ハッピーフライト  新作レビュー

見た日/11月某日 ★★★★

矢口監督のこれまでの作品である「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」ほど大げさにならず、それでも娯楽映画としてはしっかり楽しめるように作られている。

お気楽な娯楽映画でありながら、それでいて、取材で得たウンチクや情報はしっかりと描き込み、かなりディティールを細かく描き、専門家が見ても唸るほどに作り込んでいる。こんな芸当は、なかなかできるものではない。これは大変な力量だし、矢口監督がこれまで作り込んできた世界の集大成とも言える作品になっていると思う。

航空機を使ったアクションという意味では、予期せぬアクシデントが起こり、それをパイロット、客室乗務員が必死に対応し、観客が反応する、というのは、これは航空パニック映画の王道。

その王道を、ハイジャツクなどではない理由で、それも航空会社全面協力という安全の範囲内で描いているのも凄いが、それだけに物語もよく工夫していて、飛行機を飛ばすためにどんな人がどんな仕事をしているのか、わかりやすく紹介してくれる。

多少おふざけが過ぎるところもあるものの、ウンチク物としても、娯楽映画としても面白い。それぞれのキャラクターがしっかりしていて、それぞれの人物の描き分けがいいので感情移入もしやすい。

どんな映画でも、きちんと人が描かれてないと、観客はつまんない、というのがよく分かる作品である。そういう意味では、岸部一徳、田畑智子、佐々部映画でもおなじみ田山涼成などは非常にいい味を出している。

ちなみに僕は最近、飛行機に乗る機会が増えていて、ANAはよく乗っているのだが、また今度飛行機に乗るときには、「こんな視点で見てみよう」と色々と思ってしまった。そういう意味では興味深い映画だった。

あと、綾瀬はるかは今年大活躍で、最も旬な女優の一人、ということがよく分かったが、「僕の彼女はサイボーグ」「ICHI」そしてこの「ハッピーフライト」と見てきて、作品ごとに彼女の別の魅力が発揮されていて驚いた。

この女優さんは、美しいだけでなく、等身大の魅力と、輝くようなオーラが混在する、不思議な魅力を持った人だと実感。演技力も確かだし、是非、このままの魅力を保持したまま、成長していってほしい、と思った。

そうそう、それから綾瀬はるか扮するCAの両親が使う方言はどう聞いても山口弁で、劇場でも大笑いが起きていたが、そんな裏設定があるのだろうか?知っている人がいれば、是非、教えてほしい。
0

運命じゃない人  DVD・ビデオレビュー

見た日/11月某日 ★★★

最新作「アフタースクール」が好調な、内田けんじ監督の前作。やっと、DVDで見ることができた。

時勢をバラバラにして、一人一人の登場人物をそれぞれ追いながら、物語の真相を明らかにしていく独特な手法は、もうこの長編第一作から完成されていて驚いた。

映画を見ながらインプットされた情報が、物語の展開とともに崩れていく心地よさ。この作品でも、物語は意外な方向へと転がり、観客の想像の上をいく。

出演者は正直、あまり有名ではないキャストを揃えているが、それが効果をあげている。ヤクザの組長役の山下規介氏を久々に見た。主役のサラリーマンは、「アフタースクール」で大泉洋が演じた先生の原型のキャラクターとも思える。

とっても面白かったが、「アフタースクール」があまりに素晴らしく、この前作はどうしても比べてしまい、多少アイデア先行型な気がしたのと、ラストの処理に不満があったので、星は3つ。

でも、内田監督は2作もこのパターンでの傑作を発表した以上、3作目はどんな作品をぶつけて来るのだろう。同じ着想では「またか」になるし、凡庸な作品では期待外れになってしまう。

でも、これだけ面白い作品を続けて発表した内田監督のこと、きっと我々の想像の上を遥かにしのぐ作品を作ってくれるだろうし、是非、それを期待したい。

0

ラスト、コーション  DVD・ビデオレビュー

見た日/10月某日 ★★★★

前作「ブロークバックマウンテン」が素晴らしかった、アン・リー監督。またまたやってくれました、という感じだ。結局劇場では見逃してしまい、DVDでの鑑賞となった。

ハリウッドでも成功しているアジアの監督が、久々に中国圏に帰っての製作、というと、ジョン・ウー監督の「レッドクリフ」を思い出すが、そんなに気負うでもなく、ただ淡々と、自分が作りたいテーマの良作を作り続けているアン・リー監督は好ましい。

戦時下、日本占領下の上海。特務機関のリーダーを、女性ならではの武器で狙う、美貌の抗日運動家を描く。

まず、戦時中の上海のセット、雰囲気がいい。ヒロインのタン・ウェイはオーディションで選ばれたらしいが、美しいだけでなく、目に力がある。命を狙われるイーを演じるトニー・レオンも相変わらずの存在感だ。

生死ギリギリの状況の中で、2人は激しく身体を求め合うのだが、このセックスシーンが物凄い。

時折、ネットなどでこの映画のレビューを見ていると、ヒロインは愛情をイーに感じてしまい、殺すことをためらう、なんてことが書いてあるが、決してヒロインがイーに持つ感情は、「愛」ではないと思う。いや、愛情もあるかもしれないが、そんな単純なものではない。

最初、イーとヒロインがベッドを共にするシーンは、レイプまがいである。しかし、当初はイーが支配していたベッド上の攻防は、やがてヒロインが主導していくものに変化していく。この映画での性愛シーンは、正直、戦いである。

処女だったヒロインは訓練で同志と身体を寄せ合うが、決してそこには生まれなかった欲情が、敵であるはずのイーとの性交で生まれ、ヒロインは敵である存在の男と性愛を繰り返すことで自我に目覚めていく。

お互いに相手を知り得ず、騙し合いながら身体と身体をぶつけ合っていく2人。こんなに複雑な物語を、性交のシーンを中心に表現できる、アン・リー監督の表現力の巧さに驚く。

かつて、優れた性愛映画はあったが、この作品は“性愛シーンそのもの”が雄弁に物語をリードしている、稀有な映画に仕上がっていると思う。

0

ホームレス中学生  新作レビュー

見た日/9月某日 ★★★★★

この作品に関しては、仕事として山口県内でのPRをお手伝いさせていただいた。古厩智之監督へのインタビューを地元コミュニティFMラジオで流させてもらったほか、県内の雑誌や新聞にインタビュー記事を配信させてもらった。

ということで映画自体は公開よりかなり早い時期に業務試写で見させて頂いたのだが、早くレビューをアップしようと思いつつ、結局、このブログは趣味で運営しているということもあって、仕事で関わっているという遠慮もあったのか、公開がほとんど終わる時期でのアップになってしまった。

個人的にも、この映画は気に入っている。古厩監督らしい、若者の「一歩」成長する姿が描かれている。「まぶだち」「ロボコン」「奈緒子」と、古厩監督が一貫して描いてきた、等身大の少年少女たちが、この映画でもきちんと躍動している。

いわゆる原作の「ホームレス中学生」とは全く違う世界がこの映画にはある。映画鑑賞後、原作も読んだが、原作はホームレスになってしまう「不幸」はエッセンスであって、主流ではない。確かに泣けて笑えるいいエピソードが並ぶが、正直、小ネタ満載のタレント本の域を出てない感じはした。

ところが、この映画版は、前半こそ原作のテイストを生かしているものの、中盤から後半にかけては全く原作を離れる。原作では描かれていない、主人公の少年の「心」の成長を、じっくりと描き込む。意外にも、「ホームレス」の描写は少なく、前半にしかない。

映画の後半、よくしてくれた民生委員のおばちゃんの死をきっかけに、彼は初めて幼い時に亡くした母親の死を現実に感じ、人生について、自分が直面した問題にして、思い悩む。

この映画の真骨頂は、その母親の「死」を少年が受け入れるかどうか、という部分。本当のホームレスとは、ただ単に家がないということではなく、家族が欠けていることというこの映画の指摘は、実に鋭い。

そう、誰でも肉親の「死」というのは、いつかは越えなくてはならないところであり、そこがあって初めて子どもは一人前となり、大人へと成長するのかもしれない。

古厩監督は、そこの部分は長回しと主人公の一人セリフを上手に活用しながら、的確に表現している。とくに兄と主人公が感情をぶつけ合う牛丼屋のシーンでのワンシーンワンカットの場面は秀逸で、そのあとの牛丼のアップも効果的で、実は「食べること」が生きる源である、というこの映画ももう1つのテーマ性を上手く表現している。

良心的な秀作だが、原作のイメージが先行しすぎていて、ネットのレビューなどで公開前から見てもないのに酷評する人がいたりして、そこは残念だった。是非、見てから感想は言ってほしい。どんなにイメージが固定されていても、実際に見ないとどんな作品かは分からないのだから。

0




AutoPage最新お知らせ