歩いても 歩いても  新作レビュー

見た日/11月某日 ★★★★★

「誰も知らない」の是枝裕和監督作品。「誰も知らない」は衝撃的だった。母親に置いてぼりにされ、アパートで誰にも知られることなく、自力で生活していく幼ない兄弟たち。

特定の脚本は用意せず、プロの役者の出演も極力抑えながら、子どもたちにシチュエーションだけ与え、そこから自然に発生するリアクションを繋ぎあわせ、物語を構築していったという。

そこから生まれたリアリティは半端じゃなく、フィクションでありながら、擬似的なドキュメンタリーとも言える映画だった。

物語としての映画って、ある種、「痛み」が感じられるものが僕は傑作だと思う。それはアクションの痛み、恋愛の痛みなど、いろいろあるとは思うが、物語や登場人物に感情移入できるのは、その「痛み」があってこそ、だと思う。そういう意味では「誰も知らない」はよくできた作品だったと思う。

それから、是枝監督は練り上げた脚本による時代劇「花よりもなほ」を経て、この新作になった訳だが、この作品では、誰もが経験するような日常を、ある家族の物語として描きながらも、練り上げた脚本を、プロの役者たちがしっかりとした演技をしながら、その「日常」を表現する、という言わば「誰も知らない」とは逆のアプローチをしているところが興味深い。

開業医だった父親の家に、結婚して間もない次男が帰省してくる。相手の女性には連れ子がいて、次男は実は失業中で、気難しい父親がいる実家に帰るのに乗り気はしない。

帰ると、そこには帰って来る子どもや孫たちに料理を振る舞おうと張り切っている母がいて、隙あらば実家に住もうとしている、口うるさい姉と、気はいいがどこか抜けたその夫がいる…。やがて、その日は跡取りとして将来を嘱望されながら、海におぼれた少年を救おうとして亡くなった兄の命日だった…。

こうストーリーを記していても、何気ない話なのだが、この映画は、どこにでもありそうな、「家族の危うさ」をしっかりと描いている。

家族同士、何気ない生活を送っていても、年月が経ち、子どもが成長し、両親とも年老いていけば、言いたくないことも、秘密にしておきたいことは当然できる。子は親に隠したいこともあるし、親にも子に隠していることはある。

それがあるとき、親の隠れていた部分が、子が成長したとき、突然、垣間見えてしまうことがある。ショックを受ける子ども。そして親もまた、子どもの成長を、自分が快く思えない部分で感じてしまい、戸惑う瞬間がある。

僕も、似たような経験が実体験であるので、この映画はそういう意味ではそんな「痛み」を十分感じた作品だった。でも、この映画がいいのは、その「先」を描いていることだ。どんなにお互いがすれ違っても、感情的になっても、やっぱり家族は家族なのだ。家族だからこそ、分かりあえるし、許しあえる。そこを描いているからこそ、この映画で描かれている「痛み」はやがて「癒し」となる。

次男役の阿部寛がいい。「隠し砦の三悪人」と同じ人とは思えない。振り幅が広い、という意味ではこの役者さんはすスゴイと思う。キャラクターは強いけれども、きちんと「普通」の演技もできる、稀有な存在感だと思う。妻役の夏川結衣も色っぽくて、いい。「誰も知らない」の母親役が印象的だったYOUも、自然体でいい。

母親役の樹木希林も好演で、テキパキと火事をこなしながら、家族への想いや、長年開業医の妻として家族を支えながらも、抱えてきた“闇”の部分を感じさせる演技はさすが。

この“闇”こそ、女性の強さである、と思う。僕自身、母親が亡くなる直前、実は絵を描きたったのに結婚でそれができなかったこと、父が若い頃、荒れて誤って熱湯をかけてしまい、火傷を負ったことが、しばらくは心の傷になったことを聞いて、驚いたことがある。

その火傷の件も、絵のことも、今も時折思うことはあるが、それをひっくるめて父と結婚してよかった、としみじみ言う母親が愛おしかった。

母親が亡くなったとき、父から「お前には黙っていたが…」と言いながら、母親の火傷のことを告白し、「最後にもう一度、謝りたかった」と涙ぐむ年老いた父親もまた、愛おしかった。父に「母ちゃんから、その話は聞いていたよ」とは言えない、自分自身もまた、何だかもどかしかった。

日常の中から見える人間性を描いたホームドラマ、という点で、小津安二郎監督作と比べて評価するレビューも多く、海外の映画祭では「ライティ(軽量級の)小津」と評されたらしい。言われればそうかな、とは思うが、僕はこの作品は現代性も強く、小津監督作品とはあまり共通するものは感じなかった。

いずれにしても、家族の「痛み」と「再生」、そして「絆」を描いた、いい映画である。

0



トラックバックURL

トラックバック一覧とは、この記事にリンクしている関連ページの一覧です。あなたの記事をここに掲載したいときは、「記事を投稿してこのページにお知らせする」ボタンを押して記事を投稿するか(AutoPageを持っている方のみ)、記事の投稿のときに上のトラックバックURLを送信して投稿してください。
→トラックバックのより詳しい説明へ




AutoPage最新お知らせ