モンゴル  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★★★

どうしても、同じ題材の「蒼き狼」と比べてしまうが、折角モンゴルでロケをしているのに、女優さんが皆きれいにお化粧をして、役者が日本語を喋るアチラに比べ、コチラは驚くほどリアルで生々しい。これぞ歴史大作、という作りだ。

若きチンギス・ハンことテムジンが、とにかく過酷な運命を辿る。幼いころに父親を殺され、復讐を誓うも流転の身となり、妻をめとっても敵の部族に奪われ、自らもまた外国に囚われの身となる…。

日本映画やハリウッド映画ならすぐに復讐するところだが、この映画はカザフスタン製で、監督はロシア人。ただひたすらに波乱の人生に立ち向かうテムジンを描くことで、何故、彼が全世界の半分を制するほどの王と成り得たのか、その強さと人格を形成する様を、見事な自然と共に描き切った秀作だ。

主演の浅野忠信が見事で、優しいインテリ青年を演じた「母べえ」の山ちゃんと同一人物とは思えない。周囲の俳優やその世界観に違和感はなく、むしろ浅野氏がリードしている感があった。モンゴル語のセリフも完璧だった。

さすがにアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品だけある。「蒼き狼」が公開されてコケたこともあって、なかなか日本公開されなかったということだが、作品本位を第一とし、この映画を配給、公開してくれた東映さんはなかなかやる。

0

映画ドラえもん〜のび太と緑の巨人伝  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★

「ドラえもん」の魅力って何だろう?と考えてみる。

優れたキャラクター物全てに言えることだが、1人1人のキャラクターの性格付けがはっきりしているからこそ、様々なバリエーションの面白いお話が展開できるのだ。

藤子・F・不二雄氏はすでにあるていどは確率されていた「ドラえもん」のキャラクターを、映画原作となる「大長編」でさらに発展、進化させた。

そこでのび太の優しさや射撃の腕などの個性、しずかちゃんの母性、優柔不断ながら最後は情に負けるスネ夫、たくましく友情に厚いジャイアンなどのキャラクターが深まっていった。

ドラえもんに関しても、ただ単に秘密道具を提供する存在ではなく、仲間の1人として機能することで、物語自体を深めていったのだ。

旧映画シリーズの初期作品はそれが成功している作品が多く、傑作も多数あったが、正直、回を重ねるごとに作品レベルは落ちて行った。

が、しかし、声優陣とスタッフを一新したテレビの新シリーズは未だに色々批判もあるものの、絵のクオリティも高く、何より原作マンガのテイスト、絵柄を大切にしていて、僕は好意的に見ていた。

新たに始まった映画も、第1作、第2作ともに旧作のリメイクではあったが、前記のキャラクターの進化を踏襲し、旧作にない展開を意欲的に取り入れていた。「新・魔界大冒険」は脚本に人気ミステリ作家を起用、大胆でトリッキーな展開を見せ、これも批判は色々あったが、なかなか意欲的な作品だった。

で、今回は新シリーズ初のオリジナル作品だった訳だが…、これは、個人的にはハッキリ言ってかなり最後まで見切るのが辛い作品だった。

前半のキー坊誕生のくだりはよかったが、後半、物語が緑の星にシフトしてからは、環境問題にこだわりすぎなのか、お話自体も観念的になってしまい、物語が分かりづらくなってしまった。

ゲストキャラのお姫様も性格や行動に一貫性がなく、これでは子どもも大人も感情移入できない。

そして、最も辛いのは、先に書いたドラえもん主要キャラが全く立ってないことで、それぞれの役割を果たしそうではたしてないため、これではは「ドラえもん」のようではあるが、全く「ドラえもん」の世界になってない。

それぞれまキャラが全く新しい魅力を出していればそれはそれでいいのだが、今作ではこれまでの映画シリーズで見せてきた役割を発揮しようとして不発に終わっているから辛い。

ドラえもんに至っては、前半、秘密道具をメンテナンスに出しているのでいざというときに道具が使えない、という設定は以前にもあったものの、今回はその設定が後半のピンチにもサスペンスとして生きず、あまり存在感がなかったのも残念。

ちょっと辛めに書きすぎたが、僕は幼いころからドラえもんが大好きだし、このシリーズは本当に期待しているからこそ、の辛口なのだ。この作品も作画的な魅力はあるし、キー坊との別れのシーンには涙も出たし、まとめ方はなかなか上手かった。

次回作は傑作「のび太の宇宙開拓史」という噂があるが、もしそうなら、この作品は藤子先生が愛してやまなかった往年の時代劇にオマージュを捧げた作品でもあり、旧作以上のクオリティと活劇になるよう期待したい。
0

うた魂♪  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★★★

この映画、ひどくバランスが悪い。

だけど、そのバランスの悪さが、絶妙な魅力になっている、不思議な映画だ。

何しろ物語に挿入されるギャグは唐突だし、登場人物たちも特に前半はまるでリアリティがない。

後半は一転してちょっぴりシリアスになるのだが、物語の展開に伏線や工夫があるわけでもなく、いきなり雰囲気が変わったりする。

もしこのバランスの悪さが監督の計算なら、この監督さんはスゴイ。ゆるゆると描いた今風の演出ではあるが、物語が多少弱いからこそ、コーラスという「歌」の魅力、「音楽」が持つ力が際立ち、強い印象が残る。

この映画では、役者たちが本気で歌い込んでいることが、しっかり伝わってくる。

同じコーラスを題材にしながら、緻密な脚本、演出だった「歓喜の歌」ではなぜか歌の魅力が十分伝わってこない。まあ比べること自体はおかしいが、僕は個人的にはこちらの方が「コーラス」の魅力が十分感じられたように思う。

それは、「歓喜の歌」は物語の展開に重点を置いており、コーラスそのものを描くことにそんなに熱心ではないためだろう。

その点、この映画はクライマックスの「コーラス」に全てを集約させる娯楽映画の王道を取っている。

「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」などと同様の図式ではあるが、人=役者たちが本気で取り組み、自分の力以上のものを発揮し、スクリーンに刻むからこそ、その御膳立てとして、多少の破綻やユーモアはむしろ観客の気持ちを引きつけるために必要なことなのだ。

ゴリ演じる男子校のコーラスも可笑しくはあるが、なかなか聞かせる。とくに尾崎豊の名曲「15の夜」のコーラスバージョンは感動的だ。

僕は高校時代、吹奏楽部に入って毎日練習に明け暮れたが、青春時代に音楽に取り組んだ身としては、この映画そのものがたまらなく愛おしい。

0

クローバーフィールド/HAKAISHA  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★★★

観客を選ぶ作品で、誰もが面白いとは思わないだろうけど、僕はかなり面白く見た。

この映画、アメリカでは仕掛け自体がひとつの「映画」になっていた。

自由の女神の首が街に転がる衝撃映像だけのタイトルもない予告編を劇場で流し、日系企業が運営する油田がナゾの爆発を起こしたという意味不明のニュースをネットで流し、話題が沸騰したところで全米公開するという前触れ自体が、この映画の「体験」のひとつになっている、という訳だ。

で、映画自体もその災害現場に居合わせた一般人がビデオカメラで撮った映像を見せる、という作りで、説明も何もなく、観客はただただ、一般の人が撮ったビデオ映像を見せられるのだ。

日本では公開が遅すぎて、映画公開前にあるていどの情報が流布してしまったことと、アメリカのようなネットを使った仕掛けが十分に機能していなかったため、この映画だけを見せられても、その面白さは半減したかもしれないが、この映画、体験型ムービーとしても、災害映画としても、そして「怪獣映画」としても、よく出来ている。

この映画に関しては、いつも拙ブログにコメントやTBをいただく朱色会さんが、面白い見方をしている。↓

http://ver-milion.blog.so-net.ne.jp/2008-04-06

確かに日本の怪獣映画は、怪獣一匹が街に上陸して暴れまわるというコンセプトの映画は、実は1954年に作られたゴジラの第1作以外1984年のリメイク「ゴジラ」、「ガメラ」第1作目ぐらいで、あまり数はない。

巨大なモンスターが出現し、街を壊す、というだけで、十分に面白いパニック映画が作られると思うのだが、日本の映画人たちはどうも、そこよりは怪獣に対する相手を作り、対決することに重きを置いてきた。

日本の怪獣ファンの間では評価が低いハリウッド版「ゴジラ」も、ストーリーはかなり雑だが、怪獣によるパニック映画、という点ではかなりレベルは高く、僕は個人的に評価している。そういう意味では、そろそろ日本でも特殊なファンだけに向けたものだけではなく、一般の映画ファンも気軽に楽しめる「怪獣映画」が出現してもいいと思う。

もちろん、日本の怪獣映画が生み出してきた作品群はそれはそれで面白いものがあるのだが、「対決」を重視してきたため、日本の怪獣映画は質的にダメダメになっていったのも事実なのだ。

まあ日本の怪獣映画の王道とも言える対決物の面白さに加え、現実的な解釈と純粋な映画としての面白さ、それに今までになかった「庶民目線」を加えて作られたのが、平成「ガメラ」シリーズで、これは3作とも日本映画史に残る大傑作だったと思うが、少々マニアックではあった。

さて、この映画、そんな日本の怪獣映画にもかなりオマージュを捧げている。本体に加え、小さな群が現れ、地下道などに潜伏して人を襲う様は、「ガメラ2〜レギオン襲来」の小型レギオンを思わせる。本編が終わり、エンドタイトルで流れる音楽は、明らかに「ゴジラ」シリーズの伊福部昭や「ガメラ」シリーズの大谷幸を意識している。

この映画、手持ちカメラだけの映像という点が、徹底した庶民目線で、新しい怪獣映画の見せ方としては斬新だし、観客もそのパニック現場に居合わせた気分にしてくれる。

まあ、手ぶれ映像で気持ち悪くなる、という前触れだったが、実際に見ると、中盤からは揺れながらも安定しているし、僕はそんなに気にならなかった。

どんな状態になろうとカメラを離さず、ちゃんと対象物を撮っていること自体が実はあり得ないのだが、そこはまあリアルだけど「映画」ということで、ここは気持ちよく騙されたいし、僕も気持ちよく騙された。

それにしてもデジタル映像の中だけに特撮部分を作り込むことは技術的にどれだけ大変だろうと思うが、これは流石だ。

ドキュメンタリー風の作りだからストーリー自体はないようなものだが、前半のパーティーのシーンや時折挿入される消し忘れの主人公たちの日常の映像がいい効果をあげていて、よりパニックを効果的にしている。

未曽有の事件が発生したとき、人はどう行動するか。この映画の主人公は、誰に何を言われても、ある行動を貫く。完全な実験映画のようでありながら、ここは感動的で、音楽や効果は何もないものの、作り手はきちんとヒューマンな視点を忘れていない。

考えてみれば、9・11から数年でこういう映画をニューヨークで作ったこと自体、勇気がいったと思う。得体の知れないものが街を襲った状態での主人公の行動は、あのテロ事件に対するニューヨークの人たちの想いの表れとも言えるかもしれない、と思ったのは深読みだろうか。そういう意味では、あのテロ事件があったからこその映画と言えるかもしれない。

さて、本家である日本も、これに負けない視点での怪獣映画を作ってほしいものだが、「続・三丁目の夕日」の冒頭シーンの「ゴジラ」は正に庶民視点からで見事だった。第1作「ゴジラ」の事件を、庶民目線で描く、というような企画ができんのかいな、と思ってしまったが、誰か作ってほしいなあ。ものすごいお金はかかるけど。

0

魔法にかけられて  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★★★

ディズニーが自らの世界をセルフ・パロディしているが、なかなか楽しい映画になっている。

アニメの世界から現代のニューヨークにやってきたプリンセス。その現実離れしたノーテンキぶりは、現実社会から見ればただの変人なのだが、その実直さで現代社会の人々を変えていき、プリンセスもまた、現実社会の中の「優しさ」に触れ、本当の「愛」を知る。

過去のディズニー作品を踏まえた展開やパロディが数々盛り込まれ、ファンには楽しめるが、興味深いのは、現実とおとぎ話の世界が簡単にリンクしている、ということ。

最初はすっとんきょうだったプリンセスのドレスが、段々現実的なデザインになっていき、たくましくなっていく。逆に現実社会の人々が、おとぎ話の人物たちに魅せられ、自分の中の純粋さに気づいていく。

これは、多くの人がディズニーランドやディズニーシーに非日常を求めている様を連想される。ディズニーという会社自体が、現実社会の中で人々に夢を与えることの意味を問いかけたようにも思える。

ストーリー自体は単純で、ラスト辺りはかなり強引なのだが、まあ「映画」自体も魔法のようなものなので、その辺は気にもならない作りになっている。

アニメでは美しかった、プリンセスが魔法を使って動物たちを動かすシーンが、現実社会では野ネズミやゴキブリになっていて、これは大爆笑必至の見事な場面。僕はひとり、映画館でのけぞった。ディズニー、なかなかやるわい。

0

犯人に告ぐ  新作レビュー

見た日/3月某日 ★★★

冒頭、誘拐犯を捕まえるため、都会の雑踏で身代金を持った母親を刑事たちが警戒するシーンが、緊迫感があっていい。

そこで県警と警視庁の対立をサラリと描き、やがて始まる本編への伏線にもなっていくのだが、前半はモノトーン映像で淡々と見せてくれ、無駄なシーンもなく、サスペンスらしい緊張感が漂う。

中盤から劇場型犯罪に対する主人公刑事の「劇場型捜査」が描かれ、流石にここはリアリティが多少崩れかけるものの、警察の裏側で巻き起こるドラマが面白く、最後まで飽きさせない。

意外にも、犯人側の論理や描写はあっさりしていて、あくまで捜査をする側がドラマの主役なのだが、警察やマスコミの方を濃密に描くことで、この映画は重大事件における未解決時の「得体の知れない何か」を描くことに成功している。

僕も記者時代に経験がある。殺人事件が起きて犯人が捕まらない状況になると、警察にもマスコミにも、何だか“いやーな”空気が流れる。

夜中、クタクタになって警察から自宅のアパートに帰ると、街の灯りを見てふと思う。「この中に犯人がまぎれているんだ」とう感じた時の、背中のゾワーっという感覚は、いやなものだ。

その、犯罪都市に溶け込んだようないやな皮膚感覚は、重大事件になればなるほど、都会ならなおさら、強く感じるものだと思うが、この映画は、その“いやーな”空気感を上手に表現できていると思った。

良くも悪くも豊川悦司のヒーロー映画でもあるが、豊川さん演じる刑事がテレビで犯人に「今夜は震えて眠れ」と呼びかける姿はしびれるほどカッコいい。

笹野高史、小澤征悦、石橋凌ら脇の役者さんたちもよく、とくにイヤな警察官僚を演じた小澤征悦の存在感はこれまでの彼のキャリアにないもので、役者の隠れた魅力を引き出した点では瀧本智行監督の演出力が優れているのだろう。

瀧本監督は「チルソクの夏」のチーフ助監督、脚本は周南市出身で、「海猿」シリーズの福田靖さん。群像劇が得意な福田さんの持ち味も発揮されているし、全編ハードボイルド調に徹した瀧本監督の演出もいい。個人的には前作「樹の海」の方が好きだが、正統なサスペンス映画として楽しめた。

0




AutoPage最新お知らせ