見た日/3月某日 ★★★★★

僕には大切な映画仲間さんたちがいるのだが、その若手の方々から「どうして70年代や80年代初めの映画はあんなにギラギラしているの?時代もギラギラしていたの?」と聞かれた。

「青春の殺人者」や「野獣死すべし」などの作品を鑑賞した彼女たちからの質問なのだが、それに対しては「イエス」ということになるのだろうな、と思う。まあ時代もギラギラしていたとは思うが、作り手もギラギラしていた、ということだろう。

80年代は、60年代から70年代に比べれば、若者を中心に軟弱化していった時代だとは思うけれども、映画の作り手、送り手はまだまだギラギラしていたようには思う。

映画は時代を写す鏡のようなもので、その内容は、時代を反映する。90年代以降、日本映画の雰囲気も随分変わり、シネコンの出現によって、徹底したマーケティングによるヒット作が生まれるようになってからは、かつてのギラギラ感を帯びた映画は、ほとんど無くなってきたように思う。

現代社会は何となく無機質で、ネットに代表されるように、コミュニケーションも希薄になっている。そんな中で、最近の多くの「日本映画」もまた、無機質になっている、と感じるのは僕だけだろうか。

もちろん、そんな中でも、作り手の「志」にあふれた、心に届く作品はあるのだが、その一方で、無機質でバリアーに覆われたような作品が多いのもまた事実、と思うのだ。それは、やはり、時代性なのだろう、と思う。

だから、そんな「無機質」な作品は、いくらスクリーンの中で大恋愛や大アクションが起ころうとも、スクリーンと観客の間に明確なバリアーがあるので、なかなか感情移入ができない。

言いかえれば、スクリーンの中でどんなドンパチや愛があろうとも、そのバリアーのせいで観客にそのとばっちりが来ることはないのだ。でも、そんなのが「いい映画」と言えるだろうか。いつも書いているが、ピリリと痛いのがいい映画だと僕は思う。

スクリーンの中で起きていることが、まるで自分のことのように感じられないと、暗闇の中、不特定多数の人たちと時間と感情を共有する意味なんて、何もないではないか。それこそが、「映画」という媒体の、最大の魅力ではないか。

しかし、多くの観客がそんな「安全圏」の中で、絵空事の「映画」を、「絵空事」のように感じながら「面白い」と思っている。これはもう、僕は「映画ではない」と思うし、それはテレビの役割だと思うのだが、どうだろうか。

ちょっと横道にそれたが、要は、逆に言えば、こんな無機質でコミュニケーションが希薄な時代だからこそ、そんな時代を反映した、今の「無機質な時代だからこそ」のピリリと痛い映画が作れる、と僕は思うのだが、この「接吻」はそんな数少ない映画のひとつだ。

この映画に描かれている事件や設定は、明らかに現実の事件を思わせる。犯人役の豊川悦司氏の役づくりも、ある現実の重大事件の元死刑囚を思わせる。その死刑囚を支援し、獄中結婚した女性がいた、という記事も読んだ記憶があるが、恐らくこの映画は、その事実にインスパイアされたものだろう。

しかし、事実はどうあれ、この映画の物語展開は、作り手の深い意識とメッセージ性に彩られたオリジナルなもので、そこにはやはり「現代社会」が抱える色々な問題点が見える。

ヒロインは20代の会社員だが「誰からも理解されない」と思っている。そのヒロインが、テレビで見た重大事件の容疑者の表情に魅せられ、自分と同じ境遇にあると思い、弁護士に連絡を取り、差し入れなどの支援をし、交流を深めていく。

孤独を抱えるヒロインが、社会性の中で拒絶されている容疑者とともに、ひとつの理想郷を作ろうとする様は、実に悲しく、切ない。すべてがマニュアル化している今の社会は、強くないと生きていけない。逆に、人と深く関わらなくても生きていける。

でも、全ての人が強いわけではないし、どこか人と関わっていないと、結局、人はどこかで破綻する。この映画のヒロインの気持ちは、誰にでも理解できるものではないと思うが、小池栄子の熱演、名演もあって、社会で行き場がないまま凶悪犯に惹かれ、そこにしか生きる価値を見出せないヒロインの気持ちが痛く、感情移入できるから不思議だ。

やがて、凶悪だったはずの犯人に「感情」が芽生え、ヒロインの「理想郷」が崩れ始めたとき、この映画は驚愕の展開を見せる。

異常な愛情関係の2人の間に入る、三角関係の一角である仲村トオル扮する弁護士がまた重要な役割を担っている。彼の役割は、言わば「社会の理性」の象徴だが、理性的だったはずの彼の気持ちの変化がまた衝撃的で、僕には現代社会の異常性に翻弄される多くの現代人でもある、と思った。

正に、今の時代だからこそ、の「ギラギラ」した映画である。劇場で見たかった。

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