ハードロマンチッカー  新作レビュー

★★★

まず、主演の松田翔太氏がいい。松田優作氏を心から敬愛する身としては、下関を舞台に、アクションを展開する翔太氏をスクリーンで観ることができるとは…という何とも言えない感慨が胸に迫る。

この映画の公開時、「シネKING」でグ・スーヨン監督と遠藤要さん、柄本時生さんにインタビューさせて頂いた。下関出身で、自伝的小説を自ら映画化されたグ監督はダンディーな方で「この映画を観て下関がバイオレンスシティーって思われるのも困りますねえ」と優しい笑顔で語っておられた。

この映画、自分の意思とは関係なく、暴力に巻き込まれていく若者グーが主人公。確かにあの時代の「下関の空気感」はよく現れていて、心情を描くことなく、暴力の連鎖に翻弄されつつも立ち向かうグーを淡々と描くことで、乾いた痛みが伝わって来る。

決してウエットにならないのはグ監督の味だろう。それだけにグーを心配する津島恵子さんの祖母や真木蔵人氏の先輩ヤクザの存在が際立つ。ただ、時代設定は現代にせず、“ハードロマンチッカー”たちが活躍した70年代にした方が、映画が“生きた”のかな、とは勝手な感想である。

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ミッション:8ミニッツ  新作レビュー

★★★★

SF映画なのだけれど、現実世界にSF的な要素を組み入れる、という僕の好きな世界。

大昔、NHKの少年ドラマが大好きだった。それは、自分たちの日常に近い、普通の中学校や高校に未来人や異次元人が絡む非日常が隣り合わせの世界だからこそ、ワクワクドキドキしたのだと思う。

ブランコでタイムリープする「未来からの挑戦」は、ジュブナイル作品も多い眉村卓の「ねらわれた学園」が原作で、キャラクターは同じ作者の「地獄の才能」から借りている。

物語のラインはのちのち薬師丸ひろ子主演で映画化もされた「ねらわれた学園」とほぼ一緒で、学園を支配する高見沢みちる率いる栄光塾と生徒たちの攻防を描いているのだが、原作と決定的に違うのは、栄光塾の未来人である飛鳥清明が組織を裏切って主人公たちに味方し、ともに戦うという展開だった。ファシズムの恐怖や反戦が裏テーマになっていて、卒業を控えた小学六年生だった僕は毎日夢中になって観たものだった。

「スター・ウォーズ」などの架空の世界も好きだが、どこか自分の日常に繋がる世界を描いてないと感情移入はしにくい。架空の世界を描いていても、現代が抱える虚無感のようなものをビジュアル的にも物語的にも表現した「ブレードランナー」の方が心ひかれる。

おっと、これは「ミッション:8ミニッツ」のレビューだった。この物語も、日常の中の非日常な出来ごとを描いているから面白いのだが、その「非日常」が、えんえんと繰り返される8分間の列車事故のシーンというから、なかなかのユニークさである。

ある軍人が、特殊な作戦と装置によって、列車事故の原因を調べるため、8分間だけ、何度も何度もその中の乗客の意識に入り込む。映画は何度も同じシーンが繰り返されるのだが、その繰り返しの8分間の中で主人公は真相に近づき、自らの境遇や作戦そのものの疑問の答えに迫っていく。

若手でデヴィッド・ボウイの息子でもあるというダンカン・ジョーンズ監督は、奇想天外な物語を、テンポのいい演出と飽きさせない仕掛けでぐいぐい見せてくれる。ニコラス・ケイジが好演で、父親が絡んでくるシーンは情感もあって物語に深みも与えている。

個人的に惜しいのはラストの展開なのだが、ハリウッドに屈したのか、それともこれもダンカン・ジョーンズ監督の判断なのか。僕はしっくりこなかったのだが、他の方々はどうなんだろう。
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僕にとっての2012年スタート!  新作レビュー

長い間、更新せず、本当にすみません。

心配してメールや電話を下さった方もいらっしゃいました。

本当にありがとうございました。

とりあえず、ブログを休んでいる時に観た映画のレビューを何本かアップしました。昨年観たものでまだレビューを書いてない映画がたくさんあるので、おいおい書きます。

気力はあったのですが、昨年秋から今年の初めにかけて激務と体調不良が続き、ついにダウンしてしまいました。医者は「過労」だと…。何とか休みながら、ようやく落ち着きました。長いトンネルを抜けた感じです。

仕事も頑張っています。

昨日、僕がMCをしている「シネKING」の収録で、原田眞人監督と役所広司さんに広島でインタビューしてきました。4月28日公開「わが母の記」紹介の回で、4月20日放送予定です。山口県の方は是非ご覧ください!

周南映画祭第4回も始動。脚本賞の「松田優作賞」いよいよ応募受付が始まりました。きょう現在で国内、そしてアメリカから7本の脚本が届きました。優作さんのお名前を頂く重みと、その「意味」に襟を正していこうと決意しています。映画祭も様々なプロジェクトが始まります。こちらも頑張ります。

先月、福島県に行ってきました。「がんばっぺフラガール!」上映企画のため、現地を見てこようと思い行ったのですが、いろいろと感じることがありました。映画のお陰で、1年遅れですが被災地の現状を見ることができたことに感謝しています。

…ということで、かなり遅れましたが、例年恒例の、昨年公開された映画のマイベストテンを記します。

■日本映画
@ツレがうつになりまして。
A日輪の遺産
B探偵はBARにいる
Cがんばっぺフラガール!〜フクシマに生きる。彼女たちのいま〜
D電人ザボーガー
E僕たちは世界を変えることができない。But,we wanna build a school in Cambodia.
Fオーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー
GRAILWAYS〜愛を伝えられない大人たちへ
H阪急電車 片道15分の奇跡
I冷たい熱帯魚

■外国映画
@悲しみのミルク
Aアジョシ
BXMEN:ファースト・ジェネレーション
Cブラック・スワン
D塔の上のラプンツェル
Eマネーボール
F英国王のスピーチ
Gミッション:8ミニッツ
H猿の惑星 創世記〜ジェネシス
Iマイウェイ 12000キロの真実

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ツレがうつになりまして。  新作レビュー

★★★★★★

「映画日記」史上初の、6つ★です。

「障がいなんか、笑い飛ばせばいい」とは、僕が尊敬するある人の言葉。

笑いとばすことと、馬鹿にすることは違う。どうしようもないほどのできないこと、困難なことは大変で辛いことではあるが、それを受け入れ、笑い飛ばすことも大切なことだ。

身体や心の病、障がいは、誰にとっても、決して他人事ではない。世の中には、いろいろな生き辛さがあるのだ。

僕も発達障がいのひとつである、学習障がい(LD)という個性を持つ。詳しくはNHK公式HP内ハートネットピープルの僕のコラム「計算できんで何が悪いとや」↓http://www.nhk.or.jp/heart-net/program/index.html
をご覧頂きたい。

一見しただけでは、他の人と区別がつかないのでなかなか理解されにくい、できないことや苦手なことが、本人の努力不足や気持ちの強弱のせいなどが原因と誤解されやすいことなどは、発達障がいもまた、心の病と似ているかもしれない。

この映画の凄いところは、「うつ病」という誰もがなる可能性がありながら、誰もが知らない、一般社会的にはまだ理解が十分ではない病を「娯楽映画」というエンターテインメイントの中で描いたことだ。

病そのものの説明も描きながら、この病を抱える人やその周囲の人たち、つまりはあらゆる病や障がいを抱えている人やその周囲の人たち希望を抱き、少しずつでも歩む様を、温かな視点で細やかに描いている点にある。

もちろん、「うつ病」と一言に言っても、人によって症状は様々だろうし、「この映画のように甘くない」という人もいるだろう。しかし、佐々部監督はそうした批判は覚悟の上でこの映画を作ったのだという。結果的に、この映画は、あらゆる病気や障がいに向き合う人やその家族、周囲の人々にとって、大きな「希望」と「処方箋」となる映画になった。その監督の「志」に感謝したい。

佐々部監督の優しく、温かなまなざしと心が、恐らくこの映画に関わったスタッフ、キャストを大きく包んだのではないだろうか。主役の2人が素晴らしいのは僕が書くまでもないのだが、脇を固める役者たちのバランスが見事で、日本家屋のセットなど美術やキャストの衣装、イグアナの表情に至るまで、細部に「気持ち」が感じられる。

僕のある友人は、緊張感あふれる仕事が続いていたとき、この映画を観て「頑張らなくてもいいんだ」と思ったそうだ。この映画のもうひとつの大切なポイントは「ユーモア」で、病を笑い飛ばしている点も大きい。馬鹿にするのではなく、笑い飛ばすこと、これが本当に大切なのだと思う。

6

電人ザボーガー  新作レビュー

★★★★★

70年代は特撮ヒーローが最も花盛りだった時代だろう。

「ウルトラマン」に始まる円谷プロダクション系、「仮面ライダー」に始まる東映+石森(当時はまだ石ノ森ではない)章太郎原作系の王道の流れとは別に、うしおそうじ率いるピープロダクションや「アイアンキング」「シルバー仮面」などの宣弘社など、マイナーながら独自路線を突っ走る特撮ヒーローが多数存在した。

中でもピー・プロダクションは「怪傑ライオン丸」や「宇宙猿人ゴリ」(のちの「スペクトルマン」)など、異彩を放っていた。

ヒーローや怪獣のデザインはもちろん、サイケデリックで独特な色遣いのマットアートなど、円谷プロ系や東映系にはない独特な感性があり、社会性を取り入れた物語性もあって、王道も好きだけどアウトサイダーも大好きな小学生の僕は完全に魅了されていた。

うしおそうじ氏は円谷英二監督の弟子に当たり、円谷特撮の流れを汲むが、低予算ながら独自の感性を取り入れた特撮物を産み出していた。うしお氏とピー・プロは劇場用映画も松竹の大傑作ホラー「吸血鬼ゴケミドロ」の企画と特撮も担当している。

ちなみに、毒々しい赤い空の下で旅客機が飛ぶ「ゴケミドロ」でのシーンは、この作品に大きな衝撃を受けたとされるクエンティン・タランティーノが「キル・ビルVol1」でそのまんま取り入れてオマージュを捧げている。

そんな、ハリウッドにまで影響を与えたピー・プロの傑作特撮ヒーローのひとつが、「電人ザボーガー」だった。バイクがロボットに変形するなんざ、トランスフォーマーの先駆けだろう。

「ザボーガー」の放映時、僕は小学校4年生。ザボーガーはなかなかの荒唐無稽でぶっ飛んだお話だったのだが、僕はそこが気に入ってはいたが、ちとリアルに欠けていたので、自分でオリジナルストーリーの「ザボーガー」の漫画を描いていた。そういう意味ではこの作品への思い入れは強く、変なリメイクなら許さんぞ、という想いでこの映画を観た。

井口昇監督は、なかなかツボを心得ている。70年代の特撮物のチープな雰囲気を残しながら、最新のCGを使って見せるところは見せ、全体の物語も、親子の愛情や中年の悲哀など、しっかり感じさせてくれるドラマを作り込んでいて感動した。

こんな感じで仮面ライダーも作ればいいのに、と思いながら、まああちらは大メジャーでチープ感は出せないだろうが。僕的にはこのノリで「スペクトルマン」もリメイクしてほしい。あと、宣弘社製の「アイアンキング」なんか、いいけどなあ…。

2

僕たちは世界を変えることができない。But,we wanna build a school in Cambodia.  新作レビュー

★★★★

深作健太監督作品。

アクションのイメージが強い深作監督だが、この作品を観ると、真摯なまなざしで映画に向き合っていることが伺える。

「バトル・ロワイアル」のキャンペーンで、健太監督と、その父君で僕が大尊敬している故・深作欣二監督とともにお会いし、お話をさせて頂いたことがある。

話はそれるが、このとき、「バトル・ロワイアル」試写のあと、高校生と深作欣二監督の討論会の司会をさせて頂いたのだが、深作欣二監督は「ビートたけしが演じた先生がかわいそうだった」という徳山の女子高校生の感想をいたく気に入られ、そののちの国会議員との討論会でも「あんたたちよりよっぽど女子高校生の方がこの映画のことを分かっている」と仰られたそうだ。

深作健太監督、このときはプロデュースと脚本を担当されていて、監督デビューの前だったが、腰が低く、いつもにこやかな方で、やはり少年のころからの映画好きということで、いろいろと映画のお話をさせて頂き、楽しい時間を過ごさせて頂いた。

そのまっすぐさが、この作品にも貫かれている。

この映画、実話の映画化ということだが、主人公の大学生たちがカンボジアに学校を建てるため、視察で現地に行くシーンがかなりのシーンを占めているのだが、そのシーンはまったくのドキュメンタリーの様相を見せる。

ガイドも原作者を案内したという現実の方であり、カンボジアに今も残る内戦や虐殺の跡地、厳しい現実の場所における若い役者たちの衝撃や嗚咽などのリアクションは、役のそれではなく、間違いなく素の反応である。

カンボジアでのシーンを挟んで日本での状況が「ドラマ」として描かれていく。普通、ドキュメンタリー的要素をフィクションに入れるとバランスが崩れるのだが、この映画ではカンボジアの歴史と現状をリアルに紹介する部分の前後に「なぜカンボジアに学校を建てようと思ったのか」「厳しい現実を見て、困難な状況も出てきて、果たして学校が本当に建つのか」というノンフィクションを前提にした“フィクション”を描くことで、かえってドラマとドキュメンタリー的な部分の対比が鮮やかになった。

若手俳優たちの熱演も光る。


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阪急電車〜片道15分の奇跡  新作レビュー

★★★★

素敵な映画。

いくつもの物語がやがてひとつにまとまる映画は昔から古今東西にあるが、この作品は世代や環境が違ういくつもの人たちのエピソードを描き、やがてその人間模様が絡んで行く。

登場人物たちの共通点は阪急電車のある沿線(片道15分)を利用していること。登場人物たちが出会う舞台を電車にしたことで物語は横に広がる。で、沿線の各駅の近くの大学や住宅、アパートなどがそれぞれの物語の核になることで、物語は縦に広がる。ということで、ストーリーが立体的に繋がる、という効果がいい方に出た。

複数のエピソードが絡む群像劇は整理整頓が難しく感情移入できない映画作品も多いが、この映画は成功している。

部下にフィアンセを取られて復讐しようとするヒロイン、彼氏のDV(身近な人による暴力)に悩む女子大生、息子夫婦と上手くいってない孫娘を連れた老女、いやいや大阪のオバハン仲間に高い食事に誘われ出かけてしまう気弱な主婦、軍事オタクの大学生とその同級生で流行に鈍感な女子大生、純粋な彼氏に心ひかれながら大学受験に悩む女子高校生、いじめに悩んでいる女子小学生…こういう人たちが電車や駅での「出会い」によって、少しだが成長していく。

人はどこかしら弱さや痛みを抱えているもの。ふとした街中での「出会い」が、そこをちょっぴり癒してくれる…しかし、他人に無関心な現実では難しいことかも。これは実はありそうで、ありえないファンタジーなのかもしれない。でも、電車や街で出会った、見て見ぬふりはできないような他人の「人生」に出会ったとき、そこに関わる勇気や優しさは、今の時代だからこそ、必要なものだろう。
2

猿の惑星 創世記〜ジェネシス  新作レビュー

★★★★

あの「猿の惑星」のタイトルの映画を、今再び鑑賞しようとは…!

少年の日、水曜ロードショー(金曜ロードショーの前身ね)で観た「猿の惑星」は本当に衝撃だった。

あのラストは、映画史に残ると思う。正に、「絵」で全ての説明をする、という意味で衝撃だった。これこそ映画の醍醐味だ、と感動したことを覚えている。

あと、映画には文明批判も盛り込んでいて、そういう意味では生命の進化をテーマにした「2001年宇宙の旅」とともに、それまで「SF映画は子どものもの」という概念を覆した名作であり、僕にとって主演のチャールトン・ヘストンと言えば、水曜ロードショー(くどいけど、金曜ロードショーではない)で繰り返される放送される、この映画と「黒い絨毯」だったものだ。

で、この映画だが、どの雑誌やサイトの紹介を見ても、「なぜ○○が○の○○になったか、その始まりを描いている」等と書いてあって、それじゃあ、あの名作の第1作のオチをバラすことなるのである!!

これから、DVD等で初めて「猿の惑星」を観る人だっているはずである。もうちょっと、配慮してほしいと思うが、それだけあの映画の物語は周知の事実になっているのだろう。

この映画、オリジナルにオマージュを捧げている場面やセリフも多く、お話が現代のアメリカになるところなどは、シリーズ6作目を思い出す。旧シリーズは壮大なスケールに発展していく(決してシリーズ2作以降は面白い、とは言えない)が、主人公の名前などは、旧シリーズを観ている人ならニヤリとするだろう。

オリジナルにあった文明批判が影を潜めたのは、時代の変化に依るところも大きい。アルツハイマーの新薬を巡る話が核にあって、そこに文明批判も感じはするが、全体的には娯楽作に徹している。

主人公やその恋人、父親、薬品会社の上司の人物設定など、はっきり言って、最近のハリウッド大作に見られる予定調和的な物語展開ではあるのだが、見応えはある。

人間であるはずの観客が反乱を起こす猿側に感情移入できるよう物語が上手く練られていて、ビジュアル的にも優れている。

役者の演技をCGに反映するモーションキャプチャーを駆使した、オールCGで表現された猿たちの表情や動きは実に見事。21世紀に入って映画技術の進歩を感じる一瞬である。

主人公の猿が感情を爆発させるシーンは、オリジナルに続いていく重要な場面であり、感涙物のいいシーンだと思う。

技術に頼らず、感情移入がきっちりできるのは、やはり脚本がいいからだろう。昨今のSFやアクションはその点が足らないものが多い。「猿の惑星」というタイトルの映画で言うと、私的には名作の第一作に告ぐ満足度だった。
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