ミッション・インポッシブル:ゴースト・プロトコル  新作レビュー

★★★★

トム・クルーズ主演大ヒットシリーズの第4弾。第1作のブライアン・デ・パルマ、第2作のジョン・ウー、第3作のJJエイブラムスと、このシリーズ、実は監督の個性がそれぞれ色濃く出でいる。

シリーズ全体を見渡すと、どんな素材もそつなくこなすJJエイブラムス監督の3作目が一番フツーの映画だったが、1作目はデパルマ節が唸っていたし、2作目なんざ、誰がどこどう見てもジョン・ウー印大爆発の作品に仕上がっていた。僕はトムが一瞬、チョウ・ユンファに見えたぐらいだ。でも、ジョン・ウー好きにとっては、この作品は捨てがたい魅力をピカピカと放っている。

そう言う意味ではこのシリーズは、テレビドラマ「ミッション・インポッシブル」(邦題は「スパイ大作戦」)を原作としながらも、基本コンセプトを継承しながらかなり自由に大胆に、007シリーズとは違うアプローチの現代スパイアクションとして発展してきた。

このシリーズ、どの作品もアクションはスリリングだが、とは言っても香港でのジャッキー・チェン映画のように身体を張るそれではなく、「身体を張るそれ」のようにプロフェッショナルに見せてくれるハリウッド的な安全・安心なアクションの典型的なものではあるが、その最高峰として位置している、と言っていい。これは製作も兼ねているトム・クルーズの貪欲な製作意欲と志に負うところが大きいだろう。

で、この4作目だが、ブラッド・バード監督の個性が発揮されている。大傑作「アイアン・ジャイアント」などで知られるアニメ出身の監督らしく、空間の使い方が見事で、とくにクライマックスの立体駐車場でのシーンは珍しい「縦」を生かしたアクションとして語り継がれるだろう。

実は、全シリーズ中、最も原作の「スパイ大作戦」に近く、ハイテクスパイ武器がたくさん出てくるし、不可能を可能にするひとつひとつの作戦は、原作シリーズが持つ面白さに近いものがある。そのハイテク武器が今一つ機能しないのも御愛嬌で、ユーモアもちりばめられている。

3

がんばっぺフラガール!〜フクシマに生きる。彼女たちの今〜  新作レビュー

★★★★★

東日本大震災で被災した、福島県のスパリゾートハワイアンズ。昨年、休業を余儀なくされ、その間、同施設のフラガールたちは映画「フラガール」で描かれたオープン時以来の全国キャラバンを展開した。

その、「フラガール」たちのキャラバンを描いたドキュメンタリー…のはずなのだが、この映画では、実はキャラバンを展開する「フラガール」たちの姿を、あまり描いていない。

小林正樹監督の興味は、実はそこにあまり向いてない。

もちろん、キャラバンの様子は描かれているのだけれど、そこは意外にサラっとしていて、恐らくテレビで放送されたドキュメンタリー番組の方がかなり詳しいだろうと思う。

この「映画」でまず描かれるのは、スパリゾートハワイアンズの深刻な被災状況から始まって、そこに勤める人たちの意外な前向きさ、そこへ避難してきた方々の厳しくも苦しい本音、そして従業員たちとの交流と感謝である。

小林監督の目は、フラガールよりも、ファイヤーダンサーズの男性ダンサーたちに向けられる。彼らは火を扱うため、消防法の関係でキャラバンでは踊ることはできない。妻や子もおり、背負っているものも大きい。休業中、裏方をやりながら先が読めない中、ただひたすら身体を鍛えるその姿が語りかけるものは悲壮感と強さが混じる。

そして、監督とフラガールたちのサブリーダーとの交流。彼女は福島第一原発のすぐそばに家がある。最初は距離があった監督と彼女は、ふとしたきっかけで距離感が縮まり、家族にも取材をする。この辺りがリアルに感じられるところがドキュメンタリーの面白さであり、優れた点だろう。

最初の一時帰宅で、バスの外で取材をする他の報道陣を横目に、監督は防護服を着て、彼女の家族とともに自宅周辺に入る。

このリアルさは凄い。

報道のカメラが一切入ってない時期だけに、映像で全てが語られる。あのとき、フクシマで何が起きたのか。記録としても貴重なものになるだろう。そして、ここで暮らしてきた一般の家族の想い。原発とは何なのか。なぜ、こうなったのか。怒りと憤りを感じる。

やがて映画は、彼女を含めたフラガールたちが、再開が決まったスパリゾートハワイアンズで、再び舞台に立つシーンがクライマックスとなる。このシーンは映画「フラガール」のカット割を踏襲しているが、あの映画とは違い、役者ではなく本物のフラガールたちの「本物」の迫力と、久しぶりに舞台に立てた喜びが画面にあふれていて、鳥肌が立つ。

しかし、大変なのはこれからだ。地震、津波、そして原発事故。フクシマの不安は、まだ現実の不安だが、そこから立ち上がる人々の「希望」を描いたことで、この映画は2011年に製作された、決して人々が記憶に留めておくべき一本になったと思う。

僕はこの映画の上映を山口県で企画する機会を与えられ、小林監督とのトークショーの司会もさせて頂いた。事前に現地を見ようと福島県を訪れ、いわき市役所の方に震災当時の色々な話も聞き、津波の被害があった被災地にも行った。

地震から約一年経過していたが、ガレキの山や津波の被害が最も大きい場所、仮設住宅などを実際に訪れ、様々なことを思った。いわき市は原発周辺の地域に住んでいた多くの方々が避難していた。仮設住宅のほとんどがこうした方たちの住居になっている。

いわきから福島第一原発までは40キロほどだが、「住んでいたところに比較的近い、海に近いところで暮らしたい」という思いがあって、いわき市へ避難されている方が多い、ということだった。

スパリゾートハワイアンズも訪れゆっくりて温泉にも浸かってきたが、帰るとき、美しい福島の海と夕焼けの空にも接して、何だか涙があふれてきた。この体験は、この映画とともに一生忘れないだろう。

3

新作レビュー9連発!  新作レビュー

昨年から今年にかけて観た映画のレビューがまだまだたまっているので、それぞれ短めに書きます。まだレビューを書いてない作品はいっぱいありますが、まずはこれで御勘弁を。

◎ワイルド7
★★★
あの「ワイルド7」を映画化とは!小学生時代、原作に憧れた身としては心配と興奮が交錯。バイクアクション、頑張っている。物語展開も面白い。なかなか公道等でこれだけのアクションシーンを撮るのは大変だっただろう。ロケ地は小倉らしいが、これは、「おっぱいパレー」等で築かれた、羽住監督と北九州市との信頼関係に依るところが大きい。これは、地方の映画文化発展にもいい傾向だ。残念なのは、原作の設定を現代に置き換える作業に腐心しすぎたのか、「ワイルド7」がやや「マイルド7」になった点。後半、機動隊のぞんざいな扱われ方も含め、もう少しワイルドだぜえ、と行きたかったかな。

◎聯合艦隊司令長官 山本五十六
★★
「八日目の蝉」と同じ、成島出監督とは思えないなあ。役者さんたちは熱演なのだが、密室での会話劇が中心で、いくら史実を基調とした重厚な歴史劇と言っても、緩急のない演出はちょっと辛い。合間の特撮も、スケール感がないのはどうしてだろう。僕が現在最も評価している特撮の名手・沸田監督らしさがあまり感じられない仕上がりが少し残念。

◎マイウェイ 12000キロの真実
★★★★
韓国映画なので、日本軍の描き方に賛否両論あるのは仕方ないと思うが、戦闘シーンの迫力、命知らずの撮影は、かつての香港映画を思い出す。ノルマンディー上陸作戦は「プライベートライアン」での描写が最高とは思うが、ここにはハリウッド的な「きれいさ」は全くなく、壮絶な泥臭さが漂う。やはり、世界の映画界を見ても、韓国映画は勢いがある。突っ込み所は満載だし、主人公の心情の変化を描ききれてない部分はあるものの、戦争に翻弄される兵士たちの過酷な運命を描いたエネルギッシュな力作。

◎ALWAYS 三丁目の夕日 64
★★★
三丁目の住人たちによる、ノスタルジーと人情2作目までに使い果たした感があるかな。観ている間は涙が何度も何度もあふれたが、少し時間が経つとあまり印象が残っていないのは何故だろう。ベタに徹するのがこのシリーズのいいところだが、二作目と三作目は、一作目の指輪を巡るエピソードを超えてない。ちなみに、僕も64年生まれ。僕らは、テクノロジーの発展が一般の家庭生活に影響を及ぼしたことが肌身で実感できる世代なのね、としみじみ思う。3Dで観たが、東京タワーが飛び出すシーンは良かった。あと、涙が出ると3Dメガネが邪魔と言うことに初めて気づく。

◎ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
★★★★
「きみに読む物語」のスティーブン・ダルドリー監督の最新作。3・11同時多発テロで命を失った男が残したメッセージを、息子である少年が街を旅し、様々な人と出会いながら、見つけて行く。少年の繊細な気持ちが感じられる演出はさすがで、「リトル・ダンサー」以来、この監督さんの手腕は本当に見事。伝えられていく人の「想い」を描いた秀作。

◎キツツキと雨
★★★
いわゆる、映画製作の裏側を描いた、バックステージ物だ。不本意な題材の映画を押し付けられ、現場から逃げ出してしまうような若い監督と、映画に協力をするようになった木こりのお話。監督役の小栗旬氏、木こり役の役所広司氏ともに好演。最初は胡散臭く思っていた地元の木こりが、自分の息子と監督が同じ名前と知ってから親近感が湧き、次第に地元スタッフとして映画づくりにはまっていく様がおかしい。山口県での映画づくりをお手伝いするうちにはまって会社まで辞めてしまった僕に完全にダブって、映画館で大笑いしてしまった。ただ、劇中の映画を、ゾンビ映画にしなくても…と思ったのは正直な感想。

◎テルマエロマエ
★★★
おバカなお話を、大真面目に作っている点に好感。チネチッタスタジオを使った古代ローマのシーンなどは観るべきところ大いにあり。前半のギャグは笑わせてくれるし、後半の史劇と現代日本人が絡んでくる辺りもよく練られている。ただし、演出が少々テレビドラマ的で、せっかくのスケール感が惜しい点があったかも。

◎宇宙兄弟
★★★
この作品の森義隆監督の「ひゃくはち」は大傑作だ。高校野球を題材に、青春の躍動感と挫折感を鮮やかに表現した、エネルギッシュな秀作だった。その森監督の新作ということで期待して鑑賞。「宇宙」を表現した日本映画では最高位に位置するだろう。宇宙に挑む兄弟の描写は、「ひゃくはち」を彷彿とさせる。ただし、月での重力の描き方や外国人俳優の扱いにもう少し配慮すれば、もっと傑作になっただろうに、と思う。後半の展開は賛否両論あろうが、僕は好感が持てた。ただ、未完の原作人気漫画に振り回されて感は少しある。

◎幸せの教室
★★★
コメディなのか、恋愛映画なのか、中途半端な作品だが、日本と違って無試験で基本的に誰でも入れるアメリカの短大の教育システムはなかなか興味深い。ドラマを描くと言うより、学歴が理由でリストラされ、大学に入学した中年主人公の貴重な「経験」をライトタッチで描いた物語。その「経験」こそがこの映画の魅力であり、そこに余り複雑で深いものを求めてはいけない。そういう意味ではこの邦題「幸せの教室」は違うかも。

2

わが母の記  新作レビュー

原田眞人監督作品「わが母の記」、4月28日から全国ロードショーが始まりました。

僕は「シネKING」で原田監督と主演の役所広司さんにインタビューをさせて頂きました。放送は4月20日でしたが、収録は一カ月前、広島のホテル。作品はその数日前に、一足早く鑑賞させて頂きました。

昭和を背景にした「家族」の物語であり、松竹配給ということで“小津映画”を思い出しますが、精神的な部分で敬意を表しながらも、原田監督独特のカット割から始まって、いつの間にかじっくりと役者さんたちのお芝居をしっかりと見せてくれる、秀作でした。

樹木希林さんが本当にぼけているのか正気なのかわからない母親役を好演していますが、母親と息子である主人公の間にある“わだかまり”の正体がなかなかわからない、ある種のミステリーのような仕掛けもあって、ここがわかる展開は、かなりグッと来ます。脚本の構成も上手いなあ、と思いました。

僕が感嘆したのは、主人公の娘役の宮ざきあおいさん。(さきを正しい漢字で書くと文字化けするようです。)セーラー服姿の中学生から艶やかな娘になるまで、自然体で好演していました。「ツレがうつになりまして。」から、グッと良くなった感じがします。


映画評論家出身で、古今東西の映画に精通していらっしゃる原田監督らしく、小津安二郎監督やイングマール・ベルイマンのことがセリフに登場していて、映画通ならニヤリとするでしょう。

インタビューは緊張しました。カメラが回る前に「お2人のコンビは僕にとっては、傑作『KAMIKAZE TAXI』です」と言うと、原田監督「我々もそうですよ」と一言。嬉しかったです。

「ラストサムライ」では役者として明治天皇の側近を演じられた原田監督ですが、幕末に活躍した木戸孝允がお好きだそうで、以前、実現はしなかったハリウッド映画の企画で、「スターウォーズ 帝国の逆襲」の故アーヴィン・カーシュナー監督と一緒に山口市湯田温泉(僕の実家があるところ)の松田屋ホテルに泊られたとき、木戸孝允ら維新の志士たちと縁が深いホテルと聞いて感動した旨のお話をして下さいました。

…アーヴィン・カーシュナー監督が、原田監督と実家の近くの湯田温泉の松田屋に泊まった…。そういえば、俺の母ちゃんはあそこで時々仲居さんをやっていたぞ…帝国の逆襲は旧三部作でいちばん好きだぞ!「ネバー・セイ・ネバーアゲイン」も好きだった…ぐるぐると僕の頭が回り始めながらも、緊張が和らぎました。

原田監督は井上靖さんの高校の後輩にあたるそうです。今回、井上靖さんが実際に過ごされた家や別荘で撮影したそうで、映画にもその重みは十分伝わってきます。最初は階段とその周辺だけで撮る予定が、いつの間にか家全体で撮影し、別荘まで広がり、最後は全面協力になったそうです。

役所さんは佇まいがとっても素敵な方でした。

シネKING、今年からはどんどん監督さんや俳優さんにも出演して頂く予定です。皆さん、お楽しみに!!

※途中、文字化けしていたようで、戻しました。今度は大丈夫かな?
5

5連発ショートレビュー!  新作レビュー

昨年観た映画の5連発ショートレビューです。

マネーボール
★★★★
ブラッド・ピットかっけえ。FAなどで次々と有力選手が抜ける中、選手出身のGMが出塁率を重視する「マネーボール理論」で大リーグのアスレティックスを強くするお話。主人公が期待されてプロになりながら挫折した過去を描くことで、物語に深みを与えている。「野球とは人生そのものだ」とは長嶋茂雄氏の名言だが、野球に絡めて人生を描くとハリウッドは上手い。試合シーンはそれほど多くないがリアリティがある。

リアル・スティール
★★★
物語は予定調和のチャンピオンという感じで、おなじみモンタージュ技法大爆発の「いつものヤツ」。この種のハリウッド映画は何100本観ただろうかと思うけれど、戦うのが人間でなくロボット、というのがミソ。これは「プラレス三四郎」ではないか、とも思うが、この手のコンテンツの原産国である日本への敬意も描いている。「わかっちゃいるけど」ラストは燃える。ベタの王道をどこまで貫くのも、ここまで徹底的にやってくれると逆に嬉しい。

アジョシ
★★★★
ウォンビンの魅力に尽きる。彼の整った顔に、何とも言えない憂いが漂う。この一点で、この映画は単なるアクションに終わっていない。アクションに肉体の痛みを伴う描写があるのは昨今の韓国映画の特徴だが、それだけにリアルな感情移入ができる。最近の日本映画はアクションも甘いものが多いが、この映画が韓国で大ヒットした、という事実に驚く。韓国では、一般の観客がリアルな痛みを伴う映画を受け入れているのだ。

映画 怪物くん
★★
中村義洋監督というので、バラエティ感の中にも作家性があるのでは、と期待したのだが…。テンポが遅めに感じたのは僕だけ?架空のカレー国が舞台なら、もっとキッチュに、インド風味たっぷりではじけてもよかったのでは。ヒロインは可愛い。

RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ
★★★★
どこにでもいる、熟年を迎えた夫婦のすれ違いを描く。さまざまな障害を乗り越え、一時は修復不可能と思われた夫婦の絆の再生が、夫の職業である電車の運転士と絡み、「電車」を通して描かれている点が秀逸。人生もまた様々な駅で停車しながら進んで行く鉄道のようなものである。三浦友和氏は自然に中年男の頑固さや不器用さを演じている。娘役の小池栄子氏が印象に残る。

2

ハードロマンチッカー  新作レビュー

★★★

まず、主演の松田翔太氏がいい。松田優作氏を心から敬愛する身としては、下関を舞台に、アクションを展開する翔太氏をスクリーンで観ることができるとは…という何とも言えない感慨が胸に迫る。

この映画の公開時、「シネKING」でグ・スーヨン監督と遠藤要さん、柄本時生さんにインタビューさせて頂いた。下関出身で、自伝的小説を自ら映画化されたグ監督はダンディーな方で「この映画を観て下関がバイオレンスシティーって思われるのも困りますねえ」と優しい笑顔で語っておられた。

この映画、自分の意思とは関係なく、暴力に巻き込まれていく若者グーが主人公。確かにあの時代の「下関の空気感」はよく現れていて、心情を描くことなく、暴力の連鎖に翻弄されつつも立ち向かうグーを淡々と描くことで、乾いた痛みが伝わって来る。

決してウエットにならないのはグ監督の味だろう。それだけにグーを心配する津島恵子さんの祖母や真木蔵人氏の先輩ヤクザの存在が際立つ。ただ、時代設定は現代にせず、“ハードロマンチッカー”たちが活躍した70年代にした方が、映画が“生きた”のかな、とは勝手な感想である。

1

ミッション:8ミニッツ  新作レビュー

★★★★

SF映画なのだけれど、現実世界にSF的な要素を組み入れる、という僕の好きな世界。

大昔、NHKの少年ドラマが大好きだった。それは、自分たちの日常に近い、普通の中学校や高校に未来人や異次元人が絡む非日常が隣り合わせの世界だからこそ、ワクワクドキドキしたのだと思う。

ブランコでタイムリープする「未来からの挑戦」は、ジュブナイル作品も多い眉村卓の「ねらわれた学園」が原作で、キャラクターは同じ作者の「地獄の才能」から借りている。

物語のラインはのちのち薬師丸ひろ子主演で映画化もされた「ねらわれた学園」とほぼ一緒で、学園を支配する高見沢みちる率いる栄光塾と生徒たちの攻防を描いているのだが、原作と決定的に違うのは、栄光塾の未来人である飛鳥清明が組織を裏切って主人公たちに味方し、ともに戦うという展開だった。ファシズムの恐怖や反戦が裏テーマになっていて、卒業を控えた小学六年生だった僕は毎日夢中になって観たものだった。

「スター・ウォーズ」などの架空の世界も好きだが、どこか自分の日常に繋がる世界を描いてないと感情移入はしにくい。架空の世界を描いていても、現代が抱える虚無感のようなものをビジュアル的にも物語的にも表現した「ブレードランナー」の方が心ひかれる。

おっと、これは「ミッション:8ミニッツ」のレビューだった。この物語も、日常の中の非日常な出来ごとを描いているから面白いのだが、その「非日常」が、えんえんと繰り返される8分間の列車事故のシーンというから、なかなかのユニークさである。

ある軍人が、特殊な作戦と装置によって、列車事故の原因を調べるため、8分間だけ、何度も何度もその中の乗客の意識に入り込む。映画は何度も同じシーンが繰り返されるのだが、その繰り返しの8分間の中で主人公は真相に近づき、自らの境遇や作戦そのものの疑問の答えに迫っていく。

若手でデヴィッド・ボウイの息子でもあるというダンカン・ジョーンズ監督は、奇想天外な物語を、テンポのいい演出と飽きさせない仕掛けでぐいぐい見せてくれる。ニコラス・ケイジが好演で、父親が絡んでくるシーンは情感もあって物語に深みも与えている。

個人的に惜しいのはラストの展開なのだが、ハリウッドに屈したのか、それともこれもダンカン・ジョーンズ監督の判断なのか。僕はしっくりこなかったのだが、他の方々はどうなんだろう。
2

僕にとっての2012年スタート!  新作レビュー

長い間、更新せず、本当にすみません。

心配してメールや電話を下さった方もいらっしゃいました。

本当にありがとうございました。

とりあえず、ブログを休んでいる時に観た映画のレビューを何本かアップしました。昨年観たものでまだレビューを書いてない映画がたくさんあるので、おいおい書きます。

気力はあったのですが、昨年秋から今年の初めにかけて激務と体調不良が続き、ついにダウンしてしまいました。医者は「過労」だと…。何とか休みながら、ようやく落ち着きました。長いトンネルを抜けた感じです。

仕事も頑張っています。

昨日、僕がMCをしている「シネKING」の収録で、原田眞人監督と役所広司さんに広島でインタビューしてきました。4月28日公開「わが母の記」紹介の回で、4月20日放送予定です。山口県の方は是非ご覧ください!

周南映画祭第4回も始動。脚本賞の「松田優作賞」いよいよ応募受付が始まりました。きょう現在で国内、そしてアメリカから7本の脚本が届きました。優作さんのお名前を頂く重みと、その「意味」に襟を正していこうと決意しています。映画祭も様々なプロジェクトが始まります。こちらも頑張ります。

先月、福島県に行ってきました。「がんばっぺフラガール!」上映企画のため、現地を見てこようと思い行ったのですが、いろいろと感じることがありました。映画のお陰で、1年遅れですが被災地の現状を見ることができたことに感謝しています。

…ということで、かなり遅れましたが、例年恒例の、昨年公開された映画のマイベストテンを記します。

■日本映画
@ツレがうつになりまして。
A日輪の遺産
B探偵はBARにいる
Cがんばっぺフラガール!〜フクシマに生きる。彼女たちのいま〜
D電人ザボーガー
E僕たちは世界を変えることができない。But,we wanna build a school in Cambodia.
Fオーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー
GRAILWAYS〜愛を伝えられない大人たちへ
H阪急電車 片道15分の奇跡
I冷たい熱帯魚

■外国映画
@悲しみのミルク
Aアジョシ
BXMEN:ファースト・ジェネレーション
Cブラック・スワン
D塔の上のラプンツェル
Eマネーボール
F英国王のスピーチ
Gミッション:8ミニッツ
H猿の惑星 創世記〜ジェネシス
Iマイウェイ 12000キロの真実

2

ツレがうつになりまして。  新作レビュー

★★★★★★

「映画日記」史上初の、6つ★です。

「障がいなんか、笑い飛ばせばいい」とは、僕が尊敬するある人の言葉。

笑いとばすことと、馬鹿にすることは違う。どうしようもないほどのできないこと、困難なことは大変で辛いことではあるが、それを受け入れ、笑い飛ばすことも大切なことだ。

身体や心の病、障がいは、誰にとっても、決して他人事ではない。世の中には、いろいろな生き辛さがあるのだ。

僕も発達障がいのひとつである、学習障がい(LD)という個性を持つ。詳しくはNHK公式HP内ハートネットピープルの僕のコラム「計算できんで何が悪いとや」↓http://www.nhk.or.jp/heart-net/program/index.html
をご覧頂きたい。

一見しただけでは、他の人と区別がつかないのでなかなか理解されにくい、できないことや苦手なことが、本人の努力不足や気持ちの強弱のせいなどが原因と誤解されやすいことなどは、発達障がいもまた、心の病と似ているかもしれない。

この映画の凄いところは、「うつ病」という誰もがなる可能性がありながら、誰もが知らない、一般社会的にはまだ理解が十分ではない病を「娯楽映画」というエンターテインメイントの中で描いたことだ。

病そのものの説明も描きながら、この病を抱える人やその周囲の人たち、つまりはあらゆる病や障がいを抱えている人やその周囲の人たち希望を抱き、少しずつでも歩む様を、温かな視点で細やかに描いている点にある。

もちろん、「うつ病」と一言に言っても、人によって症状は様々だろうし、「この映画のように甘くない」という人もいるだろう。しかし、佐々部監督はそうした批判は覚悟の上でこの映画を作ったのだという。結果的に、この映画は、あらゆる病気や障がいに向き合う人やその家族、周囲の人々にとって、大きな「希望」と「処方箋」となる映画になった。その監督の「志」に感謝したい。

佐々部監督の優しく、温かなまなざしと心が、恐らくこの映画に関わったスタッフ、キャストを大きく包んだのではないだろうか。主役の2人が素晴らしいのは僕が書くまでもないのだが、脇を固める役者たちのバランスが見事で、日本家屋のセットなど美術やキャストの衣装、イグアナの表情に至るまで、細部に「気持ち」が感じられる。

僕のある友人は、緊張感あふれる仕事が続いていたとき、この映画を観て「頑張らなくてもいいんだ」と思ったそうだ。この映画のもうひとつの大切なポイントは「ユーモア」で、病を笑い飛ばしている点も大きい。馬鹿にするのではなく、笑い飛ばすこと、これが本当に大切なのだと思う。

6

電人ザボーガー  新作レビュー

★★★★★

70年代は特撮ヒーローが最も花盛りだった時代だろう。

「ウルトラマン」に始まる円谷プロダクション系、「仮面ライダー」に始まる東映+石森(当時はまだ石ノ森ではない)章太郎原作系の王道の流れとは別に、うしおそうじ率いるピープロダクションや「アイアンキング」「シルバー仮面」などの宣弘社など、マイナーながら独自路線を突っ走る特撮ヒーローが多数存在した。

中でもピー・プロダクションは「怪傑ライオン丸」や「宇宙猿人ゴリ」(のちの「スペクトルマン」)など、異彩を放っていた。

ヒーローや怪獣のデザインはもちろん、サイケデリックで独特な色遣いのマットアートなど、円谷プロ系や東映系にはない独特な感性があり、社会性を取り入れた物語性もあって、王道も好きだけどアウトサイダーも大好きな小学生の僕は完全に魅了されていた。

うしおそうじ氏は円谷英二監督の弟子に当たり、円谷特撮の流れを汲むが、低予算ながら独自の感性を取り入れた特撮物を産み出していた。うしお氏とピー・プロは劇場用映画も松竹の大傑作ホラー「吸血鬼ゴケミドロ」の企画と特撮も担当している。

ちなみに、毒々しい赤い空の下で旅客機が飛ぶ「ゴケミドロ」でのシーンは、この作品に大きな衝撃を受けたとされるクエンティン・タランティーノが「キル・ビルVol1」でそのまんま取り入れてオマージュを捧げている。

そんな、ハリウッドにまで影響を与えたピー・プロの傑作特撮ヒーローのひとつが、「電人ザボーガー」だった。バイクがロボットに変形するなんざ、トランスフォーマーの先駆けだろう。

「ザボーガー」の放映時、僕は小学校4年生。ザボーガーはなかなかの荒唐無稽でぶっ飛んだお話だったのだが、僕はそこが気に入ってはいたが、ちとリアルに欠けていたので、自分でオリジナルストーリーの「ザボーガー」の漫画を描いていた。そういう意味ではこの作品への思い入れは強く、変なリメイクなら許さんぞ、という想いでこの映画を観た。

井口昇監督は、なかなかツボを心得ている。70年代の特撮物のチープな雰囲気を残しながら、最新のCGを使って見せるところは見せ、全体の物語も、親子の愛情や中年の悲哀など、しっかり感じさせてくれるドラマを作り込んでいて感動した。

こんな感じで仮面ライダーも作ればいいのに、と思いながら、まああちらは大メジャーでチープ感は出せないだろうが。僕的にはこのノリで「スペクトルマン」もリメイクしてほしい。あと、宣弘社製の「アイアンキング」なんか、いいけどなあ…。

2

僕たちは世界を変えることができない。But,we wanna build a school in Cambodia.  新作レビュー

★★★★

深作健太監督作品。

アクションのイメージが強い深作監督だが、この作品を観ると、真摯なまなざしで映画に向き合っていることが伺える。

「バトル・ロワイアル」のキャンペーンで、健太監督と、その父君で僕が大尊敬している故・深作欣二監督とともにお会いし、お話をさせて頂いたことがある。

話はそれるが、このとき、「バトル・ロワイアル」試写のあと、高校生と深作欣二監督の討論会の司会をさせて頂いたのだが、深作欣二監督は「ビートたけしが演じた先生がかわいそうだった」という徳山の女子高校生の感想をいたく気に入られ、そののちの国会議員との討論会でも「あんたたちよりよっぽど女子高校生の方がこの映画のことを分かっている」と仰られたそうだ。

深作健太監督、このときはプロデュースと脚本を担当されていて、監督デビューの前だったが、腰が低く、いつもにこやかな方で、やはり少年のころからの映画好きということで、いろいろと映画のお話をさせて頂き、楽しい時間を過ごさせて頂いた。

そのまっすぐさが、この作品にも貫かれている。

この映画、実話の映画化ということだが、主人公の大学生たちがカンボジアに学校を建てるため、視察で現地に行くシーンがかなりのシーンを占めているのだが、そのシーンはまったくのドキュメンタリーの様相を見せる。

ガイドも原作者を案内したという現実の方であり、カンボジアに今も残る内戦や虐殺の跡地、厳しい現実の場所における若い役者たちの衝撃や嗚咽などのリアクションは、役のそれではなく、間違いなく素の反応である。

カンボジアでのシーンを挟んで日本での状況が「ドラマ」として描かれていく。普通、ドキュメンタリー的要素をフィクションに入れるとバランスが崩れるのだが、この映画ではカンボジアの歴史と現状をリアルに紹介する部分の前後に「なぜカンボジアに学校を建てようと思ったのか」「厳しい現実を見て、困難な状況も出てきて、果たして学校が本当に建つのか」というノンフィクションを前提にした“フィクション”を描くことで、かえってドラマとドキュメンタリー的な部分の対比が鮮やかになった。

若手俳優たちの熱演も光る。


1

阪急電車〜片道15分の奇跡  新作レビュー

★★★★

素敵な映画。

いくつもの物語がやがてひとつにまとまる映画は昔から古今東西にあるが、この作品は世代や環境が違ういくつもの人たちのエピソードを描き、やがてその人間模様が絡んで行く。

登場人物たちの共通点は阪急電車のある沿線(片道15分)を利用していること。登場人物たちが出会う舞台を電車にしたことで物語は横に広がる。で、沿線の各駅の近くの大学や住宅、アパートなどがそれぞれの物語の核になることで、物語は縦に広がる。ということで、ストーリーが立体的に繋がる、という効果がいい方に出た。

複数のエピソードが絡む群像劇は整理整頓が難しく感情移入できない映画作品も多いが、この映画は成功している。

部下にフィアンセを取られて復讐しようとするヒロイン、彼氏のDV(身近な人による暴力)に悩む女子大生、息子夫婦と上手くいってない孫娘を連れた老女、いやいや大阪のオバハン仲間に高い食事に誘われ出かけてしまう気弱な主婦、軍事オタクの大学生とその同級生で流行に鈍感な女子大生、純粋な彼氏に心ひかれながら大学受験に悩む女子高校生、いじめに悩んでいる女子小学生…こういう人たちが電車や駅での「出会い」によって、少しだが成長していく。

人はどこかしら弱さや痛みを抱えているもの。ふとした街中での「出会い」が、そこをちょっぴり癒してくれる…しかし、他人に無関心な現実では難しいことかも。これは実はありそうで、ありえないファンタジーなのかもしれない。でも、電車や街で出会った、見て見ぬふりはできないような他人の「人生」に出会ったとき、そこに関わる勇気や優しさは、今の時代だからこそ、必要なものだろう。
2

猿の惑星 創世記〜ジェネシス  新作レビュー

★★★★

あの「猿の惑星」のタイトルの映画を、今再び鑑賞しようとは…!

少年の日、水曜ロードショー(金曜ロードショーの前身ね)で観た「猿の惑星」は本当に衝撃だった。

あのラストは、映画史に残ると思う。正に、「絵」で全ての説明をする、という意味で衝撃だった。これこそ映画の醍醐味だ、と感動したことを覚えている。

あと、映画には文明批判も盛り込んでいて、そういう意味では生命の進化をテーマにした「2001年宇宙の旅」とともに、それまで「SF映画は子どものもの」という概念を覆した名作であり、僕にとって主演のチャールトン・ヘストンと言えば、水曜ロードショー(くどいけど、金曜ロードショーではない)で繰り返される放送される、この映画と「黒い絨毯」だったものだ。

で、この映画だが、どの雑誌やサイトの紹介を見ても、「なぜ○○が○の○○になったか、その始まりを描いている」等と書いてあって、それじゃあ、あの名作の第1作のオチをバラすことなるのである!!

これから、DVD等で初めて「猿の惑星」を観る人だっているはずである。もうちょっと、配慮してほしいと思うが、それだけあの映画の物語は周知の事実になっているのだろう。

この映画、オリジナルにオマージュを捧げている場面やセリフも多く、お話が現代のアメリカになるところなどは、シリーズ6作目を思い出す。旧シリーズは壮大なスケールに発展していく(決してシリーズ2作以降は面白い、とは言えない)が、主人公の名前などは、旧シリーズを観ている人ならニヤリとするだろう。

オリジナルにあった文明批判が影を潜めたのは、時代の変化に依るところも大きい。アルツハイマーの新薬を巡る話が核にあって、そこに文明批判も感じはするが、全体的には娯楽作に徹している。

主人公やその恋人、父親、薬品会社の上司の人物設定など、はっきり言って、最近のハリウッド大作に見られる予定調和的な物語展開ではあるのだが、見応えはある。

人間であるはずの観客が反乱を起こす猿側に感情移入できるよう物語が上手く練られていて、ビジュアル的にも優れている。

役者の演技をCGに反映するモーションキャプチャーを駆使した、オールCGで表現された猿たちの表情や動きは実に見事。21世紀に入って映画技術の進歩を感じる一瞬である。

主人公の猿が感情を爆発させるシーンは、オリジナルに続いていく重要な場面であり、感涙物のいいシーンだと思う。

技術に頼らず、感情移入がきっちりできるのは、やはり脚本がいいからだろう。昨今のSFやアクションはその点が足らないものが多い。「猿の惑星」というタイトルの映画で言うと、私的には名作の第一作に告ぐ満足度だった。
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よいお年を…  映画つれづれ

しばらく更新できず…すみません!

今年は、とくに夏ごろから独立・起業以来最大の仕事上の危機が訪れ、ちょっと大変でした。体調も崩しがちになり、何とか踏ん張っていました。

そんな中で「映画」への気持ちを維持するのが大変で、何度も何度も気持ちをリセットしながら、なんだかもやもやした中で周南映画祭の準備やシネキングの収録に臨んでいました。

「映画」を観る気持ちにもなかなかなれなかった中、やはり僕を救ってくれたのは「映画」でした。とくに、周南映画祭の仲間たち…ゲストに来て頂いた佐々部監督、松田美由紀様、丸山昇一様、長澤監督…そして俊夫様、本当にありがとうございました。

僕は、好きなことに生き、頑張るしか、想いや現状をふっ切ることはできないのだ、と改めて感じました。

そして「映画」そのもの…。苦しい中で観た「ツレがうつになりまして。」「マネーボール」「阪急電車」「RAILWAYS」「僕たちは世界を変えることはできない。」「ミッション・インポッシブル:ゴースト・プロトコル」等々。

やっぱり映画はいい!生きる希望と勇気を与えてくれます。

思えば、幼いころから何度も何度も「映画」に助けられました。そろそろ、「映画」への恩返しをする時期なのかも。来年は、周南映画祭で発表した「松田優作賞」と「長澤雅彦監督による映画製作プロジェクト」が本格的に始動し、ぼくはその中心として頑張っていく決意です。

まだまだ弱い部分もあるので、いろいろな方に御迷惑をおかけするとは思いますが、映画から頂いた「感謝」を胸に、来年の秋には「かたち」にしていきます。商売も、来年は好転させて見せます。

更新してない時期に観た映画については、焦らずに、おいおいレビューを書いていこうと思っています。

それでは、皆様よいお年を!!
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一命  新作レビュー

★★★

三池崇史監督、「十三人の刺客」に続いて手がけたのは、かの大傑作「切腹」(小林正樹監督)と同じ原作小説を映画化した、この「一命」。

「切腹」のリメイクではなく、原作となった小説の二度目の映画化、と宣伝されているが、物語の構成は「切腹」とほぼ同じだ。まあ、確かに語られるテーマ的なところのアプローチは違うが。

この映画を観て、「切腹」はやはり大傑作だったなあ、思う。武家社会、と言うか集団主義の危うさを描いた現代にも通じる見事なテーマ性、仲代達矢、三國連太郎、丹波哲郎ら役者の重厚な演技、意外な物語展開…本当に凄い。

かの黒澤映画を多く手がけた橋本忍の脚本は、娯楽性と社会性を見事に融合させている。そして、その複雑になりがちな物語展開を、小林正樹監督がまた見事に、鮮やかに映像化している。

その「切腹」があるにも関わらず、三池崇史監督は、同じ原作で冒険に挑戦した。そのパイオニア精神は凄い。

この「一命」は、物語展開こそ「切腹」と一緒だが、武家社会の矛盾を突く主人公の行動は根本的な部分で「切腹」の主人公と違う。ここがこの映画の味噌で、三池監督の考えもここにあるのかと思うが、その点から「切腹」とはまた違う印象を観客に与える。

そこはよかった、と思う。ただし、同じ小説を映画化した「切腹」があまりに凄過ぎて、ちょっとかすんだかな、という印象はある。

「十三人の刺客」の工藤栄一監督版オリジナルは、娯楽性に富んだ、巧妙な脚本による、すこぶる面白い時代劇だが、三池監督は、これを面白い物語はそのままに、侍たちが刺客となる動機に現代的なエッセンスを加え、さらに現代的な徹底したアクションを加えることで、オリジナルとはまた別の面白い作品を創り上げた。

しかし、今回の「一命」は、三池監督の特徴を色濃く残しながら、思い切った原作のアレンジはできず、結局は同じテーマ性を内包したがために、「切腹」の呪縛から離れられなかったのかな、という感はあった。

でも、瑛太、満島ひかりは好演。市川海老蔵も熱演している。

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