チェンジリング  新作レビュー

見た日/2月某日 ★★★★★

クリント・イーストウッド監督は、タカ派映画を作っていたのは今や昔、すっかりハリウッドの良心の塊のようになってしまったが、この映画でも語り口の上手さは流石。

誰かがこの映画のことを「上質な物語が書かれた小説を一枚一枚めくるような興奮を覚える」と評していたが、正にその通り。

実話を元にしているので、大部分の人は結果はあるていど分かるのだろうけれど、それでも観客をいい意味で裏切ってくれる、素晴らしいストーリーテリングが待っている。

ヒロインの息子が行方不明となり、数日後に無事息子は保護されるが、警察の手によって帰ってきた息子は別人だった。警察に訴えるものの、責任者の警部はヒロインを異常者と決めつけると、あっさりと精神病院に送りこむ。

ここまでの展開が早く、実に鮮やか。息子が入れ替わる(チェンジリング)サスペンスから始まり、問答無用のまま、権力によって拉致監禁されてしまうヒロインの姿は痛ましく、ピリリと痛い。そして、そこから別の事件がインサートされていく、この展開の見事さ。

2つのストーリーラインがやがて一つに収束するが、イーストウッド監督はここで手を緩めることなく、更なる驚きを観客に与えてくれる。決して明るい物語ではないが、ラストシーンは余韻もたっぷりで、一人の女性の成長物語としても非常によくできている。

ひとつひとつのカット、セリフに全く無駄がない。決して短い上映時間ではないが、息を飲んでスクリーンを見つめている瞬間が連続するため、実に短く感じた。アンジェリーナ・ジョリーはオスカーを逃したものの、感情豊かな演技で心を揺さぶる。

1920年代後半から30年代初めにかけてのロスアンジェルスの描写も素晴らしく、美術スタッフの努力が伺える。ジャズマニアとして知られるイーストウッド監督自ら手がけた音楽もよく、フリューゲル・ホルンが奏でるメインテーマは印象的なメロデイで物語を悲しく彩っている。

イーストウッド監督の近作だと「ミスティック・リバー」に雰囲気が近い感じだか、あの作品よりはこちらの方が優れていると思うし、個人的にはオスカーを獲得した「ミリオンダラー・ベイビー」より、こちらの方がはるかに好きだ。
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