、引きこもりと転落していった不幸な女性の一生を、50年代風ハリウッド映画の雰囲気と、本格ミュージカルで彩った、驚天動地、不思議で新しい感覚の「映画」である。

 映画館の映像サイズ、音響施設でないと、この作品は見る価値は半減してしまう。やはりDVDやテレビサイズでは、作り手の野心的な意図は味わえないだろう。

 感心したのは、松子が不幸になっていくディティールや、どんな悲惨な状況にあってもささやかな幸せをつかもうとする、松子の「揺れ」や愛情、周囲の人物の想いなど、いわゆる「人間」がミュージカル仕立て、ファンタジーな様相にも関わらず、きちんと描きこまれていて、感情が観客に伝わってきたことだ。

 むしろ奇抜なミュージカルシーンや物語を彩るCGが、単なる飾りではなく、松子をはじめ、登場人物たちの感情を伝えるパフォーマンスの1つとして、物語からも浮かず、ちゃんと機能しているのには驚いた。

 とくに刑務所での生活を表現するダンスシーン、不倫での幸せを60年代のアメリカン・コメディの雰囲気で踊り、歌う「ハッピー・ウエンズデイ」は楽曲の良さ、振り付けに加え、そのシーンの「表現」という意味でも秀逸。「ハッピーウエンズデイ!」とさわやかに、幸せそうに歌いながら、そこかしら不幸な匂いがする、微妙な味付けがいい。

 ポップ感ばかりであまり感心しなかった中島哲也監督の前作「下妻物語」よりは、天と地ほどの差がある。俳優さんたちにきちんと演技をさせなかった前作と違い、きちんと役作りをし、松子という人物の自分のものにしている中谷美紀の想いや表現力が強くて優れているからこそ、ミュージカルやCGが浮きすぎず、邪魔にもならず、1つの効果になっていたのかもしれない。

 後半、松子の悲惨さが際立ってからのテンポの緩慢さがちょっと気になったものの、今年見た日本映画の中では最も印象的な1本になった。
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