十三人の刺客  新作レビュー

★★★★

工藤栄一監督の名作「十三人の刺客」を、三池崇史監督がリメイクすると聞いて、恐らく原作とは全く違うものになるのだろうな、と思っていたら、意外にも意外、確かにアクションは立派な三池印だけど、物語や全体を貫く芯のようなものはきちんと原作を踏襲していて、堂々とした作品に仕上がっていて驚いた。

最近、リメイクが多い。古今東西の名作をリメイクする意味、これは難しい。

例えばアメリカの場合、アメリカ人は基本的に自国がナンバーワンなので、英語以外の言語でアメリカが舞台じゃない映画をあまり好まない。だから、最近のハリウッドが英語圏以外の国の映画を盛んにリメイクする…この意義は分からないでもない。でも、オリジナルを超える作品は少ないのが現状だと思う。

そして、自国の名作、例えばモノクロームで作られたかつての傑作を、現代の技術や俳優さんを使ってリメイクする、という例も最近は多い。

これは、正直、意味があるかどうか、意見が分かれるところだろう。今は、かつての傑作や名作も、DVDなどで気軽に観ることができる。その映画が作られた時代的な背景や当時の作り手の想いもある。だから、先人たちが作り上げた結晶を、わざわざ今の時代に作る必要なんかない、というのが基本的な僕の考え方だ。

でも、もちろん例外はある。かつての傑作や名作を元に、リメイクという形ながら、新たな創作意欲にかられた現代の映画作家たちが「原作の魅力を生かしながら、新たな魅力に満ちた作品を創りたい」という気持ちは分かるし、そこから生まれる新たなる傑作・名作、というのは「アリ」だと思う。

そこのさじ加減は難しいが、ハリウッドではここ数年、そうした傾向の秀作が生まれている。当然、そこには旧作に対する尊敬、リスペクトの念が存在することが、こちらも楽しむ第一条件になることは、間違いない。

で、この作品だが、原作の良さを上手く生かしながら、三池監督の魅力も損なわないアクション娯楽時代劇に仕上がっている。

原作映画は、もちろん工藤監督お得意の集団抗争劇とも言うべきクライマックスのアクションが見物で凄いのだが、そこに至るまでの物語が実に秀逸で、武士の矜持というか、敵味方に分かれても、お互いの立場を尊重しながら戦う男たちの心意気であったり、息子と嫁が暴君に殺された武士が、意地に賭けてあえて切腹はせずに権力に立ち向かう姿などが胸を打った。

今回の三池監督版がいいのは、その原作版のポイントをきちんと押さえている点にある。ここは脚本の勝利だろう。いつも三池作品は物語が途中で破綻してしまい、そこがまた魅力だったりするのだが、今回は途中で物語も破綻せず、きちんと物語を構成していて最後までぐいぐいと見せてくれた。

原作映画をリスペクトし、原作通りにお話しを運ばせながら、三池監督らしいユーモアとバイオレンス色の強いオリジナルエピソードを交えながら、最後は三池監督得意の現代的?なアクション、爆破、殺陣シーンのオンパレードである。

あと、伊勢谷友介の存在などは「七人の侍」の菊千代を思わせ、前半の展開は「十三人の刺客」よりも「七人の侍」を意識しているのかな、とも思った。正直、十三人の描き分けはあまり上手とは言えないものの、そこは迫力でぐいぐい押していて、これは三池監督も確信犯だろうと思う。

役所広司氏は安定しているが、敵役の市村正親氏の存在感がいい。松本幸四郎氏はさすがに本物感がある。そして、意外だったのが、残虐な暴君を演じるSMAPの稲垣吾郎氏。一点の良心のかけらもない冷たい人間を好演していて印象に残った。

「十三人の刺客」公式サイト↓
http://13assassins.jp/main.html
3

THE LASTMESSAGE 海猿  新作レビュー

★★★

いつもの論理と矛盾しているようであるが、僕は「海猿」のような日本映画も、絶対必要だ、と思っている。

デートムービーとして楽しめる、娯楽性やスペクタル性の強い映画は、角川映画全盛時代以降、しばらく日本映画界には登場していなかった。

そういう意味では、この「海猿」シリーズは、かつてハリウッド映画が得意としていた「ヒューマンドラマ」と「パニック・スペクタル」に挑戦し、成功した貴重な日本映画だと思う。

作り手も恐らく確信犯ではあると思うが、ベタな展開に、照れずに真っ向から勝負した点がよかった。こういう作品は、作り手も出演者も、照れたり、引くと終わりである。そこを堂々と展開したからこそ、成功したと言っていいだろう。

僕が前作を高く評価したのも、ここにある。※2006年5/14付でレビュー

フェリーの事故発生から取り残された乗客の人間模様、絶対危機を乗り越えるサスペンス、主人公の葛藤、その恋愛、クライマックスのスペクタル、それらを盛り上げる音楽…と、かつてのパニック映画が持っていた要素をてんこ盛りにぶち込み、ツッコミ所は満載ではあったものの、面白くできていた。

で、この第3作目だが、前作以上にスペクタル性に重点を置いていて、巨大油田基地で事故が発生し、そこに取り残された人々の人間模様を最小限に食い止めた代わりに、主人公の葛藤や急にバディを組むことになった新人潜水士の成長を描いている。

面白いし、ハラハラドキドキするが、前作とほぼ同じ展開にしたのはなぜなのだろう。「前作を乗り越えよう」という作り手の意思の表れだろう。前作以上の面白さはあったと思うが、僕的にはもう少し新鮮味のある展開や設定でもよかったのでは、とちょっぴり思う。

伊藤英明氏は、こういう役を演じさせたら、日本映画界ではナンバーワンになったように思う。「ジャンゴ」ではガンマンだった彼だが、もっと幅広いジャンルでのヒーローも観てみたい。

僕が観たのは3D版だが、迫力はあったし、現時点ではこれが限界なのかもしれないが、もう少し3Dの精度を上げないと、これからが続かない、と思ったのは正直なところだ。

それから、あまりに「最後、最後」と宣伝するのはどうだろう。いい映画なのだから、ことさらそこを強調しなくてもいいと思うのだけれど。

「THE LASTMESSAGE 海猿」オフィシャルサイト↓
http://www.umizaru.jp/
1

君が踊る、夏  新作レビュー

★★★★

「悪人」レビューでちょっぴり書いたけれど、東映も最近は“質”にこだわった作品づくりをしているように見受けられる。

とくに今年は、僕にとってものすごくよかった「孤高のメス」も「今度は愛妻家」も、東映の配給作品であり、頑張ってるなあ、という印象だ。

この数年、東宝を追従するような若者向けの作品づくりをひとまず置いて、大人が鑑賞できる作品づくりに絞っているのは好ましい。

そんな中で登場したのが、この映画。キャスティングは若者向けだが、そんな最近の東映東京撮影所作品らしく、いわゆるチャラチャラしてないのがいい。高知県を舞台にした“よさこい踊り”に賭ける若者たちを描いていて、地味ながら“誠実”な作品になっている。

“よさこい鳴子踊り”は、高知で戦後発展し、今や全国に広がっている。僕が住んでいる山口県も盛んで、山口県よさこい連絡協議会という組織もある。

高知のものとはちょっと違って行進はしないが、鳴子を使うこと、郷土の音楽をモチーフにした音楽を使うこと、元気に自由に、笑顔で踊る、という点では共通していて、僕の友人にも踊り子たちがいて、夢中になっている。

感心するのは、彼らは“よさこい”を踊ることで、仲間たちと気持ちと気持ちを通わせること、まちを活性化させることなど、単に自分たちが踊るだけでなく、様々な人の心や絆を紡いていること。彼らの活動は、見ていても、気持ちがいい。その踊りは、上手や下手を超えて、見る人の心に迫るものがある。

この映画は、そんな“よさこい”の魅力に、きちんと迫っている。「仲間のために、踊る。それが自分の夢にも繋がる」。そんな“よさこい”の原点を、小児がんの少女がよさこいを踊った、という実話を元にしながら、上手く脚本化し、誠実で良質な物語にしている。

主人公は自らの夢とよさこいの板挟みになるが、ここをじっくりと描くことで、観客もまた、主人公の判断について、一緒に悩む。やがて主人公はひとつの結論にたどり着くが、ここへの過程が丁寧で、クライマックスで僕はスクリーンに向って思わず応援していた。

演じる溝端淳平氏、五十嵐隼士氏、木南晴夏さんも好演。クライマックスのよさこい踊りのシーンは、カット割りも見事で、その迫力や魅力を十分に伝えてくれる。

…あと、少女の父親役の本田博太郎氏は、いつでもどこでも、“本田博太郎”氏だなあ…と。下手をすると映画全体のバランスを壊しがちなのだが、ギリギリのところで踏みとどまっていて、ちょっと安心。それと、テレビのバラエティでおなじみのDAIGO氏のコメディリリーフぶりがよくて、これはちょっとした発見だった。

「君が踊る、夏」オフィシャルサイト↓
http://www.kimi-natsu.com/
4

悪人  新作レビュー

★★★★

「息もできない」のレビューをはじめ、さんざんこのブログで最近の日本映画の傾向について書いているが、最近、テレビ局主導の映画製作主流に変化はないものの、ちょっと東宝、東映という2大メジャー映画会社で、昨年ぐらいからちょっと傾向が変わってきたように思う。

まず、東宝だが、テレビ局が製作委員会に入らない、社会性が強い映画を、今年は「告白」、この「悪人」と2本も製作、配給し、いずれもヒットさせたことには驚いた。調べてみると、この2本は川村元気さんという、同じプロデューサーの作品だった。

ただし、この2本は社会性のあるテーマを扱ってはいるものの、キャスティングや脚本など、万人に受け入れられるエンターテインメイント性もきちんと追求されている。

その辺りは“剥き出し”な昨今の韓国映画の秀作「殺人の追憶」「母なる証明」「息もできない」などの作品群と比べると、まだまだ甘い、という感じはあるが、様々な論議を呼ぶ作品を、テレビ局を入れずにメジャー会社が作り、ヒットさせる、という図式はここ数年にはなかった、と思う。

さて、この作品だが、「悪人」というタイトルからして、誰が“悪人”なのだろう?と思って観ていたが、人は悪にも善にもなる存在であり、そして“悪”や“善”という判断は、人によってそれぞれである、という映画の作りだったように思う。

そういう意味では“参加型”の映画であり、観客は、この映画を観ながら、様々に思いを巡らせることができる。

殺人を犯してしまう主人公に同情もできるが、「それはないでしょう」と思わせる場面もきちんとある。殺されてしまう女性には感情移入しにくい設定が用意されているが、その父親の描写は、演じる柄本明さんの演技も含めて大いに心を揺さぶられるものがある。

さらに、主人公の祖母の気持ちや行動も、理解ができる。主人公と逃避行をするヒロインの行動も、身勝手とも取れる一方で、心情的なものもしっかり伝わってくる。

結局、誰が「悪人」なのか、その判断は観客に委ねられているのだ。そこを作り手はきちんと描いている。観客に考える、悩む余地を与える演出もいい。

主人公とヒロインが逃避行をする後半が、やや情に流される感はあるものの、人間が持つ様々な面を描いた、サスペンスとしてもヒューマンドラマとしても、よくできた秀作に仕上がっている。

モントリオール国際映画祭で女優賞を獲得した深津絵里さんは、正直「踊る…」シリーズより、こちらの方が魅力的。僕は「1999年の夏休み」のころから「いいなあ」と思っていただけに、この授賞は嬉しい。

でも、深津さんもいいが、イケメンぶりを封印した妻夫木聡さんもいい。柄本明氏は、最近の映画で実はあまりいい印象を持っていなかったのだが、この作品でその印象は覆った。恐らく、かなり現場で追い込まれた状況で演じたのではないか。この作品の父親役は、痛烈である。

そして樹木希林さん。「半落ち」のとき、改めてその存在感に驚いたが「歩いても歩いても」とこの作品で、またまたその凄さを認識した。
李相日監督は、「フラガール」も好きだったが、この作品がまた新たな代表作になると思う。

「悪人」オフィシャルサイト↓
http://www.akunin.jp/index.html#/TopScene

2

息もできない  新作レビュー

★★★★★

何度も書いているけれど、“痛み”を感じられる映画が、いい映画だと僕は思う。

この映画の“痛み”は鈍痛のようにヒリヒリしていて、必ずしも心地よくないし、後味もよくないのだけれど、心に染みる切なさを内包している。

社会の底辺で生き抜こうとする主人公たちの怒り、そこから生まれる人としての感情、家族への複雑な想い。それらの“気持ち”が観終わったあと、それこそ何日も経って、じんわりと心に入り込んでくる。

悪質な取り立てと学生運動への暴力的な鎮圧で日銭を稼いでいる主人公。彼は、父親に対して複雑な想いを持っている。家庭内暴力が激しく、母と妹を死に追いやった父が今も許せない。

そんな主人公が、最悪な出会いをした女子高生と、さり気なくも心を通わせていく。その女子高生もまた、ベトナム戦争に派遣された年金で暮らしながら、今は心が壊れてしまった父親や、社会からドロップアウトしようとしている弟を抱えている…。

物語はこの両家族をシンクロさせながら、2人の心の変化を、じっくり、見事に描いていく。監督、主演、脚本を手がけたヤン・イクチュンがいい。暴力でしか自分を表現できないチンピラを生き生きと演じている。

暴力にしか自分を見出せない主人公サンフンは、人との関わりの中で、わずかな光明を見出していく。壊れてしまった家庭や家族への怒り、憤り、憎しみ。それは女子高生ヨニも一緒だ。恋愛とも友情とも言えない2人は、同じ境遇だからこそ、何も言わずとも心と心がシンクロする。

人の心に、確かに「闇」は存在する。人は人によって傷つく。その傷は、時に暴力や犯罪を生む。でも、結局、人は人によってしか癒されない、と思う。

この映画は後半、衝撃的な展開を見せる。リアルだけど、その人間関係の狭さに驚いたりもする。だけど、人と人が創り出した社会というのはこういうものかもしれない。皮肉にも、怒りや憎しみを生んだ人間関係は、後に癒しをもたらした人間関係と隣り合わせやイコールの場合だってある。とくに狭いまちで生まれ育てば、そういうことはあるものだ。

人が「生」を吐き出す瞬間が、この映画には詰まっている。

それにしても、昨年の「母なる証明」と言い、最近の韓国映画は“人間”を描いた秀作が多い。驚くのはこうした作品が大衆に受け入れられ、韓国内でヒットしていることだ。心地よい、うわべだけの涙や感動を求める映画が作られる傾向が強い日本映画界とはずいぶん差もついてしまったように思う。

この映画で「自分」をさらけ出したため、当分監督作を作る気はない、とのインタビュー記事を読んだが、ヤン・イクチュン監督の次回作が是非、観たい。

「息もできない」オフィシャルサイト↓
http://www.bitters.co.jp/ikimodekinai/

※セルDVDが12/3発売のようです。アマゾン等のDVDネット販売サイトでも予約が始まっています。
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