60歳のラブレター  新作レビュー

観た日 5月某日 ★★★

僕は、メール、とくに携帯メールが苦手だ。仕事で必要不可欠なので仕方がなく使っているが、メールだとなかなか真意が伝わらないことも多く、とくに仕事となると誤解があってはいけないので、表現に気を使う。

それが手書きの手紙やメモだと、短い、何気ない言葉や文章でも、心に染みいるから不思議だ。

この映画を観ていて、昔、学校から帰ると母親がテーブルに残してくれていたメモを思い出した。母は旅館で仲居をしていたので、僕が帰るとたいてい家にいなかった。

「マンデウ、ミズヤ。ハハ」「オカヘリ。ハハ」昭和3年生まれで小学校しか出てない母だったが、このカタカナだけで意味不明の文からも、母のぬくもりが感じられた。

「マンデウ」がまんじゅうであることを知って、「こんなの、分からないよ」と母に言うと、ちょっぴり悲しそうな顔をして、「母ちゃん、勉強してないからね」と笑った母の姿が、忘れられない。

この映画は、普段はなかなか面と向かって言われない感謝の言葉を、夫または妻に手紙で伝えようという銀行の企画を映画化したものだ。

映画では3組の夫婦、というか、ひと組は未婚のカップルなのだが、みんな還暦前後で、それぞれの人生を歩みながらも、どこか岐路に立たされている。

昔は40で不惑と言い、還暦と聞くとずいぶん老けたおじいちゃん、おばあちゃんを想像したものだが、時代も変わって、時代を感じる感性も若返った今の時代、還暦世代もコンピューターを扱えるし、ロックを愛し、もちろん恋もする。

考えてみると、僕も還暦まであと15年しかない。気持ちはいまだに高校生だが、そう考えると自分でも、ビックリしてしまう。

「三丁目の夕日」や「キサラギ」の古沢良太氏の脚本は相変わらず巧みで、3組の夫婦のすれ違いや感情の行き来をハラハラドキドキしながら見せてくれ、人にとって、周囲の愛する人たちの支えがどれだけ大切か、しっかりドラマで感じさせてくれる。

三つの「ラブレター」の見せ方もそれぞれ工夫がしてあって、とくにイッセー尾形氏と綾戸智恵氏のエピソードは秀逸。綾戸さんの自然体の演技はイッセー尾形氏のリズムと溶け合っていて、実に絶妙。ここの「ラブレター」は、完全にやられた、という感じ。

監督は32歳の若手として驚いたが、若いが故だろうか、演出も瑞々しく、オーソドックスではあるが、安心して見ていられた。

これだけ激賞していて、星三つなの?と言われそうだが、その理由は、僕が個人的に、メインエピソードの展開にちょっと不満があるから。でもこれは、人それぞれだろう。
映画はいろんな観方があるものだから。

詳しい展開は書かないが、僕はどうしても、石黒賢に同情しちゃう。それはまだ僕が大人になり切れてないからかな。
0



トラックバックURL

トラックバック一覧とは、この記事にリンクしている関連ページの一覧です。あなたの記事をここに掲載したいときは、「記事を投稿してこのページにお知らせする」ボタンを押して記事を投稿するか(AutoPageを持っている方のみ)、記事の投稿のときに上のトラックバックURLを送信して投稿してください。
→トラックバックのより詳しい説明へ




AutoPage最新お知らせ