犯人に告ぐ  新作レビュー

見た日/3月某日 ★★★

冒頭、誘拐犯を捕まえるため、都会の雑踏で身代金を持った母親を刑事たちが警戒するシーンが、緊迫感があっていい。

そこで県警と警視庁の対立をサラリと描き、やがて始まる本編への伏線にもなっていくのだが、前半はモノトーン映像で淡々と見せてくれ、無駄なシーンもなく、サスペンスらしい緊張感が漂う。

中盤から劇場型犯罪に対する主人公刑事の「劇場型捜査」が描かれ、流石にここはリアリティが多少崩れかけるものの、警察の裏側で巻き起こるドラマが面白く、最後まで飽きさせない。

意外にも、犯人側の論理や描写はあっさりしていて、あくまで捜査をする側がドラマの主役なのだが、警察やマスコミの方を濃密に描くことで、この映画は重大事件における未解決時の「得体の知れない何か」を描くことに成功している。

僕も記者時代に経験がある。殺人事件が起きて犯人が捕まらない状況になると、警察にもマスコミにも、何だか“いやーな”空気が流れる。

夜中、クタクタになって警察から自宅のアパートに帰ると、街の灯りを見てふと思う。「この中に犯人がまぎれているんだ」とう感じた時の、背中のゾワーっという感覚は、いやなものだ。

その、犯罪都市に溶け込んだようないやな皮膚感覚は、重大事件になればなるほど、都会ならなおさら、強く感じるものだと思うが、この映画は、その“いやーな”空気感を上手に表現できていると思った。

良くも悪くも豊川悦司のヒーロー映画でもあるが、豊川さん演じる刑事がテレビで犯人に「今夜は震えて眠れ」と呼びかける姿はしびれるほどカッコいい。

笹野高史、小澤征悦、石橋凌ら脇の役者さんたちもよく、とくにイヤな警察官僚を演じた小澤征悦の存在感はこれまでの彼のキャリアにないもので、役者の隠れた魅力を引き出した点では瀧本智行監督の演出力が優れているのだろう。

瀧本監督は「チルソクの夏」のチーフ助監督、脚本は周南市出身で、「海猿」シリーズの福田靖さん。群像劇が得意な福田さんの持ち味も発揮されているし、全編ハードボイルド調に徹した瀧本監督の演出もいい。個人的には前作「樹の海」の方が好きだが、正統なサスペンス映画として楽しめた。

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