イキガミ  新作レビュー

見た日/10月某日 ★★★★

瀧本智行監督の第三作目。

瀧本監督は、佐々部監督の「陽はまた昇る」「チルソクの夏」でチーフ助監督を務めた方。構成が見事だった秀作「樹の海」、ミステリーとして上質だった「犯人に告ぐ」と来て、いよいよ満を持しての東宝配給によるメジャー作品だが、瀧本監督は荒唐無稽な原作コミックを実に上手く、秀逸な演出で料理している。

国家が無作為に若者を選んで死を与える、という法律が施行されている、現代日本によく似た社会。その法律があるからこそ、その社会は繁栄し、安定している。選ばれた若者に死を通告する「逝紙」すなわち“イキガミ”を配る公務員(松田翔太が好演)を狂言回しとして、イキガミが配られた3人の若者を軸に、3つのお話が語られていく。

設定に無理があるのが承知で、瀧本監督は24時間以内に「死」が決まっている若者がどう「死を選ぶか」のではなく、どう「生きるか」を、達者な役者と秀逸な演出で描いている、と感じた。

最近、安易な「死」を扱った、「泣ける」ことを謳ったどうしようもない日本映画が多い中で、表面的には「死」を前提としながら、実は「生」を描いた骨太な作品に仕上がっている。安易な件の作品群とは一線を画しており、この点では同時期公開の「おくりびと」とも共通する。まずはこういう「志」がある作品を、メジャーの東宝配給作品で挑戦したことに拍手を送りたい。

それぞれのお話には、「死」の対象となる人物と、その人物に対するもう一人の登場人物を対比させることで、瀧本監督はドラマを鮮やかなものにしている。すなわち、ミュージシャンである若者とかつて音楽仲間だった友人、引きこもりの青年と代議士であり件の法律擁護派の母親、チンピラの男と視力を失った妹、という風に。

「死」を前にした登場人物たちの行動によって、友情愛、親子愛、兄妹愛が鮮やかに浮かび上がってくるのだが、それぞれのエピソードは展開も表現もしっかりしていて、感情移入できる。とくにミュージシャン役の金井勇太氏、チンピラ役の山田孝之氏が素晴らしい。

惜しいのは、やはりこの法律の設定そのもの。かなり無理があり、この法律が社会に根付いていると考えると、ドラマの展開にも「そうなら、こうなるんじゃないの?」「そこは、それでいいの?」と突っ込むところは少々ある。

しかし、この法律そのものの矛盾や在り方を描くと、お話がかなり広がって中途半端になるし、そこは代議士のエピソードで留めたのもよく分かる。作り手は題材に無理があるのは百も承知であり、だからこそドラマを濃密にすることで作品の魅力を上げたのだと思う。

そこ(この法律の矛盾、設定の無理さ加減)を言いだすと、原作コミックそのものを論じることになってしまい、恐らく原作者や出版社の意向もかなりあっただろうから、その中でここまで良作に仕上げた瀧本監督の手腕を褒めるべきだろう。

そして、この作品のもうひとつの魅力。設定は荒唐無稽だが、国家権力の怖さは、実は現実社会においてもリアルな恐怖である、ということ…この辺りは、しっかりと伝わった。
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