かぐや姫の物語  新作レビュー

★★★★★

圧倒的でした。

スクリーンから感じる、何とも言えない繊細さと気迫。物語性のある、ひとつの美術品を鑑賞した気分になりました。

日本のアニメーション技術は、作画技術だけでなく、その繊細な表現力・演出力に優れているから世界一なのだと僕は思います。

絵の積み重ねに過ぎないはずのアニメーションなのに、例えば日常描写を細かく描写することによって、登場人物たちの心情をシンプルな物語を深みのあるものにする・・・高畑勲監督は、稀代の演出力で「アルプスの少女ハイジ」や「赤毛のアン」などを作り上げてきました。

例えば、ハイジでクララが立つシーン。クララが立った瞬間、画面は次のカットでクララの目線となり、大地が上下して揺れます。客観と主観を交互に入れることによって、観客はクララの心情に寄り添うことになります。こうした演出を、丁寧に時間をかけて繊細にするのが高畑アニメの真骨頂でしょう。劇場用映画も同様で、人間の善悪を深く描いた「太陽の王子ホルスの大冒険」や、戦争における人の極限を描き切った「火垂るの墓」などはその最高峰だと思います。

その高畑監督が、人生の集大成として手がけたのがこの作品ではないのでしょうか。「まだ引退しない」と仰っているそうですが、70代後半でありながら、これほどの新しい意欲作に挑まれたことはすごい、と思います。

いわゆる、竹取物語を原作としたおとぎ話ですが、日本のおとぎ話を形にするために、墨絵をアニメーションにする、という途方もない技術に挑戦し、それを成功させ、ありえないほど高いクオリティに仕上げています。これだけでも驚嘆ですが、二時間近く見進めて行っても、その墨絵の雰囲気が、まったく飽きさせないのは、美術的にも鑑賞に堪えうる造形美を醸しているからでしょう。

物語は、よく知られているかぐや姫のお話ですが、かぐや姫がなぜ、地球にやってきたのか。なぜ、月に帰らなければならなかったのか。詳しく書くとネタバレになってしまいますので書きませんが、そこに、人の深い業と想いが込められます。

人は、人を深く想っていても、必ずしもその想いがその人のためにならないこともあります。人が人を想うことは素晴らしいことですが、ときに、その想いが深いゆえに人を苦しめ、傷つけることもあります。人間とは、憎しみ合いも愛し合いもするが、たがらこそ素晴らしい…そんな感情が、繊細に表現されていくかぐや姫の心情から痛いほど伝わってきます。

シンプルな物語だからこそ、人の想いが深く描かれる…「ハイジ」や「アン」などで高畑監督がアニメーション演出で追及してきた道の答えのひとつがここにある、と思いました。
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