劔岳 点の記  新作レビュー

観た日 3月某日 ★★★★★

「本物を撮る」ことにこだわり、2年間、スタッフ、キャストが劔岳でともに山ごもりをしながら、CGや空撮などは一切使わず、ただひたすらに撮影をした力作。そのベールを脱ぐのは6月20日なのだが、いち早く試写にて鑑賞させて頂いた。

最近のCG一辺倒の映画が、全て馬鹿馬鹿しくなるような、本物の輝きに満ちた映像であり、「映画」であった。

観る前は、素晴らしい景色が羅列しているような、記録映画のような作品かと想像していたのだが、それはいい意味で裏切られた。

確かに映像も素晴らしいが、この映画は、山に登る男たちそれぞれの想いが緻密に描かれていて、難攻不落の「劔岳」をストーリーの中心軸にしっかりと置き、きちっとまとまった、一本筋の通った「物語」を形成している。

そういう意味では、どんなに大変な撮影ではあっても、それを必要以上に強調することもなく、あくまでドラマ=物語に必要なシーンの一つとして、風景が存在している。圧倒的な景観も、まるで俳優の「1人」のように、そこに存在しているのだ。

俳優たちが圧倒的な困難な状態で演技をし、セリフを喋っている点も、スクリーンの中で展開している物語上の困難さと上手くリンクしていて、いい効果になっている。

物凄く苦労をして撮っているのに、そこを変にいばらず、ストーリーの邪魔になるわけでもなく、一本の映画の中にさりげなく織り込んでいる辺りは、さすがに木村大作監督。「八甲田山」「復活の日」「赤い月」など、困難な自然の中の撮影をこなしながら、ドラマ的にも一流の「絵」を創り出してきた名カメラマンならでは。

映画では、地図そのものの作成よりも、日本で最初に劔岳に登頂することにこだわる軍の上層部や、主人公たちよりも早く登頂しようとする日本山岳会のメンバーなどを描きながら、目的のため、黙々と挑み続ける男たちの姿とその想いが綴られていく。

「なぜ、山に登るのか」。それは、その男たちにとって、仕事であるからだ。それ以上でも、それ以下でもないのだ。周囲の過大な期待があろうとなかろうと、誰に評価されようとされまいと、ひたすら「仕事」に励む男たちがいる。

そこには、山に挑む男たちの子や妻の想いも描かれる。ここで描かれる「美しさ」は、景観以上に美しい、日本人がかつて持っていた心の「美しさ」だろう。実は、過酷な自然での撮影も、実はその心の美しさを描くための手段に過ぎないのではないか。素晴らしい景観は、その「心の美しさ」を描くための偉大なる演出である、と感じた。

浅野忠信の自然な佇まい、香川照之の秘めた熱さ、宮崎あおいの凛とした美しさ、松田龍平の人間らしさ、モロ師岡、蛍雪次郎らの自然体な存在感、役所広司の重さ等々、俳優さんたちもある種の「覚悟」を持ってこの映画に臨んでいる感が伺える。

安易な企画の日本映画が多い中、「映画」そのものの存在意義を問う、傑作である。
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