山のあなた 徳市の恋  新作レビュー

見た日/5月某日 ★★★★

この企画が、よく通ったなあ、と思うが、70年前の清水宏監督による佳編を、同じセリフ、カット割りで完全カバーしたというから驚く。

その監督さんが「PARTY7」の石井克人監督というからまた驚きだが、こういう作品が、東宝のメジャー系で全国のシネコンにかかる、というのはいいことだと思う。

これも主役にジャニーズの俳優さんを持ってきたから、というのはあるだろう。古くから地味だったり芸術性が高かったりする企画にスターを主役にして話題性を上げよう、という試みはあったりするが、この作品はそういう形のいい例になっている。

徳市役の草なぎ剛は器用さと繊細さが同居した好演を見せており、今までの「黄泉がえり」「ホテルヴィーナス」「日本沈没」に比べてもベストアクトだと思う。

この作品の元になった「按摩と女」は未見だが、見ていてそのゆったりとした間に「ああ、昔の松竹映画みたいだなあ」と思っていたら、そう、元々は戦前の松竹映画なのだからそう思うのは当たり前だろう。

清水監督と言えば、同時期に同じ松竹で活躍した小津安二郎監督に比べると知名度は低いが、ロケを多用し、ユーモアとペーソスのあるメロドラマや子ども映画の傑作を多数撮っている。巨漢だったというのだが、そう言えば吉永小百合が田中絹代を演じた「映画女優」では、渡辺徹が清水監督を演じていた。

そもそもこの企画、「按摩と女」に感動した石井監督が「この作品をもっと知ってもらおう」と、白黒でフィルムの質も悪いことから、何とかカラー化やデジタル処理をして現代に蘇らせられないか、と考えたのが始まりらしい。

ゆったりとした時間と自然の中で、ユーモアあふれる物語が展開し、中盤からはサスペンスもある。もちろんギスギスしたサスペンスなどではなく、緩やかなものだが、それにより主人公の徳市の気持ちのバランスが崩れていく繊細な様は正に昔の日本映画の醍醐味で、心地よさの中にも緊張感を見る者に与えてくれる。

セリフやカット割りはオリジナルのままらしいが、なかなか凝ったセットの作り込みやCGによって再現した温泉街など現代の技術力もよく発揮されており「かつての名画を復元」するという試みは十分成功しているように思う。

あと、ヒロインを演じたマイコがいい。和風と洋風が混同した鼻が高い美人、という外見は昔の原節子を思わせ、昭和の映画スターの雰囲気が漂う。ちょっとヘタウマなセリフ回しもそれ風だ。

どんな映画でもオリジナルはオリジナルのまま、後世に語り継がれるべきだと思うし、最近のリメイク流行りにはあまり感心はしないのだが、埋もれた作品を新たな時代に蘇らせるこういうリメイクは「アリ」かもしれない。まあ、こういう作品ばかりでも困るのだけれど。
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