今度は愛妻家  新作レビュー

★★★★

評判の「パレード」は未見だが、行定勲監督話題の新作2本のうちの一本がこれ。40代になった行定監督が「大人も楽しめる作品を」と作り上げたのがこの作品とか。

確かに、シネコンに行っても、大人やシニア世代が田の止める作品が少ない。僕はよくウイークデイの昼間に映画を観るのだが、結構、シニア世代の方々が多いのに驚く。

実は、ショッピングセンターが主流の日本のシネコンを支えていらっしゃるのは、こういう方たちなのだ。だからこそ、行定監督の心意気は、正しいと思う。

…で、この映画だが、会話主体で、役者さんたちの芝居をフィックスでじっくりと撮っていて、行定監督の原点回帰とも言える作品になっている。

これまでの作品にあったような、不必要に揺れる映像や、不安定な感じの演出は全く見られない。何より、主演の薬師丸ひろ子、豊川悦司がとっても魅力的だ。

赤の他人が一緒に長年暮らしていると、その夫婦には、その夫婦にしか分からないことが出てくる。それは溝であったり、絆であったり…。

その、揺れ動く微妙な空気感をこの2人は、巧く醸し出してくれる。

実はお話自体は、ちょっとトリッキーな仕掛けが用意してあるのだが、それが物語の情緒を邪魔せず、観客への見せ方やタイミングも絶妙で、2人の切なさを盛り上げてくれる。

オカマ役の石橋蓮司、カメラマンである主人公の弟子役の濱田岳、主人公に写真を依頼する女優志望役の水川あさみら、主要なキャストも素晴らしい。

この3人は、それぞれの苦悩を抱えているのだが、その気持ちが、主人公のカメラマン、あるいは妻2人の思いに絡んできて、その伏線が晴れていく様は鮮やかで、人が人に対して優しさを持つ大切さのようなものを、じんわりと感じることができる。

ちょっとしか出ないが、井川遥もいい味を出している。この女優さんは、「樹の海」辺りから、ものすごくいい雰囲気を出すようになったなあ、と思う。

後半、少し長いかな、とは思ったが、舞台の映画化とも聞いて納得。ラストの処理も心地よい。

僕も結婚してちょうど10年。夫婦に「今度」などないのだ、妻を大切にしよう、と素直に思わせてくれた、いい映画だった。

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「武士道シックスティーン」来月公開!!  映画つれづれ

「ロボコン」「さよならみどりちゃん」「奈緒子」「ホームレス中学生」の古厩智之監督の新作「武士道シックスティーン」がいよいよ、来月の4月24日から公開されます!

詳細はコチラで↓

http://bushido16-movie.com/

古厩監督の「ロボコン」は、僕が初めて出会った映画の「現場」であり、同世代の古厩監督との出会いは、正に衝撃でした。

「ロボコン」のとき、監督と少しお話して頂ける機会があったのですが、80年代、90年代の日本映画の話で盛り上がったとき、同じ映画を観て影響を受けた同世代の方が、監督として日本映画界の第一線で活躍していらっしゃる姿は、僕にとって、大きな驚きであり、強烈な刺激でした。

この体験がきっかけとなって、「チルソクの夏」で佐々部監督の作品と出会い、僕は映画への夢を再燃させて会社を辞め、独立することになっていくのですが、その源流は、間違いなく、古厩監督作品との「出会い」でした。

古厩監督の作品は、等身大の「青春」を描いていて、僕たちと変わらない若者が、いつもスクリーンに自然に佇んでいます。

古厩映画の若者たちは、何か特殊な事情があろうと、日常の中で悩み、苦しみながら、映画の中で何かに出会い、ほんの一歩ですが、前に進みます。

ロボットコンテストに臨む高専生たちも、恋愛に悩む女性も、駅伝に賭ける高校生たちも、ホームレスになってしまった中学生も、観客である僕たちの感情にその心を寄り添ってくれるので、僕たちも2時間ほどの間、共に悩んでいるうちに、いつか緩やかで、明るい心に気持ち良く導いてくれます。

この緩やかな流れが、古厩監督の真骨頂である、と僕は思います。

近作で言うと、「ホームレス中学生」は、ベストセラーになって原作とは少し趣を変えていました。

「ホームレス」とは決して特殊な境遇を示すのではなく、主人公が母親を亡くしてから、実は「ずっとホームレスだったのだ」という解釈のもと、兄姉や友達、近所の人との交流を通して、家族の絆を少しずつ取り戻していく姿が丁寧に描かれました。

観客はホームレスになったことはないでしょうが、肉親を亡くしたり、思春期に些細なことで自暴自棄になることは誰にでもあることです。この映画は、特殊な設定でありながら、誰もが通る心の軌跡を丁寧に描くことで、等身大の中学生を描いた、青春映画の傑作になった、と思います。

で、今回の「武士道シックスティーン」ですが、何と、今旬の成海璃子さんと北乃きいさんのW主演ということで、剣道をテーマにした同名青春小説の映画化。

公式HPには監督のインタビューも掲載されているので是非ご覧になって頂きたいのですが、「自分のことがわからなくなってゆれる瞬間」を描いた、とのこと。

思春期特有の感覚を、どう映像化してくれているのでしょうか。これは本当に楽しみです。今回も、悩みながらも、一歩成長していく少女たちの美しくも躍動的な姿を、スクリーンで観ることかできそうです。

僕は「ロボコン」だけが唯一、長澤まさみさんの魅力を最大限に引き出した映画だと今も思っていますが、今回も成海さん、北乃さんという魅力的な10代女優をどう古厩監督が演出したのか、今から楽しみです。

…でも、山口県で今のところ上映の予定がない!!!!近くでは広島のサロンシネマ、福岡のシネリーブル博多駅のみになりそう。

上映運動でも起こそうかしら…。
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獄に咲く花  新作レビュー

僕の個人事務所「和田山企画」が、山口県と福岡県のプロモーションを担当させて頂いた映画「獄に咲く花」が、いよいよ4月から東京を皮切りに、全国公開されます!

山口では、7館で先行上映され、おかげさまでヒットしました!キャンペーンや舞台挨拶など、いろいろと企画もさせていただきましたが、いずれも成功し、たくさんのマスコミの方々にも取り上げて頂きました。

公式HPも充実しています!是非、ご覧ください!↓

http://www.hitoya.com/

吉田松陰生誕180周年を記念した映画で、下関市に本社がある映画製作会社、グローカル・ピクチャーズが「長州ファイブ」に続く第二弾として製作しました。

松陰を本格的に描いた作品としては、おそらく映画史上初めてです。美しい映像と、厳しい世情にあっても、志を失わない大切さや、人が人を思う大切さを描いた、いい映画です。

東京の方、公開時には是非、劇場でご覧ください!!!
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いろいろと・・・  映画つれづれ

このブログ、プライベートやお仕事のことも色々書こうと思っていて、依頼を頂いて書かせてもらっているNHK公式HP内「ハートネット」のブログ・エッセイ以外は、ほかのプログを全部休止して、これにまとめました。

…なのに、映画のことしか書いてないので、今回は、ちょっと、色々と、身の回りのことを書いてみたいと思います。

その、NHK「ハートネット」の連載「計算できんで何が悪いとや!」も、早いもので、連載5年目に入りました!!↓

http://www.nhk.or.jp/heart-blog/people/oohashi/index.html

先日アップされた記事で、何と42本目。自分のハンディ(LD/学習障がい)のことやいじめのことを中心に書いてきましたが、自分のことを書くのは毎回大変で、よく続いてきたなあ、と思います。

「ハートネット」は、福祉に関するNHKの総合サイトで、番組の紹介だけでなく、さまざまな分野の方々のエッセイや、深い考察をしている記事など、読んでいると、勇気や希望がわいたり、色々と考えさせてくれるページがたくさんあります。

その中で、「自殺と向き合う〜生き心地のよい社会のために」というページがあって、僕も「優しさに支えられて」という記事を掲載させて頂いています。↓

http://www.nhk.or.jp/heart-net/mukiau/special9.html

それで、先ほど、ネットをいろいろといじくっていたら、あるプログで僕のこの文章が紹介されていました。

かなり前に書いたものだったのですが、改めて読んで、自分自身、いろいろな想いが湧いてきたのと同時に、こういう小さな文章でも、発信したことで、受け止めて頂いた方がいるのだ、ということに、心から感動し、嬉しくなりました。

日々、傷つくこともありますし、仕事にも追われ、なかなか大変ではありますが、ちょっと前の自分に励まされたような感じがしました。

…で、またまた話題を変えますが、3月1日、山口県内の県立高校で卒業式があり、僕の母校、山口県立徳佐高等学校は最後の卒業式を終えて廃校となり、山口高校徳佐分校へと完全移行しました。

校舎は残るのですが、やはりさびしい、です。

僕は山口高校の近くで育ち、進学校で自由な雰囲気があった「山高」に憧れながらも、成績が断トツでビリッケツの僕にとっては、山高など、とてもとても無理だったので、逆に山高に対する劣等感から、妙な対抗意識を持って、変なファイトを燃やしてました。

だから、母校が山高の分校になってしまった…というのは、ちょっと複雑です。

徳佐高校のころの仲間たち、とくに吹奏楽部の先輩、同輩、後輩たちとは今でも時々集まり、旧交を温めています。

昨年は、お世話になった先生が定年を迎えられたということで、その先生が勤められた歴代高校の吹奏楽部員OBが一堂に集まって、お祝いの会が開かれました。

僕たち徳佐高校OBもアトラクションで寸劇をしたのですが、その打ち合わせを重ねるたび、自分が高校生に戻るようで、楽しかったです。

もう母校はありませんが、いつまでも心の母校は残るのだなあ…と感じます。
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佐々部監督の新作が始動!!  映画つれづれ

佐々部監督の公式ホームページの「ほろ酔い日記」によると、間もなく、待望の新作が動き出すようです。↓

http://www.sasabe.net/hidiary/hidiary.cgi

作品名やキャストなど、近く発表されるのでしょうが、どんな作品なのか、本当にワクワクです。

「三本木農業高校、馬術部」から2年。

舞台「黒部の太陽」の演出や、テレビドラマ「告知せず」の監督などを務められてきた佐々部監督ですが、念願の劇場用映画がもうすぐ胎動すると聞いて、僕たちファンも感激でいっぱいです。

2003年の「チルソクの夏」から7年。7年で10本の劇場用映画とは、脅威のハイペースです。

テレビ局主導の中身が少ない作品が主流の日本映画界において、良質な日本映画を継承し「本物のドラマ」が描く佐々部作品こそ必要であり、それだけ映画界やファンも佐々部監督を求めている、ということだと思います。

ただし、ファンとしては2年は長かった−−という思いですが、それだけに楽しみです。新作については、情報がわかり次第、このプログでも紹介したいですし、できるならば、「シネKING」でも随時、情報を提供していきたい、と思っています。
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アカデミー&アカデミー&そして・・・  映画つれづれ

アカデミー賞が発表されました。

イラク戦争を描いた「ハート・ロッカー」が主要部門独占、とのこと。

キャサリン・ビグロー監督は、対抗馬と目された「アバター」のジェームズ・キャメロン監督の元奥さんということで、対決が話題になっていました。

従来5作品だった作品賞ノミネートが、昨年、興行的にも評価的にも高かった「ダークナイト」が入ってなかったという批判もあって、今年は10部門に増えたのだとか。

それで、娯楽性も高い「アバター」が獲るのでは、という予測もありましたが、結果的には芸術性の高い作品が選ばれたようです。

アメリカでは、ベトナム戦争のあと、兵士の内面を描いたり、批判的な作品が続き「ディアハンター」や、恐ろしくも素晴らしい「フルメタルジャケット」などの傑作が生まれましたが、最近、イラク戦争をめぐって、また内省的な映画が作られています。

こんなところに、ハリウッドの懐の深さも感じたりします。

…と言っても、「ハート・ロッカー」は未見なので、作品については言えませんが。「アバター」は3Dで観ました。キャメロン節健在で、嬉しくなりましたが、感想はまた書きます。

さて、日本アカデミー賞ですが、「沈まぬ太陽」が作品賞&主演男優賞。あとは主要6部門で「劔岳 点の記」が受賞したようです。

今年は仕事が忙しく、テレビ中継も見ていません。日本アカデミー賞に対しては、僕の感想やスタンスはこれまでも何度もこのプログで書いてきました。↓

http://white.ap.teacup.com/applet/otacky/msgsearch?0str=%82%A0&skey=%93%FA%96%7B%83A%83J%83f%83%7E%81%5B%8F%DC&inside=1&x=27&y=10

今年の結果を見ても「やっぱり」とは思いました。ニュースによると、鳩山首相が出てきて、作品を観てないのに「沈まぬ太陽」にコメントした、ということですが、これは一体何なのでしょうか。

どんなに忙しくても、その場に出てくるなら映画は観てほしいなあ、と思います。

素直に、作品賞は「劔岳」に獲ってほしかったなあ、と思いました。

・・・・で、今年度は総括もしてなかったので、ここで独断と偏見で選ぶ、「2009年度マニィ・ムービー・アワード」の発表です!!

●作品賞/「劔岳 点の記」(木村大作監督)
●監督賞/片淵素直(マイマイ新子と千年の魔法)
●脚本賞/君塚良一(誰も守ってくれない)
●音楽賞/藤原いくろう(ヤッターマン)
●アニメ賞/サマーウォーズ(細田守監督)
●主演男優賞/松田優作(SOUL RED)浅野忠信(劔岳 点の記)
●主演女優賞/綾瀬はるか(おっぱいバレー)
●助演男優賞/三浦友和(沈まぬ太陽)
●助演女優賞/深田恭子(ヤッターマン)
●外国映画賞/母なる証明

・・・・以上です!!

作品賞は、今年度はこれでしょう。

木村監督には仕事で取材もさせて頂きました。その情熱と映画への想いが、きちんとスクリーンで結実していました。

監督賞は悩みましたが、アニメ映画の秀作で、僕も少しですが関わらさせて頂いた「マイマイ新子」の片淵監督。技術的にも素晴らしく、練りこんだ脚本、無駄のない演出、これざ日本のアニメ映画の質の高さを感じさせます。

片淵監督からは直接、この映画への想いを伺いましたが、この作品には監督の映画への想いがいっぱい詰まっていて、いつまでも心に残る、深い深い作品になっています。

そうするとアニメ賞も「マイマイ」なのでしょうが、アニメならではの世界観という意味と、ワクワクする物語という、エンタテイメントとしてかなりの良質ということで、「サマーウォーズ」に。この作品も「マイマイ」も、マッドハウスの製作。ここの会社、質の高いアニメを作っています。

音楽賞の藤原いくろうさんは、佐々部監督作品「カーテンコール」の音楽を担当された方。従来の「ヤッターマン」の音楽の世界観を壊すことなく、既存のメロデイーを上手に現代風にアレンジしながらも、藤原さんらしいメロディアスな音楽もきちんとあって、そのプロフェッショナルなお仕事に感動しました。

松田優作さんは、ドキュメンタリーでも、スクリーンに登場すると、やっぱり映えます。自然体な存在感が素晴らしかった浅野さんとダブル受賞。

フカキョンは僕の趣味。綾瀬さんは、等身大の20代女性の悩みや戸惑いが伝わってきて、素晴らしい。三浦さんは、その存在感に文句なし。
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宇宙戦艦ヤマト 復活篇  新作レビュー

★★

僕は、いわゆる「ヤマト」世代なので、youtubeなどでヤマト発進のシーンなんかを見ているだけで、涙腺がゆるんでしまう。

そんな僕だが、どうもこの「復活篇」は、享受できなかった。ごめんなさい、である。

絵柄が違う、云々は関係ない。キャラクターデザインが変わろうとも、古代進は古代進であり、真田さんは真田さんである。

むしろ、リ・イマジネーションが流行している現代にあって、「新しいヤマトを作ろう」という意気込みは、ファンの人々からも歓迎されるべき、だと思う。

だが…今回の復活篇は…正直、お話のつじつまにかなりの無理があり、一貫性がない。娘を救出に向かった古代進の行動は????だし、後半はストーリーが完全に破綻する。

ヤマトを支持してくれた星が、敵役の異星人連合の攻撃にさらされながらも、ヤマトは政治的な判断からその攻撃に立ち向かえず、古代艦長が悩む、というシーンが出てきて、「えらい政治的なお話やなあ」と思っていたら、何と、原案は石原慎太郎東京都知事!…凄い。

まあ、この辺りは面白かったのだが、リアルで一貫するならまだしも、ご都合でコロコロ設定や物語が変わるので、スクリーンの前でしばし呆然としてしまう。

あと、スケジュールも大変だったのだろうが、作画に一貫性がなく、場面によってキャラクターの顔が違ったり、動画のクオリティがとんでもなく低いシーンがある。ただし、ヤマト発進や戦闘シーンなどはとんでもなくクオリティが高く、ここは興奮する。メカニック描写も新時代のヤマト、という感じでなかなか。

石原都知事の名前がスクリーンいっぱいに大写しになって、さらにでかい字体で原作者でもある監督の名前が出てきたときには、思わずのけぞったが、いい意味でも悪い意味でも、この原作者の方のプライベート・フィルムになってしまったのだろう。

恐らく、これは推察だが、僕が熱狂した最初の「ヤマト」は、この原作者が描いた暴走がちな想いや物語を、松本零士さんや豊田有恒さんら才能豊かなスタッフたちがバランスよく調整し、それぞれの個性を発揮したからこそ、あの傑作に成りえたのだろう。

いろいろ書いたが、久しぶりにスクリーンで「ヤマト」を見られたこと、は素直に嬉しかったし、原作者・監督に感謝したい気持ちである。紆余曲折がありながら、ヤマト復活にこぎつけ、東宝配給という、バリバリのメジャー劇場用作品にまで持って行ったのだから、それは凄まじい執念であり、素直に凄い!!と思う。

12月には、いよいよ実写版も登場する。テレビで今年の元旦に流れた予告編を見る限りには、かなりの期待が持てそうだ。監督は、僕と同い年の山崎貴監督。ヤマト世代であり、スター・ウォーズで映画への道を志した山崎監督だけに、その手腕に期待したい。
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母なる証明  新作レビュー

★★★★★

昨年、どうしてもこの映画が観たかったのだが、年末に、僕の地元の「テアトル徳山」さんが上映してくれた。ヨ!毎日興業!偉い!!

いやあ…ポン・ジュノ監督、凄いよ、あなたは…。本当に30代なの?

日本映画の野村芳太郎監督作品などに影響を受けた、というポン・ジュノ監督だが、確かに映画全体の流れにメリハリがあって、じっくりと役者の演技をとらえていく、という点ではかつての日本映画が持っていた緊張感や濃密なドラマ性が伺える。

全編にわたる緊張感が心地よいとさえ感じられた傑作「殺人の追憶」や、怪獣映画というジャンルを借りて、家族の絆やアメリカと韓国の関係にも言及した「グエムル」など、これまでも唸らせてくれた同監督だが、今回の作品も、極上のエンタテイメントでありながら、様々な問題提起をしてくれる。

その行動がややエキセントリックに見える母親だが、やみくもに息子のために突っ走るその姿は、痛くて、切なくて、怖い。

僕は、「痛さ」を感じられる映画は傑作、と思っているが、この映画は痛さのオンパレード。登場人物たちが感じる身体の痛み、そして心の痛みが、ストレートに、時には間接的に、スクリーンからビンビン伝わってくる。

そして、物語の巧さ。ひとつひとつのサスペンスがヒリリと効きながら、伏線が張り巡らされ、やがてそれがひとつひとつ明らかになっていく。ミステリー映画としても一級品である。

母親役の女優さん、息子役のウォンビンをはじめ、出てくる俳優さんがみんなリアル。韓国の現実的な問題や社会性もきちんと織り込んである。

「殺人の追憶」ほどの奥行きは感じなかったが、「グエムル」を経て、これはまたポン・ジュノ監督はまたとんでもない境地に行き着いたものである。

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2012  新作レビュー

★★★

ローランド・エメリッヒ監督、特撮は凄いが、相変わらず人物描写は甘い。

なんでこの監督さん、人を描くときは、リアルにせず、オーバーな設定であり得ない演出をするのだろうか。

まあ、この映画は過去作品に比べればまともだが、運転手で作家(!)という、凄い設定の主人公が仕えるのはロシア系マフィア。おまけに太った双子の男の子の父親で、思った通りのギャグチックなセリフや動きをしてくれる。

どんな危機にも絶対に死なない主人公のスーパーマンぶりはよいとして、感情移入しやすい登場人物を、物語のクライマックスであっさりと●●しちゃったり…。相変わらず、てんこ盛りどんぶりのエメリッヒ節は健在である。

しかし、今回はいつも尻つぼみになるエメリッヒ印のパニック映画とちょっと違う。

「インディペンデンスデイ」では、地球上の各地に巨大なUFOが出現する、というわくわくする出だしを見せながら、最後は何と、マックのウィルスでUFOを破壊する、という驚愕の展開に加え、ウィル・スミスがグーパンチで宇宙人を倒すという神をも恐れぬ衝撃のシーンにはポップコーンをほおばりながら悶絶したものだが、今回は最後まで手に汗握るのだ!!

人物描写が甘いゆえに、胃が痛くなるようなことは絶対にないものの、よくできた特撮と、絶体絶命の危機をすり抜けていくシーンの出来栄えがよいので、この手の大作パニック映画では、近年でもなかなかのレベルに仕上がっている。

でも、ラスト近く、人類を救う箱舟が、メイド・イン・●●というオチに、「やっぱりエメリッヒ印!」と僕は拍手喝采を送るのだった。頼むからエメリッヒ監督、真面目な映画なんか見向きもせず、これからも「お馬鹿大味SF大作映画道」を極めてほしい。

ちなみに、世界中のファンから不評なエメリッヒ監督のハリウッド版「ゴジラ」だが、僕はこの映画、生物としての「怪獣」を描いた作品としては、ベストに近い、と高く評価している。ただし、人物描写は相変わらずのアマアマだが…。

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風が強く吹いている  新作レビュー

★★★★

人気脚本家・大森寿美男さんの初監督作品。箱根駅伝に挑む、弱小大学陸上部のお話だ。

主演の小出恵介・林遣都コンビがいい。

小出氏は「キサラギ」などでクセのある役を演じるといいなあ、と思っていたが、正直「ROOKIES」の人のいいキャプテン役でイメージが逆戻りした感があり、「僕の彼女はサイボーグ」などいい人役が続いて、役どころが狭くなるのでは、と心配していた。

この映画でも「いい人」ではあるのだが、挫折を経験したからこそ、箱根駅伝に賭ける秘めた情熱を持ち、あるときはしたたかに、あるときは情熱的に部員たちを乗せていくキャプン役を、重層的に、幅のある演技力で演じている。

かの野球映画では、どの俳優陣からも表面的で薄っぺらな感じしか受けなかったが、脚本や演出が練られていると、青春物で同じ俳優さんでもこうもスクリーンから受ける印象は違うのか、と思ってしまった。

まあ、かの映画は薄っぺらな脚本と演出を、力のある若手俳優さんたちが頑張ったから、観られる程度になっていた、ともいえるかもしれない。

それに、鍛え抜いた林氏の肉体と、彼の疾走する姿は凄い。きちんと陸上選手に見える。

野球映画の「バッテリー」から始まって、高飛び込みの「ダイブ!!」、ボクシングの「ラブファイト」と、ハードルの高いスポーツ系青春映画を次々とクリアしてきた林氏だが、真摯に役に取り組む姿勢が伝わってきて、気持ちがいい。

箱根駅伝に出場するには、どうすればいいのか、なんてウンチクもあって、駅伝シーンは日本テレビの協力も得られたのか、かなりのリアル。絶対不可能的な弱小陸上部が、どうして箱根駅伝に出られるの?という疑問も、綿密な脚本による映画的リアリティによって、心地よいウソをつかれた感じで無理なく解消される。

キャラクターの描き分けも鮮やかなので、それぞれの選手たちに感情移入もしやすい。ただ、ウルトラマンメビウスこと五十嵐隼士君演じるライバルの選手がやや典型的なキャラクターなのが、ちょっぴり残念だったかな。

選手たちのエキストラの中に「この人、本当に駅伝選手なの?」という人がいたのも多少気になったが、エキストラの方々は恐らく本当の選手なのだろうから、これも「リアル」なのかもしれない。

2

オーシャンズ  新作レビュー

★★★

評判の、宮沢りえさんがナレーションを担当した日本語版は観ていない。僕が観させて頂いたのは、業務試写での原語版、フランス語版だ

ドキュメンタリーは、ナレーションや音楽が違うと、まるで観た印象は変わる。

原語版は、ほとんどナレーションが無く、海の動物たちの様子が、スクリーンいっぱいに映し出され、その驚異の生態や、そこに製作者が込めたメッセージを読み解く作りになっている。

聞くところによると、日本語版はその辺りはきちんとナレーションで説明されていて、分かりやすいらしい。エンドロールの音楽も、原語版は重厚なメロディーが鳴り響くが、日本語版は平原綾香の主題がかかる、らしい。

荒れ狂う海の俯瞰から始まり、1人の少年の疑問から映画は始まる。獲物の小魚を追って海にダイビングする鳥たちの群れや、巨大なクジラの姿は圧巻。これぞ、大きなスクリーンで観てこその価値がある。

カメラがぶれることもなく、その生物たちの生態をきちんととらえていることは凄い、の一言に尽きる。テレビのドキュメンタリーとは違い、劇場用映画にする意味は大きい。

環境問題に直結した説教臭さは多少あるが、変な流れや意図を感じることもなく、映し出される生き物や自然に対する畏敬の念を作り手が感じることが伝わってくる、真摯なドキュメンタリー映画である。

是非、宮沢りえさんのナレーション版も観てみたい。ところで、先日、東京スポーツ映画大賞授賞式というのにご招待されたのだが、そこで生で宮沢りえさんを見た!!何と、オーラがあって美しく、細いこと!!その美しさを、またスクリーンで観てみたい、と思った。この授賞式のことは、また記事で詳しく書きます。

3

プライド  新作レビュー

★★★★

これぞ少女マンガの映画化!!と呼ぶにふさわしい怪作。

若い女優さんを魅力的に描くことは金子修介監督の真骨頂だが、満島ひかり、ステファニーという主役の2人が輝いている。

満島ひかりさんに至っては、金の鉱脈を掘り当てたような感じ。いわゆるオーバーなんだけれども、ケレン味の中にもさわやかさがあるのがよくて、この独特な存在感は凄い。

恐らく凄いことになるだろうな、と思っていたら、案の定、今作のほかにも「愛のむきだし」や「クヒオ大佐」などが評判になって、2009年度の新人賞を総ナメしていた。

男性の若手俳優さんでは、僕は濱田岳さんに大注目しているが、女優さんではこの満島ひかりさんだろう。金子監督が手掛けた「ウルトラマンマックス」ではアンドロイド役を好演していたが、恐らく金子監督はこのころから注目していたのだろう。

それぞれお金持ちと貧乏に生まれ育った少女2人が、「歌」で対決する。それぞれが「プライド」を掛けて、恋あり裏切りありの戦いの果てに待つものは…。正に往年の少女マンガの王道。原作は一条ゆかり先生だ。

ステファニーのヘタウマ的な棒読みセリフ回しも、お嬢様はこうなのよね的な納得をしてしまうが、彼女のゴージャス的な存在感もいい。本当のお嬢様かと思いきや、本来は歌手・アーティストと聞いてビックリ。

歌にも造詣が深い金子監督だけに、劇中の楽曲もいい仕上がり。ケレンミたっぷりの作品だが、俳優たちの演技も、お話のちとオーバーな展開も、バランスを壊すギリギリの線で調整、演出されていて、すこぶる面白く感じるように作っている点は、流石である。
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