大鹿村騒動記  新作レビュー

★★★★★

原田芳雄さん主演作にして遺作。出張先の名古屋でようやく鑑賞できた。

よくできた、大人のためのコメディーである。

テンガロンハットがよく似合う、ちょっと武骨だけれど気が良い、長野県の大鹿村で食堂を営む初老の男、風祭善が主人公。彼が営む食堂が「ディアイーター」というのが笑える。看板の文字は、どう見ても「ディアハンター」の日本版ポスターのロゴそのままだ。

彼は300年続く村の伝統文化、大鹿歌舞伎の看板俳優でもあり、心から歌舞伎を愛している。そんな村に、18年前にかけおちした善の妻と、善の幼馴染が帰ってきて、妻は認知症らしく、駆け落ちしたことすらおぼえてなくて…という物語だ。

ほのぼのとした三角関係に、村の人々のエピソードが絡んでいき、そんなドタバタ話が源氏の天下を悲しみ、ある衝撃的な行動を起こす平家の生き残りを描く大鹿歌舞伎の演目とリンクしていく。

性同一性障害や老いの問題などもさりげなく入れながら、短い上映時間ながら人間模様がしっかり描かれる見事な脚本は、「Wの悲劇」などの名脚本家、荒井晴彦氏と坂本順治監督の共作。このお2人、確か「KT」の脚本をめぐって以来、激しく対立していたはず、と認識していたが、原田さんの遺作で再び共闘してこんなに素晴らしい脚本を練ったなんて、ドラマチックで映画ファンとしては嬉しすぎる話である。

この映画に出てくる村人たちは、様々なことに翻弄され、さまざまな問題も抱えながら、時には対立するものの、やがて、芝居によって再生していくのである。その芝居である歌舞伎を、原田さんは「芸能の原点」と感じ、自らこの映画の企画を立てたという。

「演じる」ことによって、その芝居の世界を感じることでそれぞれが成長し、何かを乗り越えていくという物語を、すでにこのとき病気と闘っていた原田さんを中心に、実に芸達者で個性的な俳優たちが集まり、楽しそうに演じた、という事実そのものが、この映画を魅力的にしている。

原田さんがアップになる印象的なシーンがあるのだが、そこに僕は「竜馬暗殺」以来、失わない色気を感じてゾクゾクした。

近く、山口県のシネマスクエア7でも上映予定があるので、未見の方は是非、鑑賞してほしい。
2



トラックバックURL

トラックバック一覧とは、この記事にリンクしている関連ページの一覧です。あなたの記事をここに掲載したいときは、「記事を投稿してこのページにお知らせする」ボタンを押して記事を投稿するか(AutoPageを持っている方のみ)、記事の投稿のときに上のトラックバックURLを送信して投稿してください。
→トラックバックのより詳しい説明へ




AutoPage最新お知らせ