キャプテン  新作レビュー

見た日/8月某日 ★★★

この映画は、広島のサロンシネマ1で鑑賞した。サロンシネマと言えば、中国地方を代表する名画座で、僕たちが高校時代から憧れた映画館だった。

ちなみに「夕凪の街 桜の国」では昭和33年のパートで何気なく「国定忠治 公開中 サロンシネマ」のポスターが張られていたりする。当時、サロンシネマがあったかどうかは知らないけれど。これはいつも作品を上映、応援してくれる同館に対する、佐々部監督からのお礼の意味が込められたお遊びのようだ。

姉妹館のツインシネマは行ったことはあるが、サロンシネマは初めてだった。憧れの地での映画鑑賞だったわけで、久しぶりに映画を見るだけなのにドキドキした。

外観、ロビーまでの内装は決して美しいとは言えないが、歴史を感じさせてくれる。かつての映画館が持っていた雰囲気で、決してシネコンでは味わえない。館内は清潔感があって、スクリーンの大きさもほどほど。感心したのはシートの大きさ、広さ。どうも日本一大きな映画館のシートらしい。1メートルはあるだろうか、本当にゆったりと映画が楽しめる。

もっと感心したのは、音響の設定である。館内がひずまないていどに、しかし迫力が感じられるよう、低音が響くようしっかり設定されてある。これはプロの技だ。とにかく全体的に映画への「愛」が感じられるのだ。

上映前に、ファンファーレと「イッツ、ショウタイム!」の掛け声に続いて製作年度、作品名、監督名、出演者名、上映中の注意事項、上映時間がアナウンスされるのもうれしい。劇場の作品への敬愛の情が感じられるし「いよいよ始まるぞ!」という期待感でワクワクする。

さて、僕はこの映画に注目していた。ひとつは原作のマンガの大ファンだったこと。中学から高校、大学にかけて、コミックの「キャプテン」と続編「プレイボール」は全巻揃えていた。ちばあきお先生の野球コミックは、等身大の少年たちがさわやかに野球に打ち込む姿が感動的、とよく評される。

もちろんそれも大切な要素ではあるが、その魅力はそれだけではない。とくに「キャプテン」のイガラシ編を読むと分かるが、物語の大半は試合シーンで、実は、試合中に起こる野球というゲームそのものの面白さが、この作品の面白さだったりする。打つ、守る、走る、そこにこそキャラクターたちの個性や魅力が詰まっているのだ。

そういう意味では、実際の野球をテレビ中継などで楽しむ感覚とも似ている。だからこそこの原作コミックはリアルであり、キャラクターたちが等身大なのだ。実際の試合で起きることをじっくり描いているから、荒唐無稽な魔球などとは無縁であり、これまでの野球漫画とは一線を画している。リアルと言われた水島新司先生のマンガでさえちばあきお先生の作品の前では荒唐無稽の極地である。

でも、よーく作品を読み込んでみると、試合シーンはリアルなのに、設定の時点で「ありえない」ものだったりする。それは中学の軟式野球なのに9回まであること(実際は7回)、中学校の野球部に顧問も監督も存在せず、全て生徒たちだけで運営していること、などで(最初の主人公谷口の高校時代を描いた「プレイボール」では、さすがに形だけ顧問、という先生がちょっとだけ出てくる)、これはおそらく野球そのものの魅力を伝えるため、あえてちば先生はそう描いたのだと思う。

ということで、この映画は果たして原作の持ち味だった「野球そのものの面白さ」を映画でどこまで表現できるか、ということで注目していたのである。そして、もうひとつ注目していた理由は、室賀厚監督の存在である。室賀監督は、デビュー作「SCORE」でぶっ飛ぶほどの衝撃を受けた。

いわゆるハードバイオレンス物なのだが、ストップモーションなどのスタイリッシュな映像はサム・ペキンパーを思わせるし、全盛期の深作欣二監督の香りも漂う。物語は荒唐無稽の極地で、あれだけ撃たれて撃ってどうして生きているの?と不思議な映画ではあったが、荒さの中にも何とも言い難い迫力と熱のこもった作品だった。その後も低予算ではあるが、質にこだわったハードアクションを得意としてきた室賀監督が、さわやかな少年たちの物語をどう撮ったのか、興味があった。

これらの理由でいてもたっておられなくなって、公式HPで上映館を調べた。山口県ではやっておらず、広島と小倉でやっていることを知って、無理矢理仕事の段取りをつけて急遽、思い立ってすぐに見に行った訳だが、映画の入場料金1800円プラス、新幹線の往復代と駅からの劇場までの電車代(行き)、タクシー代(帰り)でおよそ1万円近くかかった。つまりは1本の映画に1万円かけた訳だ。

少々の駄作であろうとも、映画にお金をかけることは、全く惜しいと思わない。映画館で映画を観る行為そのものが感性を育てる、と確信しているからだ。ちょっぴり昔、諸事情で全く食えない時期があったが、そのときもメシは食わなくても映画だけは見ていた。「映画で感性を研けば、将来腹が太る」と本当に思っていたし、今、その通りになっている、と思う。

さて、「キャプテン」だが、いい映画だ。胸が熱くなり、何度も目頭が熱くなった。少年たちの演技はド下手だが、それがまたリアルでいい味を出していて、野球シーンもリアリティがある。課題と思っていた「野球そのものの面白さ」はしっかり映画で表現できていた。「野球」の魅力を伝える、という意味では春の秀作「バッテリー」よりこちらを買う。

原作では顧問も監督もいなかったが、映画では無理がないよう、顧問の先生に野球オンチの女性教師を配し、生徒がチームを引っ張ることにリアリティを持たせるなど、設定の変更は見られるものの原作の持ち味は壊してない。

実は補欠の玉拾いだったのに、野球名門校から転校してきただけで、誤解からキャプテンになった主人公谷口が、信頼されようと大工の父親と必死の特訓をする展開も原作通り。だが、谷口がチームリーダーとして成長する決意のきっかけを、父親が大きな仕事をする場面に重ねるところなどは映画ならではの表現と展開で、チームが強くなる描写に説得力を増している。

ヒロインの登場も好ましい。

ただ、試合での義田貴士の実況、宮本和知の解説は正直、不要。公開後の宣伝展開を考えてのキャスティングだろうが、こういうのはもう、いいと思う。「ミスタールーキー」もバースが選手として出てきた時点ですべてが壊れてしまったが、こんなので観客が喜ぶと思ってもらうと困る。今回はまだ大人しいから許せる範囲だが、巨人の元選手が中学野球の地区決勝のラジオ中継で解説しているのも不自然な話だ。

あと、バッティングシーンが急にストップモーションになったり、職員室が常にスモークで煙っているシーンなどは、ハードボイルドの香りが漂っていて、アクションで名を馳せた室賀監督のこだわりがそこに見えたような気がする。
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