山のあなた 徳市の恋  新作レビュー

見た日/5月某日 ★★★★

この企画が、よく通ったなあ、と思うが、70年前の清水宏監督による佳編を、同じセリフ、カット割りで完全カバーしたというから驚く。

その監督さんが「PARTY7」の石井克人監督というからまた驚きだが、こういう作品が、東宝のメジャー系で全国のシネコンにかかる、というのはいいことだと思う。

これも主役にジャニーズの俳優さんを持ってきたから、というのはあるだろう。古くから地味だったり芸術性が高かったりする企画にスターを主役にして話題性を上げよう、という試みはあったりするが、この作品はそういう形のいい例になっている。

徳市役の草なぎ剛は器用さと繊細さが同居した好演を見せており、今までの「黄泉がえり」「ホテルヴィーナス」「日本沈没」に比べてもベストアクトだと思う。

この作品の元になった「按摩と女」は未見だが、見ていてそのゆったりとした間に「ああ、昔の松竹映画みたいだなあ」と思っていたら、そう、元々は戦前の松竹映画なのだからそう思うのは当たり前だろう。

清水監督と言えば、同時期に同じ松竹で活躍した小津安二郎監督に比べると知名度は低いが、ロケを多用し、ユーモアとペーソスのあるメロドラマや子ども映画の傑作を多数撮っている。巨漢だったというのだが、そう言えば吉永小百合が田中絹代を演じた「映画女優」では、渡辺徹が清水監督を演じていた。

そもそもこの企画、「按摩と女」に感動した石井監督が「この作品をもっと知ってもらおう」と、白黒でフィルムの質も悪いことから、何とかカラー化やデジタル処理をして現代に蘇らせられないか、と考えたのが始まりらしい。

ゆったりとした時間と自然の中で、ユーモアあふれる物語が展開し、中盤からはサスペンスもある。もちろんギスギスしたサスペンスなどではなく、緩やかなものだが、それにより主人公の徳市の気持ちのバランスが崩れていく繊細な様は正に昔の日本映画の醍醐味で、心地よさの中にも緊張感を見る者に与えてくれる。

セリフやカット割りはオリジナルのままらしいが、なかなか凝ったセットの作り込みやCGによって再現した温泉街など現代の技術力もよく発揮されており「かつての名画を復元」するという試みは十分成功しているように思う。

あと、ヒロインを演じたマイコがいい。和風と洋風が混同した鼻が高い美人、という外見は昔の原節子を思わせ、昭和の映画スターの雰囲気が漂う。ちょっとヘタウマなセリフ回しもそれ風だ。

どんな映画でもオリジナルはオリジナルのまま、後世に語り継がれるべきだと思うし、最近のリメイク流行りにはあまり感心はしないのだが、埋もれた作品を新たな時代に蘇らせるこういうリメイクは「アリ」かもしれない。まあ、こういう作品ばかりでも困るのだけれど。
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ランボー 最後の戦場  新作レビュー

見た日/★★★

長い迷いの時を経て、己の肉体で勝負するべし、と原点回帰したシルベスター・スタローンは、偉い。

何もない貧乏なイタリア移民の若者が、自分と恋人のため、ただひたすらに戦うシリーズの原点に帰った落涙必至の傑作「ロッキー・ザ・ファイナル」を経て、今度はもうひとつの自身の代表作「ランボー」シリーズでも、原点回帰して落し前をつけてきた。

オリジナルの「ロッキー」シリーズに対して、「ランボー」の方は原作がある。第一作は原作を踏襲していて、ベトナム帰還兵で国によって殺人マシーンと化してしまったランボーが、自分を追い詰めた国家権力に立ち向かう、なかなかの傑作だった。

それがパート2から破綻していき、3作目に至っては、強列なナショナリズムと荒唐無稽の嵐になってしまった。

それが、今度のランボーは「世界を変えたい」と願う女性の涙に心を溶かされながら、殺戮をすることしか自分の価値を見出せないことを自覚し、自分のために戦おうとする。

そのうえでランボーはラストにある決断をする。その過程で、その行動の伏線となるあるセリフをヒロインに言うのだが、これがこの映画を貫く大きなテーマになっているような気がする。

上司のためでもなく、国のためでもない。愛する人と自分のために戦う。それがやがて悲惨な世界を救うことになる――。明らかに変化したスタローンな明快な主張が聞こえてくるが、ここで描かれた「ミャンマーの現実」も、娯楽映画というオブラートに包んではいるが、スタローンが訴えたいものだったに違いない。

それにしても、今できるCG技術を駆使して描かれる戦闘シーンは、これまでのどの戦争映画やアクション映画を上回るほどの、残酷、かつリアル人体破壊殺戮シーンのオンパレード。

これも、スタローンの意図するところなのだろう。ヒロイズムを描きながらも、暴力に対する暴力は、残酷で悲惨でしかない。そこに、決して勝利の喜びなどはない。そのさじ加減に、「ロッキー・ザ・ファイナル」を経てのスタローンの成長を見た。


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舞台『黒部の太陽』詳細発表!  佐々部監督の世界

佐々部監督が舞台を初演出、脚本も手がける「黒部の太陽」の製作発表があり、スポーツ紙などでも大きく報道されました!↓

http://excite.co.jp/News/entertainment/20080526080505/Sanspo_EN_120080526003.html

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080526-00000005-dal-ent

http://www.nikkansports.com/entertainment/news/p-et-tp0-20080526-364469.html

黒部ダムを掘る人々と映画製作に賭ける男たちを同時に描くというこの作品、映画監督の佐々部監督ならではの舞台になりそう。

有名な放水シーンでは本当の大量の水を使うなど、スゴイことになりそうです。石原裕次郎役を中村獅道さん、三船敏郎役を神田正輝さんが演じるということで、他に渡哲也さんも映像での特別出演が決まったようです。

公式HPでも、前売りなど詳細な情報がアップされていました。↓

http://www.umegei.com/m2008/kurobe.html

初日は10/5ということなので、本当に今から楽しみです!!
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チャーリー・ウィルソンズ・ウォー  新作レビュー

見た日/5月某日 ★★★

※注意!!気をつけてはいますが、やむを得ずクライマックスの展開にふれています。未見の方、ご注意ください!!

コメディかと思いきや、かなりキョーレツな政治映画で、面白い。

ただし、これは80年代の冷戦時代から90年代にかけての共産主義崩壊に至る世界情勢、宗教情勢などを少しは分かってないと、かなり辛い映画ではある。

ソ連がアフガニスタンに侵攻したニュースを見て関心を持ったアメリカ下院議員のウィルソンが、大富豪で美人のマダムに頼まれ、アフガンに武器を流すための予算捻出をする、というお話。

ソ連のアフガン撤退にたった1人の国会議員の尽力が大きかったという「実は話」。それがやがてソ連崩壊のきっかけとなり、冷戦終結につながったのだが、そこはハリウッドでもリベラル派で知られるトム・ハンクス&ジュリア・ロバーツなので、しっかりアフガンへの支援がやがてあの事件につながった、というニュアンスも忘れない。

ソ連に知られず、アフガン紛争にアメリカが関与するため、ウィルソンは曲者のCIA諜報部員とともに、いろいろ国際的な仕掛けをするのだが、この辺りは各国の宗教勢力を知っておくと、抜群に面白い。

見ている側の知識に訴えながらも、映画自体はコメディタッチで、そのバランスもよい。ウィルソン自体は女好きの、ちょっとだらしないおじさんで、映画の中でも酒ばっかり飲んでいる。

国会の事務所のスタッフはセクシーな美女ばかりで、それでいて切れ者揃い。これが実話というから驚くが、このコンセプトが、あの「チャーリーズ・エンジェル」のモデルになったというから驚く。

映画でも、ウィルソンと怪しげなテレビプロデューサーとの関係が出てきて、サンフランシスコ版「ダラス」を作るとかなんとか、という話をしているのが可笑しい。「ダラス」なんて、懐かしいなあ、と思ってしまった。

ウィルソンが難民キャンプを視察する場面など、なかなかの迫力で、彼のアップからカメラが引くと、無数のテントが広がるシーンは圧巻。ここをしっかり描かないと、なぜ彼がリスクを犯してアフガンに入れ込むか分からないだけに、演出にも力が入っている。

CIAの会議室でモニター画面を見ながらウイルソンやCIAの職員たちが喝采をあげるシーンは、まるでゲームのようでもある。ソ連兵をかなりひどいバカ扱いにしている点も、少し気になる。リベラルに描きながらも「アメリカ万歳!」的な描写になるのは仕方ないだろう。

さて、ウィルソンたちは人道支援のつもりで頑張ったにしても、結果的にアフガンでの戦闘は冷戦下におけるソ連とアメリカの代理戦争になってしまった。その後、人道的なフォローをウィルソン達ができなかった代償があの事件にあったことを示唆するラストは皮肉でもあり、様々なことを考えさせる。

ちょっぴりだらしないトム・ハンクスがいい。「スプラッシュ」や「プリティ・リーグ」を思い出した。あと、ジュリア・ロバーツはずいぶんオバチャンになった、と思った。ウィルソンの秘書役のエイミー・アダムスが可愛い!!

星は、3つか4つかかなり悩んで、3つ。
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カンナさん大成功です!  DVD・ビデオレビュー

見た日/5月某日 ★★★★

こういう作品を見ると、本当に韓国映画も多種多様で奥が深く、あなどれないと思う。

ブスでデブだが、歌は抜群で、有名歌手のゴーストシンガーをしている女の子・カンナが、自分を見出してくれた敏腕プロデューサーに恋をしてしまう。

そのプロデューサーも好意を寄せてくれていると思いきや「ブスでデブなカンナを利用しているだけ」という発言を聞いてしまったカンナは、思い切って全身整形し、別人に生まれ変わる…。

テイストや演出はアメリカ映画なんかに見られるタッチで目新しくもないが、美人に変身してしまったカンナが、オタクの追っかけファンやモテナイ人の気持ちに同化していく心理描写はなかなか巧み。

「例え見た目はきれいになっても、人は心が美しくないと、どうしようもない」という永遠のテーマを、上手に、最後は感動的に歌い上げる。

「韓国は整形美人が多い」とはよく聞くし、それが本当かどうかは分からないが、韓国の芸能界を舞台にしているこの映画が、それを自虐的にギャグにしているところは結構笑える。

この映画がいいのは、芸能物としてよくできているところで、とくにコンサートのシーンは出色で、主演の女優が歌う楽曲が素晴らしく、印象に残る。

特殊メイクで整形前のカンナも演じきったというヒロインはとっても魅力的だ。

「オールドボーイ」「殺人の追憶」など、日本のマンガや映画を源流としながらも、韓国映画独自のセンスでとてつもない傑作になった作品もあるが、この作品や「ブラザーフッド」のように、ハリウッド作品のいいところを上手に取り入れながら、独自の主張やテイストを折り込むのも、韓国映画の得意のするところだ。

日本映画だと、妙にその独自テイストが重くなって失敗したりするのだが、この映画は最初から最後まで、ひとつの爽快感が突き抜けていて、その点が潔い。

それで、この映画も日本のマンガが原作というから驚きだが、ストーリーなど、映画は原作とは全く違うらしい。日本では今度、山田優主演でリメイクされるらしいが、果たして日本版はどうなるのだろうか?

韓国版を見習って、思いっ切り弾けてほしいが…。
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『三本木農業高校、馬術部』公式HP  映画つれづれ

佐々部監督待望の新作、「三本木農業高校、馬術部」の公式HPがアップされていました!

http://sannou-bajutsu.com/index.html

予告編もありますが、いい仕上がりになっているようです。

青森の四季が美しく、長淵文音さんも魅力的です。

テイストとしては「チルソクの夏」に近いかな?

人、自然、動物…。そんな峻厳なものたちの関わりが、熱く描かれている、そんな期待をもたらしてくれます。

恐らく、新たな傑作の誕生でしょう。

夏に青森公開、秋に全国公開のようです。今から楽しみです。
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隠し砦の三悪人〜THE LAST PRINCESS  新作レビュー

見た日/5月某日 ★★★

黒澤映画で一番の傑作は「七人の侍」だと、僕も思う。

続いて、スゴイと思うのは「用心棒」「椿三十郎」「天国と地獄」で、もちろん「生きる」「羅生門」もスゴイと思う。

この映画のオリジナル版は、物語展開も明快でスッキリしているし、活劇の面白さもあって個人的には大好きだが、先に挙げた他の黒澤作品に比べると、非常に大それたことではあるが、娯楽性はあるものの、構成や緻密さはやや欠けると思う。

そういう意味ではこのリメイク版で樋口真嗣監督がやろうとしたことはよく分かるし、オリジナルに比べて改編した点は、より面白くするために必要なことだったと思う。

脚本の出来も、かなりいいと思う。オリジナルで藤田進が放った印象的なセリフ「裏切り御免」をいい意味で「裏切り御免」的に使っていてニヤリとさせたし、オリジナル版にはない敵側の砦を出し、クライマックスにつなげる構成もいい。

だけど肝心のアクションシーンに、ハラハラドキドキしない。何かこう、例に出すとアレだが、「カットスロート・アイランド」や「ナショナル・トレジャー」のような、スケール感はあるものの、ユルユルで大味なハリウッド映画を見たような後味なのだ。

だからと言って、「面白くない」とは言わない。十分面白くはあるのだが、この物足りなさは何だろう、と思ってしまう。

僕は樋口監督は日本映画界が誇る才能の持ち主だと思う。かつて樋口監督が担当したアニメや映画の絵コンテやカット割、そして特殊技術は、本当にスゴイものが多い。その“絵づくり”の冴えが、正直、今回の映画からはあまり感じられなかった。

設定はメチャクチャでも、CGにパワーがみなぎっていた「ローレライ」や、お話のつながりにかなりの無理があっても、特撮に見るべき所が多かった「日本沈没」の方が、僕は個人的には好きだ。

そういう意味では、この3作目は一般評価としては、これまでの作品に比べてよく出来ていて、お話の展開も一番面白いということになろうが、樋口監督の実力やセンスは、こんなものじゃない、と思うのは僕だけではないだろう。

ちょっと辛口だったが、いいところも、もちろんある。

まず、長澤まさみ!!新たな彼女の魅力を引き出したという点では、この作品は彼女の代表作になると思う。美しく、それで凛としている雪姫を素晴らしく魅力的に演じていて「ロボコン」「タッチ」に続く、映画での代表作の誕生だ。オリジナルの上原美佐は美しかったが、長澤版「雪姫」も負けてない。

それから、オリジナルで三船敏郎が演じた六郎太を演じた阿部寛もいい。見事な殺陣を見せてくれるし、オリジナル版で印象的だった騎馬アクションの再現は、オリジナルに負けまいとする阿部寛の心意気が伝わってくるいいシーンだった。

ただ、オリジナル版を見ると、CGも何もない時代、両手を離して疾走する馬に乗り、あのシーンを演じ切った三船敏郎の迫力は、今見ても色あせない。あのスピード感はもの凄く、正直、リメイク版よりスゴイ。どうやって撮ったのだろう?と思う。

オリジナル版は冒頭の農民のシーンがジョージ・ルーカスにイメージを与え「スター・ウォーズ」になった、と言われているが、僕はこの騎馬アクションの場面こそ「スター・ウォーズ」のクライマックス、デススター攻略のシーンにイメージを与えたのではないか、と思っている。

さて、オリジナル版ではコメデイ担当たった農民コンビが、リメイク版では主役になっている。演じた松本潤、宮川大輔はいい味を出していて、とくに宮川大輔は出色で、これもお笑い畑からの起用を好んでいた黒澤監督に敬意を表したのかな、と思った。

そこそこ魅力的な映画だけに、全体に漂う大味感が惜しい。
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クライマーズ・ハイ  新作レビュー

見た日/5月某日 ★★★★

公開は7月5日だが、業務試写会で一足早く拝見させていただいた。

日航機の墜落事故という、とてつもなく大きな事件に出会った地方新聞社の内幕を、迫力あるカットの積み重ねで描いた力作。

とてつもなく大きな問題にぶつかったとき、人の心はさまざまに揺れ動くものだが、この映画は、そこを20年後の山登りという、自分への問いかけが必要な「挑戦」をしている主人公の心情と当時の模様をリンクさせながら、上手く表現している。

新聞社に限らず、会社などの「組織」が大きなプロジェクトに対処したとき、そこには様々な人の思惑の中で個人としての葛藤が渦巻くものだが、この映画は後でも述べる個人と組織の関係性がよく描かれている。

この映画は、物語の展開は原作に沿ってはいるが、細部の設定を変えることで、NHKで放映されたテレビドラマ版(これも秀作だった)とは全く違う味わいの作品に仕上がっている。

主人公であるデスクと新聞社社長の「疑似親子」関係や、デスク本人の出生に関わる回想シーン、そしてデスクの息子にまつわる話を強調したことで、「組織と個人」という原作のテーマ性とは別に、「父と子」、とくに「男が成長するためには、父親を乗り越えていなねばならない」…というテーマが浮かび上がる。

めまぐるしいカット割、聞き取れにくいセリフ回し、ラストの展開など、原田眞人監督のいつものパターンではあるが、今回の題材は慌ただしい群像劇という意味では、原田監督の最近の諸作品に比べてもしっくりきている。特に前半、事故を巡る新聞社内の駆け引きのシーンなどは、映画らしいダイナミックなカット割が光る。

それと、原作では全くといっていいほどなかった事故現場のシーンがきちんと再現されていて、それがまた臨場感を出しているのだが、これは実際の事故から年月が経ったからこその描写だろう。

原作者の横山秀夫氏は当時、群馬県の新聞社の若手記者で、実際に事故直後、御巣鷹山に登り、現場取材を体験している。

原作小説は、横山氏が新聞記者から作家に転じてかなりの年数が経過して発表されたもの。横山氏自身、何度もこの事故のことを小説に書こうとしたが書けなかった、と記していらっしゃるのを読んだことがある。

横山氏は、現場の凄まじさを体験しているからこそ、事故そのものではなく、その「事故」に遭遇し、対処した記者たちの葛藤を描くことで、あの「事故」が我々にもたらした意味を問いかけたのだ。

だから横山氏は原作小説ではあえて事故現場の描写はせず、現地を取材した記者の「現場雑感」という劇中で書かれた記事という形でサラリと触れるだけだ。そこには、若き横山氏の姿と思いを投影したと思われる熱さは若干感じるが、原作ではそんなに大きなウエイトではない。

その、原作小説のアプローチは実に見事で、実際に起きた「事故」と一歩距離を置いて、客観的に見つめたからこそ、原作小説「クライマーズ・ハイ」は娯楽小説にもなり得たし、報道の在り方や問題点、そして横山氏が一貫して小説で描き続けてきた組織における個人の在り方をも浮き彫りにした、奥の深い傑作小説になり得たのだと思う。

だがこの映画では、その原作の精神を守りながらも、あえて現場の再現に挑んでいるのだ。あの事故現場は恐らく当時リアルタイムで見ていた日本人は誰もが記憶にあるだろうから、そのシーンは鮮烈だ。特に「現場雑感」のシーンは、シルエットではあるが、現場の凄惨さがしっかり描かれ、この場面はこの映画の中で最も心が揺さぶられる。

それでも、横山氏が描こうとした原作のテーマを映画は失ってはいないし、ぶれてはないのだが、原作があえて描かなかった現場の場面を挿入したのは、日本人なら誰もが記憶に刻んでいる痛ましい事故であるだけに、事故を風化させまいとする作り手の気持ちがそこにあったのだと思う。

主人公が信条としている仕事への姿勢が、幼少の「アメリカ映画体験」にあるという原作にない設定はハリウッド映画に詳しく、映画評論家出身でもある原田監督ならではだろう。

実際の事件を題材にした点など原田監督の作品としては「突入せよ!あさま山荘事件」と似たテイストではあるが、一方的に権力側の動きだけを描いたあの作品に比べると、この映画は様々な社会的要素を組み入れており、まだバランスはいい。

僕は小さな新聞社で17年間記者をさせて頂いたが、この映画を見て、いろいろな思いがこみあげてきた。

他社に抜かれまいと、懸命に徹夜までして記事をおっかけたこと、そんなことが一体何のためだったのだろう?果たして、自分の記事がどれだけの人を苦しめたのだろう?

でも、当時の記憶や思い出が、今の僕を支えていることも間違いない。僕も、かつてはこの映画に出てくる若い記者のように、鋭い目でがむしゃらだったような気がする。それが今になって、一歩引いて、見えてくるものは確かにある。

堤真一の老け姿はかなりの無理があったが、現代のシーンを効果的に挿入したことで、この映画は、観客にいい意味での「距離感」を与えてくれる。
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相棒—劇場版—絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン  新作レビュー

見た日/5月某日 ★★★

「この胸のときめきを」「さらば愛しのヤクザ」などで、僕が大学時代に大好きだった和泉聖治監督久しぶりの劇場作品なので、期待して劇場に出かけた。

和泉監督は「相棒」ずーっと初期の土曜ワイド劇場枠からテレビシリーズを監督し、自ら世界観を作り上げてきた監督さんだが、評判と相性もいいシリーズの映画版だから、本来「本編=劇場用映画」で活躍してきた監督さんだけに、スタッフ共々気合十分なのが、スクリーンからも伝わってきた。


あと、水谷豊氏をスクリーンで見るのは、随分久しぶりだ。恐らく「逃がれの街」以来ではないだろうか。水谷氏は「傷だらけの天使」のイメージが強烈だが、僕にとっては「青春の殺人者」の水谷豊は、「タクシードライバー」のロバート・デ・ニーロと同じくらい、インパクトがあった。

しばらくテレビの二時間ドラマでしかお目にかかれなかったが、久し振りに当たり役に出会った水谷氏が生き生きとスクリーンで活躍する様は、日本映画ファンとしてはやはり嬉しい。

それにこの作品は「東映東京撮影所」作品だが、東映の製作・配給映画としては、久々の大ヒットらしく、長年△波ザッパンマークを応援している身としてはこれも嬉しい。

特別ゲストでチラリと出てくる松下由紀は、和泉監督の青春物の傑作「この胸のときめきを」に出ていたなあ、なんて思いだしてしまった。

テレビの「相棒」は何度か見ているが、確かに面白い。

個性が全く違う刑事が活躍するという洋画などに多いバディ物だが、凝ったストーリーにユーモア、社会性も交えていて、2時間スペシャルなどは本当に出来がいい。

で、満を持しての映画化だが、まあ1作目としては合格点ではなかろうか。

水谷豊扮する杉下右京警部が姿の見えない犯人とチェスで頭脳戦を繰り広げる前半がとくに面白い。有名人ばかりを狙った連続殺人事件が発生し、なぜか犯行現場には意味不明のアルファベットと数字が残されていた。

やがて、それが5年前のある事件と結びつき、物語は意外な方向へと展開していく。

なぜ、犯人はわざわざ犯行現場にメッセージを残しているのか?なぜ、犯行のヒントがチェスなのか?

この謎解きはなかなか秀逸なのだが、事件の背景が明らかになっていく後半のドラマ展開に折角の右京の推理が飲み込まれてしまい、風呂敷を広げ過ぎたドラマの収集が一生懸命になっちゃって、肝心の「相棒」2人が一瞬、ドラマの中心から離れてしまうのがちょっぴり惜しい。

あと、現実の事件をモチーフにしているせいか、ちょっと後味も悪い。社会性を出したいのは分かるが、ちょっと中途半端にもなってしまった。実在の政治家にそっくりな政治家が出てくるのも、妙なリアル感が漂うばかりで、かえってどうかな、とも思う。

とは言っても、良質なエンターテイメントになっているのは間違いない。「相棒」の脚本チームは「キサラギ」「ALWAYS〜三丁目の夕日」の古沢良太氏など、他にもスゴイ人がいるし、これまでのテレビシリーズを見ても、まだまだ面白い映画は作れるはず。

これを第1作として、もっと面白い劇場版を期待したいし、和泉監督ならできると思う。「踊る大捜査線」はパート3ができるらしいが、派手で宣伝上手なフジ+東宝に負けず、地味だが良質な物語を作っているテレ朝+東映に頑張ってほしい。
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あの空を覚えてる  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★★

幼い子どもを持つ父親としては、少々痛い映画ではあったが、共感できる部分も多かった。

父親、母親、小学生の息子と娘。その娘が、交通事故で亡くなってしまう。明るく、家族にとっては太陽のような存在だった娘が亡くなることで、父親は自分を責め、自分の世界に閉じこもる。

一緒に事故に遭い、臨死体験をした息子は、娘の残像を家のあちこちに感じながら、娘が言っていたジョークを言って務めて明るく振る舞おうとするが、娘のようになれる訳もなく、ある想いを抱き始める。そして妊娠している母親も、仕事をしながらも娘を思い出してしまう…。

映画はそんな家族の苦しみと再生をゆっくりと描く。富樫森監督の演出は丁寧で誠実で好感が持てるのだが、中盤にテンポ感がなく、写真館という割にログハウス風で洋風な主人公家族の生活の描写にややリアル感が欠け、子役の演技が多少鼻についたりする。

だが、後半、息子のある「想い」が明らかになるところで、僕の気持ちもグスグスしていたのが一気に爆発してしまった。

僕には4人の子どもがいるが、それぞれ個性的で、誰が可愛いとか可愛くないとかそんなことはなく、それぞれの存在が本当に愛おしい。そんな子どもへの想い、そして子どもの親への想いを、丁寧に描き込んだ、いい映画である。
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明日への遺言  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★★★

この映画の主人公で実在した岡田資中将を演じる藤田まことの演技は腹が座っていて、役者たちの気合の入った演技がいい。

改めて映画は脚本とキャスティング、そして役者たちの演技と演出だなあ、と思った。

名古屋への空襲で、パラシュートで脱出した米兵を処刑した罪で、岡田中将とその部下たちが戦争裁判にかけられる。

岡田中将は米兵を処刑した罪は部下にはなく、自分にあると罪を一身に認め、厳刑も覚悟したうえで、無差別爆撃だった空襲は国家間で取り決めた明らかな条約違反であり、その行為は犯罪であることを堂々と主張し、法廷に認めさせようと戦う。

ともすれば矛盾しているように思えてしまう岡田中将の主張を、きっちりと分かりやすく、栽判の進行に沿って見せてくれるので、岡田中将の信念や生き方が、観客の気持ちにもスウっと入り込んでくる。

ドイツ軍、日本軍、そして米軍が行った民間への空襲の経緯、第二次世界大戦の全体像などを冒頭部分にナレーションで説明し、そこから法廷場面へと続くので分かりやすい。ただし、ナレーションは感情の起伏がないのはいいのだが、ちょっと映画には合わない気がした。竹野内豊らしいが、他に誰かいなかったの?と思ってしまった。

実際の戦争シーンは、冒頭のドキュメンタリーフィルムのみ。あとはひたすら法廷シーンなのだが、小泉監督は、法廷でのやり取りや拘置所の内部の描写だけで、人間の心の奥に潜む憎しみや生命の尊厳をしっかりと描き出していく。

名古屋空襲での凄まじい様子は、弁護側の証人として出廷した蒼井優と田中好子演じる民間人の証言によって法廷で語られるが、これも映像がない分、証言だけで語られるのでかえって生々しく、胸に迫るし、この証言が割と映画の最初にあるからこそ、岡田中将の主張が胸に迫る。

映画はやがて岡田中将の主張から、岡田自身の生き方、家族との絆、彼の主張によって気持ちが少しずつ変化していく検事、判事の描写に重点が置かれていく。岡田と部下たちが風呂で歌う「ふるさと」が胸に迫る。

一人の人間の信念や行動が、どれだけ大事か。この映画はイデオロギーには関係なく、様々な状態で問われる人としての在り方、振る舞い方を問いかける。

最近、単純な「泣かせる」映画が多い。この作品は確かに感動するが、「泣ける」という単純なものではない。「本望である」という岡田中将の言葉を聞いたときに感じた感情は、何とも言えないものが胸にこみ上げた。これは、映画で感じてきた感情よりは、どちらかと言うと僕にとっては活字で感じてきた感動に近いものがある。

こんな想いが映画館でできる、これもまた映画の醍醐味であり、「映画」という表現媒体の可能性や奥の深さを改めて感じた。

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北辰斜にさすところ  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★★★★

旧制高校の青春を描いた、いい映画である。

旧制鹿児島高等学校(現鹿児島大学)、通称七高の学生たちの青春と、現代の姿が交互に描かれていき、次世代に伝えなければいけない大切なメッセージが描かれていく。

この映画には、作り手のいろいろな想いが詰まっているように思えた。

パンフレットなどによると、旧制高校に今の教育の問題点を解決できるヒントがあるのではないか、と考えた鹿児島大学出身の弁護士さんが、旧知の作家であり、俳優・劇作家でもある室積光氏に相談したのが映画製作のきっかけなのだという。

それで、室積さんが旧制鹿児島高校の卒業生30人から取材し、脚本を書き上げた。室積さんはこの脚本を元に小説も書き「記念試合」として小学館から上梓している。

冒頭、バンカラ学生の掛け声に続き、ストームで七高(旧制鹿児島高校)の寮歌「北辰斜にさすところ」を歌い、踊る学生たちが描かれる。

ここから当時の学生たちの青春と、現在の卒業生たちが五高と現熊本大学で宿命のライバル校だった旧制熊本高等学校・七高の野球の記念試合を開こうと奮闘する姿が重なっていく。

旧制高校の寮歌と言うと、一高(現東大)の「嗚呼玉杯に…」などが有名だが、旧制高校の寮歌にはいい歌が多い。僕は旧制大阪高等学校の寮歌「嗚呼黎明は近づけり」が好きだが、その中にこんな歌詞がある。

「君が愁いに我は泣き 我が喜びに君は舞う 若き我らが頬に湧く その紅の血の響き」
こんな友情は素敵だと思うし、現代の若者にはなかなかない。この世界観にはしびれるものがある。この映画で描かれるのは、そんな世界である。

先ほども書いたように、この映画に込められた想いは一つではない。戦前の旧制高校という教育の場で、若者の人格が形成されていったのか。そこには先輩と後輩という、師弟愛にも似た絆が築かれて行った。そこには、今の社会、教育現場にも廃れた大切な何かが確かに存在していた。

そして、多くの優れた人材の生命が戦争によって奪われたという事実。それから野球への想い…。映画では、こうした想いを後世に伝えようとする老人たちが登場するが、彼らも郷愁だけを感じているような単純な存在としては決して描かれない。

かつてエースだった主人公は、孫に高校時代を聞かせることには積極的だが、いざ記念試合への出席を同窓会事務局から誘われると、それを拒否する。

その拒否の理由を、映画では明確に説明しない。しかし、長い年月を通して湧いた様々な想いによるその理由が、丁寧な脚本と演出、三國連太郎の演技でしっかり伝わってくる。

テーマが複数あると映画が散漫になりがちだが、そこは「ハチ公物語」「草の乱」「郡上一揆」のベテラン、神山征二郎監督。上手にまとめ、きちっとクライマックスの記念試合につなげる手堅い演出を見せる。

映画は何でも説明するテレビドラマと違い、じっくりと映像やセリフ、音楽で観客に伝え、観客もまたその行間を読める芸術だと僕は思うし、その受け取り方は様々あっていいとも思う。

最近の日本映画はテレビドラマのような映画ばかりで嫌になってしまうが、日本映画が量産されるようになって、こういう良質な地方発の映画が単館系とは言え、多く作られていることはいいことだと思う。

僕たちの身の回りにいる、普通のおじいちゃんやおばあちゃんにも、様々なドラマがあり、彼らが今の社会を作り上げたことを感じ、感謝せずにいられない…そんな映画だった。

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クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ金矛の勇者  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★★

シリーズ初期作品を手がけた本郷みつる監督の復帰作。なるほど「ヘンダーランド」などの初期作品に見られた“ヘンな”世界観が復活していて、なかなか面白かった。

クレヨンしんちゃんの映画シリーズは、原恵一監督が良くも悪くもそのイメージを決定付けてしまった。

原監督は恐らく「大人も子どもも泣いて笑える映画」を目指し、自分の作家性も投入したのだろう。その結果、「オトナ帝国の逆襲」「アッパレ戦国大合戦」という傑作を発表したのだが、それ以後、監督が交代してからはどうしてもこの2作の影響から逃れられず、道を模索していた感があった。

具体的には、野原家の「家族の絆」という、「クレヨンしんちゃん」という作品世界全体の裏テーマでもあるこの部分を原監督の作品以降、どうしても強調されてしまい、その呪縛から逃れられなかった感があるのだ。

とくに最近の「3分ポッキリ大作戦」「踊れアミーゴ」「歌え!ケツだけ爆弾」はその辺りが顕著で、ホラー物に挑戦した「アミーゴ」は異色ではあったが、作品の出来としては少々苦しい部分が強かったように思う。

そういう意味では今回の「原点回帰」は正しいと思う。飛行機同士のバトルなどアニメ的にも見所が多く、家族がまとまって「マジンガー○」を思わせるロボットに合体する場面や、ここでのひろしのサラリーマン的ギャグなどは、原監督が描いてきた遺産を上手に処理しているし、このシリーズの魅力であるお父さんが喜ぶ懐古的ギャグもはまっている。

一通りの展開のあと、しんちゃんが1人で敵に立ち向かわなければなくなる展開も、一緒に見た僕の子どもたちはドキドキして見守っていたし、本来の「しんちゃん」のキャラクターの力も十分発揮していたように思う。

ただチト辛いいのは、敵役のキャラクターが弱すぎることと、前半の日常の部分が少々ダラダラしているせいか、なかなか作品にテンポ感が出ないこと。

そして、しんちゃんを助けるマタはいいキャラなのだが、せっかく敵に両親が殺された、などのエピソードが紹介されながら、ドラマを担う役割が弱く、しんちゃんとの結びつきの強さもあまり感じられなかった。

そのせいか、ちょっと物語に感情移入できにくい部分があったように思うのだが、近年の“クレしん”映画としては出色の出来なので、是非、来年も本郷監督に頑張っていただいて、また新たな“クレしん”映画の地平を切り開いてもらいたい。

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歓喜の歌  新作レビュー

見た日/4月某日 ★★★

事なかれ主義で、何でもいい加減な文化会館の主任さんが、名前がよく似たママさんコーラスの2つの団体をダブルブッキングしてしまい、その収集を図るというコメディ。

小林薫は、僕は日本の男優の中でもトップクラスの演技力を持っている人だと思っているが、この映画でもいい味を出している。脇の田中哲司、伊藤淳史、浅田美代子もいい。

コーラスグループのメンバーを演じる由紀さおりは、「家族ゲーム」以来スクリーンで見たが、相変わらずの存在感。もっと彼女を使う映画監督がいてもいい。安田成美も久しぶりだが、彼女は年齢を重ねてより美しさが際立ったと思う。

さて、原作は落語らしいが、ハリウッドのコメディにはない、日本人らしいクスリ、ニヤリとするコメディになっていて、テンポもよく、ひとつひとつのエピソードが楽しい。

ただ、騒ぎの収集の仕方や金魚を巡るエピソードはリアリティが全くなく、まあコメディだからいいか、と思わないでもないが、映画で現実の文化会館などでロケをしていると妙なリアル感が絵にみなぎるだけに、ちょっと物語の展開に違和感を覚える。

だが、その違和感こそがこの映画の魅力にもなっている。

「さよならクロ」や「東京タワー」の松岡錠司監督は絵のリアリティを大切にする監督と思うが、文化会館のホールやお寺の部屋、クリーニング屋の内部など、恐らくセットではなくロケだろうが、生き生きと映画の中で振る舞う登場人物たちの生活感がきちんと漂っている。

だからこそ、そんなリアルな感じとコミカルな展開が、不思議な空気感を生んで、この映画を魅力的なものにしている。

コーラスがこの映画のもうひとつの肝になっていて、俳優たちが本当に歌っていてなかなか感動させてはくれるが、「合唱」そのものよりは物語の妙の方に監督の意識は行っているので、先日の「うた魂♪」のような、コーラスに対するカタルシスはあまりない。

クライマックスの「歓喜の歌」も、女性コーラスとピアノ伴奏だけのはずが、いつの間にかオーケストラ伴奏と男声が入っていて、ずっと映画内のコーラスを感心して見ていただけに残念。

映画を盛り上げるための演出とすればアリなのだろうが、懸命に歌う現場での「歌」の力で物語を展開してほしかった、とは正直に思う。
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