るろうに剣心  新作レビュー

★★★

原作マンガ、アニメとも斜め見するていどだったが、人気の高いコミックの映画化作品では、近年まれにみる原作ファンからも高い支持を受けている、らしいので、早速鑑賞した。

NHKのドラマ監督として「龍馬伝」「ハゲタカ」など、意欲作を次々と産み出してきた大友啓史監督の独立後第一作。

アメリカで映画づくりを学んだ経験あるという大友監督、前作の劇場版「ハゲタカ」はテレビドラマ版と同じ絵づくりを大スクリーンで試みて、正直、成功とは言い難い感があるなと思っていたが、今回、ドラマ部分はオーソドックスにフィックスで撮りながらも、アクションシーンになると縦横無尽なカメラワークと斬新な演出で見せる、メリハリの効いた演出が目を引いた。

時代劇は、西部劇といっしょで、ある種の様式美の中にあるからこそ、あらゆる可能性を秘めたジャンルだと思うが、そういう意味では、この映画は時代劇アクションの新しい可能性を見せてくれた、とも思う。

俳優陣も、主役の佐藤健氏はナチュラルでいい感じだし、敵役の綾野剛氏や吉川晃司氏も頑張っていて、とくに吉川氏は悪役として異彩を放っている。吉川氏がスクリーンでこれだけ輝くのは、懐かしき大森一樹監督の“民川三部作”以来ではないか、と思う。(あ、ライダーがあったか・・・)

ただ、惜しむらくはドラマ部分が薄く、少し間延びするところ。

そこを凌駕するほど、アクションシーンの出来はいい。ここは、アクション監督の谷垣健治氏の力も大きいだろう。谷垣氏は倉田アクションクラブ出身で、ジャッキー・チェンのアクション現場もあるという凄い人で、今回も香港仕込みの斬新なアクションが目を引くが、大友監督との息がピッタリで、斬新な殺陣を、どう撮るのか。この工夫が、この映画の最大の見せ場であり、魅力になっている。
2

SHAME シェイム  新作レビュー

★★★★★

依存症と一口に行っても多種多様だが、きちんと知っておきたいのは、これはちゃんとした「病気」である、ということである。

「依存症」とは、その刺激がないと、不快や不安定な精神的な状態になることを示すが、その刺激がアルコールであったり、薬物であったり、様々なものが「刺激」になり得る。

この映画の主人公は、セックス依存症である。依存する刺激が、「セックス」という道徳的なモラルが要するものだと、そこから生じる周りの偏見であったり、本人も自分自身への不徳な感情から、必要以上に苦しむケースが多い。

僕はセックス自体、不徳なものなどでは決してないと思うけれど、依存症になると、これはセックス依存に限ったことではないが、社会性や日常がその刺激がなくては保てない状況になってくると、事態は深刻である。

この映画の主人公は、同じように心に傷を持つ妹と同居することによって、自らの「苦しみ」が浮かび上がり、セックスでは決して埋まらない自らの心の隙間に気づく。同僚と普通の恋愛さえできず、妹までも追い詰めていく主人公は、実に辛いし、痛みが心に迫る。

そういう意味では、リアルな映画である。抑えた音楽もよく、新鋭スティーヴ・マックイーン(凄い名前だ。日本にも、小林正樹監督という、「切腹」などの監督と同姓同名のドキュメンタリー監督がいらっしゃるが・・・)監督の演出はシャープであり、長回しの多用が心の緊迫感を上手く表現している。リアルなセックスシーンも多いが、不思議と性的高揚感は全く感じない。

この辺り、監督さんのセンスと技量に、非常に才気を感じる。

主演のマイケル・ファスベンダーは「どこが見たぞ」と思っていたら、途中で「XMEN:ファーストジェネレーション」の若きマグニートーを演じていた人だ、と気付いた。あのときもアクション超大作ながら屈折した彼の演技が光っていたのを思い出した。

SHAMEとは「恥」という意味だが、自らの「心の闇」と向き合ったとき、人にとって浮かび上がる本当の「恥」とは何か?という深さを感じられる、なかなかの秀作である。
1

BRAVE HEARTS 海猿  新作レビュー

★★★

山口県周南市出身の脚本家、福田靖さんの最新作。

福田さんは周南映画祭のゲストにも来て頂き「一般の視点」からの脚本づくりについてお話頂き、大変に興味深かった。

たとえ特殊な設定や物語であったとしても、如何に観客の目線に立った物語を構築するか?例えば、海猿シリーズなら原作では主人公の恋人は新聞記者だったが、映画では一般のOLであり、そうすることで特殊な任務に就く主人公を普通の人である恋人が心配することになり、観客はヒロインの目線から、主人公の危機にハラハラドキドキできる訳である。

「龍馬伝」でも、龍馬を尊敬しながらも嫉妬する岩崎弥太郎を語り部にすることで、視聴者にとって龍馬を身近な存在にする語り口は見事だった。このモチーフは「アマデウス」のサリエリとモーツァルトから着想を得た、と聞いてまたまたビックリだった。

「一時は特殊な環境で生まれてこなかったことを恨んだこともありましたが、今は徳山の平凡なサラリーマン家庭に生まれてよかった、と心から思っています」と笑顔で語っていた福田さんが印象的だった。

検事が現場で捜査をするという、これもまた福田節炸裂だった「HERO」をはじめ、エンタテインメイントなテレビドラマで腕を磨いてきた福田さんは、多くの観客が楽しめ、そして感動できる作品が構築できる、日本では稀有な脚本家のお一人だと僕は思う。

いつもこのプログで書いていることと矛盾してるかもしれないが、映画は大多数が楽しめるエンタテインメイントの王道と、人生を掘り下げ、時に社会性も鋭く突っつくようなインディペンデントの両面が必要で、そのバランスは常に必要なのだ。ただし、どちらも「娯楽」という範囲は、絶対に必要とは思うけれど。

さて、今回の「海猿」は、正に王道中の王道だろう。1作目は「愛と青春の旅立ち」にインスパイアされたのかな、と思っていたが、そういう意味では2作目は「ポセイドンアドベンチャー」で、3作目は「タワーリング・インフェルノ」テイストで、今回の4作目は「エアポート77」を思わせる飛行機パニック物だった。

飛行機が着水するまでの臨場感は、CGの出来も含めて、シリーズ最高ではないだろうか。萩市出身の松本実さんらが扮する乗客の描写も、掘り下げた人物描写は無理でもよく描かれている。

主人公には子供がいて、妻は2人目を妊娠中。飛行機のパイロットも子供もいて、危機の中、主人公とパイロットが家族の話をする降りは福田さんの真骨頂だろう。素直に感動させてくれるし、主人公とバディを組む潜水士と恋人であるCAとのエピソードも物語を盛り上げ、この辺りの展開も福田さんの「力」が発揮されていると思う。

3・11以降の日本を意識した展開も感動できるし、何より海上保安庁が全面協力した巡視艇やヘリコプターが闊歩する画面は単純にカッコいい。僕は画面を巡視艇やヘリコプターが横切る画面で「サンダーバード」を思い出したが、羽住監督の演出は、ど真ん中にズドンと150キロのストレートを投げてくる。

ど真ん中ストレートは、正直、僕なんかはちょっぴり恥ずかしい。救助には冷静な判断が必要、という先輩までもが熱血主人公に感化される辺りは「おいおい」とも思ってしまうのだが、日本映画にはこうした作品も必要だろう。
1

あなたへ  新作レビュー

★★★★

その存在感と個性によって、佇まいそのものが「絵」となり「物語」となる俳優…そういう人をかつては「スタア」と呼んでいた。

そんな「スタア」は、どんな役をやってもその存在感が消えることはなく、むしろ素の個性がその役を光輝かせていくものだが、そんな俳優は、日本なら男優はもはや高倉健さんしかいないし、世界を見渡しても数少ない。

健さんも80歳を超えた。もともと寡作でもあり、近作、とくに「鉄道員」以降は、どの作品もキャスト、スタッフが健さんと映画づくりをする喜びがスクリーンから伝わってきたし、ある意味では「もしかしたら、これが最後になるかもしれない」というような覚悟も伝わってきたような気がする。

そういう意味ではここ数作品は、全て演じるキャラクターは健さん自身が投影されているようで、今回の倉島という役柄も、我々観客からは健さん「そのもの」と感じられる。亡くなった妻が歌手だったり、その妻を想い、残りの人生を精いっぱい、誠実に生きようとする不器用な男の姿は、健さんの実生活にも通じるところがあるのではないか、と思う。

映画はいわゆるロードムービーなのだが、過去にさかのぼって妻とのふれあいを描きながらも、なぜ、色々と訳があったような洋子が健さんと結ばれたのか、過去にどんな事情があったのか、妻の想いはどこにあったのか、など、思わせるニュアンスはいくつもちりばめながら、明確な説明はしない。

この「余白」が、今の日本映画に足りないものだと僕は思うが、その分、旅先で出会う人たちとのエビソードは緻密である。主人公の健さんはそれぞれ「何か」を抱えた人々との出会いの積み重ねから、生きる意味や人を想う大切さをしみじみと感じていく。

そして、作り手たちが物語の奥に大切にしまってある、主人公夫婦の間に流れる「何か」を、我々観客に様々に想起させてくれる。物語上では説明されていない余白を想起するには、実はいちいち語ったり説明していなくても、映画の「余白」をしっかり創り込んでいる作品なら豊かに感じることができるものだが、この映画はそこが味わえる。

この辺りは降旗康男監督の演出の巧みさではあるが、何より「ツレがうつになりまして」「日輪の遺産」でもその実力を見せた、青島武氏の脚本に寄るところが大きいだろう。生きる大切さを淡々と描きながらも、物語にも新鮮な発見と展開があり、飽きさせない。

種田山頭火の句がポイントになっていたり、物語の大切な場所として下関が登場したりと、山口県もひとつのキーワードになっている。ワンカットだが、僕が住んでいる周南と思われる場所も登場していた。ここはもう一度観て確認してみたい。

日本の風景の美しいカットにも目を奪われる。そんな風景にたたずむ健さんの姿は、それだけで涙が出る。ビートたけし氏と健さんが海の夕景を見ながら「旅」と「放浪」について語り合うシーンが印象に残る。

2

ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳  新作レビュー

★★★★★

出張先の福岡で鑑賞。

僕は17年間、地方新聞社で記者をしたが、この間、悔やんでいることがいくつかあって、そのなかのひとつが、「もう少し福島菊次郎さんを掘り下げて取材できなかったのか」ということである。

気骨の報道写真家、福島菊次郎。

国家の繁栄の裏側で、切り捨てられていった人々を撮り続けている彼は、徹底して日本という国を攻撃し、90歳になる今も年金の支給を拒み、山口県で愛犬と暮らしている。

犯罪を犯した者を撮るのに、カメラマンは法を犯しても構わない、とまで言い切る福島さんは、それでいて、被写体になった人々の苦しみにはそっと寄り添う優しさを見せる。

自衛隊の裏側を盗み撮りも交えて撮影し、自宅は放火され、暴漢にも襲われた。それでも絶対にブレない。映画は彼の過去の写真や思いをインタビューであぶりだすとともに、今は普通の老人としての暮らしぶりをとらえていく。

それが、東日本第震災と原発事故が発生し、映画は再びカメラを手にして福島で取材をする姿をとらえる。強風で飛ばされそうになっても、素早くカメラを構え、フクシマの現状を、鋭く切り取っていく福島さん。やがて、その想いはかつてのヒロシマで取材した被爆者への想いに繋がっていく−−。

恐らく、近年では出色のドキュメンタリーだろう。

ある被爆者を撮影しながら、自ら精神を病んだ、という体験が胸を打つ。いつの時代も、社会の裏側や闇を告発するのは、個人の苦しみであり、悲劇である。そこには当事者の苦しみはもちろん、これを伝える者の苦しみもある。あまりの痛みと苦しさに、耐えかねてつけたという、太ももを切った無数の傷跡。これを写したモノクロ写真からは、凄まじいまでの被写体の叫びと、撮影者の叫びが聞こえてくるようだ。

映画では触れなかったが、福島さんは彫金作家としての一面も持っており、実は僕が住んでいる下松市の出身で、僕は彫金の作品展などで何度もお会いしているし、取材もさせてもらっている。

そのたびに、その凄まじい人生と一貫した姿勢に驚き、シビレ、掘り下げて取材したい、と思うものの、そこまでの腹がくくれなかったのである。まったくもって意気地なしの記者だったが、僕が超えられなかった線を超えて、これだけの傑作ドキュメンタリーを制作した監督以下スタッフの方々に敬意を表したい。
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