インセプション  新作レビュー

★★★★

ずーっと観たかったけれど、最終日にようやく鑑賞できた。久々に重厚で面白いハリウッドの大作SF映画に出会ったなあ、というのが素直な感想だ。

僕は、クリストファー・ノーラン監督の前作「ダークナイト」にすっかり心を奪われてしまったが、今回もその豊かなイマジネーションと、よく練られた物語、そして見応えのあるビジュアルに圧倒されてしまった。

人の夢や深層心理に入り込み、そのアイデアを盗むことを仕事にしている主人公が、大企業の社長に依頼され、ライバル企業の後継者の夢に入り込み、ある意思を埋め込む(インセプション)ことに挑戦する。

夢が何層にも分かていて、その断層にはいり込む主人公自身の夢や深層心理が投影される、というアイデアが面白い。

つまりは敵の深層心理の秘密を探るためにその夢に入り込んでも、主人公は自身のトラウマや苦しみの原因となっている深層心理と闘わなければならない。

そこが、この映画を非凡なものにしている。主人公はある事件から妻を亡くしているが、妻が亡くなった原因が物語全体を支配していて、その原因がはっきりしてくるのと同時に、物語は何重もの仕掛けを解き、やがてその全貌が明らかになってくる。

これだけ複雑な物語を、すっきりとした物語と脚本に整理しながら、家族愛や夫婦愛という普遍的なテーマも盛り込み、余韻のあるラストに繋げる手腕は見事。夢だからこそ、何でもありのビジュアルを、きちんとした「絵」で見せる技術も凄い。

ラストはネットなどでもずいぶん解釈が分かれて論議になっているようだが、それこそ、クリストファー・ノーラン監督の狙いだろう。この現実は本当に現実なのか?こうした問いかけをし、成功したSF映画は「ブレード・ランナー」以来かもしれない。



2

ケンタとジュンとカヨちゃんの国  新作レビュー

★★★★

若者たちを描いたロードムービーだけど、そこに「成長」など微塵もないのがいい。ただひたすらに、破滅に向かう若者たちを描く。

最近の日本映画にはない暗さと破壊に満ちあふれているが、それでいてさわやかな印象を受けるのは、映画に流れる疾走感と、俳優陣たちの頑張りによるところが大きい。

ケンタとジュンとカヨちゃんを演じる松田翔太、高良健吾、安藤サクラがいい。

ブスでワキガで、どこか可愛くて憎めないカヨちゃんを、安藤サクラは正に怪演。彼女の存在が、この映画を力強くも、より繊細にしている。

高良健吾は、「ボックス!」でいいなあ、と思っていたけれど、ここでもシャイだけど心がシャープな青年を好演している。ぶっきらぼうで攻撃的な松田翔太の演技を、きちっと受け止めている感じがあって、2人のやり取りはハラハラしながらも心地よいものさえ感じる。

3人のアンバランスなバランスの良さが独特な雰囲気を醸している。特筆すべきなのは松田翔太で、これまで二枚目的な役柄が多く、正直、「松田優作」的なものを感じなかったのが、後半、この映画で暴走する翔太氏は、「野獣死すべし」の優作氏の“狂気”を彷彿とさせ、何かゾクゾクするものを感じさせた。

若者たちを破滅に向かわせる根源的な原因として、国や社会を感じさせながらも、そこを声高には叫ばないのがいい。ただ前にある壁を壊すことしか考えず、闇に向かって疾走する若者たち。

この映画を観た感覚は、かつて「イージーライダー」「タクシードライバー」などの洋画、そして「青春の殺人者」や「太陽を盗んだ男」などの日本映画で感じた味わいに近いのだけれど、どこか現代的で、今だからこそ味わえる感覚でもある。
3

キャタピラー  新作レビュー

★★★★★

田舎の夫婦を描きながら、「意味のある戦争など何もない」と若松孝二監督は主張する。

僕が感じたのは、国家、というか、絶対的な存在や権力がもたらす価値観の怖さ。人間が本来持つ感性や自由を奪うことの愚かさ。

これは、「いじめ」にも繋がる。人が人を虐げ、その生命を何とも思わない蛮行。これが小さなものが「いじめ」であり、国家間にまで広がれば「戦争」になるのではないか。

人が人を虐げるのに、人が人を殺すのに、大義もクソもない。人は集団になったら、恐ろしいほどの冷たさと残虐さを発揮する。そこに大人も子どももない。僕は、多少はそのことを、身にしみて知っている。

喜々として刃物を振る舞われた記憶と、心の傷は、そう簡単に癒えるものではない。この映画を観ながら、不思議に自分自身の「いじめ」の記憶と体験が呼びさまされた。

この映画は、単純な反戦映画ではない。戦争によって手足をもがれ、帰還した夫。彼はやがて、自らの行為によって苦しみ、もがいていく。

それに対して、苦しみながら、もがきながらも、何かを克服していく妻の姿が描かれていくのだ。女性が持つ母性のようなものには、どんな障害でさえ乗り越えていく強さがある。そこに、国家がもたらす価値観など、微塵もない。

物語が終わったあと、元ちとせが歌う主題歌「死んだ女の子」の歌詞とメロディー、バックの絵がもたらす衝撃は、映画本編で感じた様々な想いを、さらに増幅させる。

2

トイ・ストーリー3(3D・吹き替え版)  新作レビュー

★★★★

物語の質の良さ、という点では、映画製作会社としての「ピクサー社」が創り出す作品は、10割打者と言ってもいい。

今回は、人気シリーズ久々の続編にして完結編。何より「トイ・ストーリー」は、ピクサー社が手がけた世界初のフルCGアニメである。ピクサー社のスタッフにとっては、最も大切な作品であり、シリーズだろう。

だからこそ、なみなみならない気持ちでこのシリーズ最終作に臨んだことは、映画を観れば分かる。冒頭のアクションから始まって、後半のウェルメイドな展開に至るまで、濃密で練りに練られたエピソードが続く。

おなじみのキャラクターたちも健在で、ラストの展開に至っては、このシリーズをずーっと愛してきた人にとってはたまらないだろうと思う。

この映画に感じるのは、“優しさ”だ。全編にわたって、作り手がキャラクターに対して愛情を込めていることがしっかりと伝わってくる。

感情がないはずのおもちゃが、実は感情があって、悩んだり笑ったりしている。そんな真実を知らない人間が、成長しておもちゃを卒業する年代になったとき、かつて遊んだおもちゃを、ただの「物」として感じるのか、愛情の対象として見るのか。

この、人がどう気持ちを持って接するかどうかで、実はおもちゃたちの人間性(?)が形成されていく、という点が今回のポイント。主人公たちの持ち主アンディは大学生になっても、ウッディやバズたちに愛情を持ち続けている。

だからこそ、ウッディやバズたちは、どんな状況になっても希望を忘れない。だが、今回の映画では、この一方で、人間によって捨てられ、ぞんざいな扱いを受けたことで心が壊れてしまったおもちゃも登場するが、この敵役がいるからこそ、物語に深みを与え、心地よいラストへと繋がる。

アメリカも日本も不景気で、僕たちが思っている以上に色々な価値観が崩壊している今、もっと周囲の生命あるものも、そうでないものにも、豊かな感情と愛情を持つ大切さを向けることの大切さを、さりげなく訴えているように思える。

僕は3D版を観たが、物語重視だからこそ、正直、3Dである意味はあまり感じず、2D版でも充分な気がした。冒頭の短編は3Dだからこそ、の面白いものだったが、本編は無理に3Dにする必要はなかったのでは?
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